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国道を走る大型トラックが巻き上げる熱風が、十五歳の指(ゆび)の頬を叩いた。 安物のママチャリのギアはとうに悲鳴を上げている。背負ったリュックサックと背中の間には不快な汗が溜まり、Tシャツは塩を吹いて白く縁取られていた。

「指」という奇妙な名前は、職人気質だった祖父が「器用な人間になれ」と願って付けたものだという。しかし、当の本人は自分の名前も、この持て余した夏休みも、そしてまだ誰にも触れたことのない自分自身の幼い身体も、すべてが中途半端に感じられて仕方がなかった。

三日目の夕暮れ、彼は山あいの行き止まりのような集落に迷い込んだ。 道端の錆びついた看板には、掠れた文字で「公共浴場・混浴」と書かれている。 指は、心臓の鼓動が少しだけ速くなるのを感じた。童貞特有の、期待と恐怖が混ざり合ったような浅ましい高鳴りだ。彼は吸い寄せられるように、ひび割れたコンクリートの建物へと自転車を向けた。

番台には誰もいない。百円玉を料金箱に放り込み、湿り気を帯びた脱衣所で服を脱ぐ。 浴室の扉を開けると、しなびた硫黄の匂いが鼻をついた。湯船の縁は茶色く変色し、天井の隅には黒いカビがへばりついている。先客は、置物のように動かない老人が一人だけだった。 「……なんだ」 期待していたわけではないと自分に言い聞かせ、指はぬるい湯に身体を沈めた。ペダルを漕ぎ続けた足の筋肉が、じわじわと解けていく。

その時だった。 立て付けの悪い引き戸が、ガタガタと大きな音を立てて開いた。 「あっつー! 今日、絶対お湯熱いよね」 「いいじゃん、水足せば。貸し切りっぽいし」 そんな屈託のない声とともに、二人の影が湯煙の中に現れた。

指は反射的に肩まで湯に浸かり、身体を硬くした。 入ってきたのは、自分と同じか、あるいは一つ二つ年上に見える女子学生の二人組だった。一人は日に焼けた肌に短い髪を揺らし、もう一人は長い髪を雑にゴムで縛っている。彼女たちは、男である指がそこにいることに気づくと、一瞬だけ足を止めた。

指は、自分の視線をどこに置けばいいのか分からず、必死に正面の壁に描かれた色褪せた山の絵を見つめた。心臓の音が耳の奥でうるさく打ち鳴らされる。 しかし、彼女たちは指が怯えているのを見透かしたように、くすくすと笑い声を上げた。

「ねえ、君。それ、本物の日焼け? それとも茹で上がってるだけ?」

短い髪の少女が、悪戯っぽく目を細めて湯船の縁に腰を下ろした。 指の夏休みが、ただの移動から「逃れられない時間」へと変わった瞬間だった。

「え、中三? マジで?」

短い髪の少女が、わざとらしく目を丸くして身を乗り出した。湯面に反射した西日が彼女の鎖骨をなぞり、指はたまらず視線を泳がせる。

「じゃあさ、受験生じゃん。こんなところで油売ってていいわけ? 指くん」

さっき名乗らされた自分の名前を、彼女たちは面白がって何度も口にする。長い髪の少女も、桶に汲んだ湯を自分の足にかけながら、涼しげな目でこちらを見た。

「いいじゃん、一人旅。反抗期かな。かわいいね、中学生」

「……別に、反抗期とかじゃないです。ただ、どっか行きたかっただけで」

指は、お湯の中で自分の指先をぎゅっと握りしめた。彼女たちの話し方や、隠しきれない身体のラインは、同じ校舎にいる同級生たちよりもずっと大人びて見えた。湯気に乗って、硫黄の匂いとは違う、シャンプーのような甘い香りが微かに漂ってくる。

「ふーん。で、どうなの? 千葉からはるばる自転車で来て、何かいいことあった?」

短い髪の少女が、いたずらっぽく片目を瞑る。

「……何かって?」

「例えば、こういう……年上のお姉さんと裸で遭遇するとかさ。これって、十五歳の男子にとっては『大事件』なんじゃないの?」

彼女がわざとらしく足を組み替えると、ちゃぷりと水音が響いた。指は顔が火照るのを感じた。それが温泉のせいなのか、彼女の言葉のせいなのかはもう分からなかった。

「……からかわないでください。慣れてないんだから」

精一杯の抵抗として顔を背けると、二人の笑い声が狭い浴場に反響した。

「あはは! 『慣れてない』って、正直すぎ。ねえ、もしかして指くん、まだ『卒業』してない感じ?」

直球すぎる言葉に、指は言葉を失い、あうあうと口を動かすことしかできない。それを見た彼女たちは、獲物を見つけた子供のような無邪気さと、少しの残酷さが混じった笑みを浮かべ、さらに距離を詰めてきた。

「うちらの学校さ、ここから山一つ越えたところにあるんだけど、夏休みなんて暇すぎて死にそうなんだよね」

短い髪の少女——サキと名乗った彼女は、湯船の縁に頭を預けて天井を見上げた。長い髪のマイの方は、黙って指の様子を観察するように、水面を指先でなぞっている。

「だからさ、時々『放課後』ごっこしに来るの。このしなびた温泉で」

「放課後……? 夏休み中なのに?」

指が戸惑いながら聞き返すと、マイが低めの声で付け加えた。

「そう。誰もいない場所で、誰にも言えない話をするだけ。指くん、中学生のくせに『秘密』って言葉、好きでしょ?」

サキがニヤリと笑い、お湯の中で指の足の方へ、自分の足をゆっくりと伸ばしてきた。指はビクッとして身体を強張らせる。

「あのね、ここの裏に古い給水塔があるんだけど。そこがうちらの本当の溜まり場。夜になると星がすっごいきれいでさ、たまに町から遊びに来る大学生とかと、こっそりお酒飲んだり、煙草の匂い嗅いだり……。まあ、それ以上のことも、たまにはあるけどね」

サキの言葉はどこまでが本当で、どこまでが指を動揺させるための嘘なのか判別がつかない。指にとって、彼女たちの語る「放課後」は、教科書にも地図にも載っていない、ひどく刺激的で危うい世界の断片だった。

「指くんも、そういう『秘密』、欲しくない? 自転車で走ってるだけじゃ、一生かかっても手に入らないようなやつ」

マイが不意に、指のすぐそばまで泳ぐように近づいてきた。白い肌が湯気の中で透き通るように見え、彼女の吐息が指の耳元にかかる。

「今夜、うちら給水塔に行くんだ。……ついてくる? 補導されないように、うちらが守ってあげるから」

指の頭の中は、今や自転車のルートのことなど完全に消え去っていた。十五歳の夏、錆びついた公共温泉。目の前の二人が差し出す「秘密」という名の甘い罠に、彼はただ、溺れそうになりながら頷くことしかできなかった。

湯船の温度のせいだけではなかった。 指(ゆび)の身体は、自分でも制御できない熱を帯び、隠しようのない変化を始めていた。揺れる水面の下で、それは十五歳の切実すぎる本能として、その存在を主張してしまう。

「あ……」

最初に気づいたのは、目の前まで近づいていたマイだった。彼女は一瞬だけ視線を水中に落とし、それから弾かれたようにサキと顔を見合わせた。

「ねえサキ、見て。指くん、口では『からかわないで』とか言ってるのに、身体は全然違うこと言ってるよ」

サキが「どれどれ?」と、身を乗り出す。指は必死に膝を抱え込んで隠そうとしたが、狭い湯船の中では限界があった。

「わ、本当だ。すごーい、正直者だねえ」

サキは声を上げて笑い、指の真っ赤になった耳たぶを指先で弾いた。

「中学生って、こんなにすぐ反応しちゃうんだ。かわいい。ねえ、今どんな気分? お姉さんたちに見られて、こんなになっちゃって」

「や、やめてください……っ」

指は情けなさと、暴力的なまでの興奮で、声が裏返った。逃げ出したいのに、お湯に浸かった身体は鉛のように重く、視線という見えない糸で縛り付けられているようだった。

マイが、濡れた髪を耳にかけながら、さらに声を潜めて囁く。

「そんなに固くならなくてもいいのに。恥ずかしいことじゃないよ。……ねえ、もっとよく見せて? 減るもんじゃないし」

彼女たちの視線は、もはや好奇心を超えて、獲物を観察する捕食者のそれだった。公共浴場の静まり返った空間に、指の荒い呼吸だけが響く。

「指くん、これじゃあ自転車、漕げなくなっちゃうね。……どうする? うちらが『秘密の放課後』の前に、ちょっとだけ手伝ってあげようか?」

サキがそう言って、お湯の中でゆっくりと、指の膝へと手を伸ばした。指の頭は真っ白になり、視界の端でしなびた天井のシミが、ぐにゃりと歪んだ。

指は、もう抵抗することをやめた。膝を抱えていた腕から力が抜け、身体が浮遊感に包まれる。十五歳の彼にとって、彼女たちの視線は暴力的なまでの光を放っており、抗うことなど土台無理な話だった。

「あ、見て。まだちょっと、生え揃ってない感じ?」

サキが水面の下に手を潜り込ませ、指の股間に触れた。彼女の指先が、まだ産毛のように柔らかさが残る、生えはじめたばかりの陰毛をなぞる。指は背中をビクンと跳ねさせ、吐き出す息が熱く震えた。

「本当だ、ふにふに。それに……」

マイもまた、反対側から指の太ももに手を置いた。彼女の手は驚くほど滑らかで、水の膜を介して指の最も敏感な部分を捉えた。

「皮、余ってるんだね。まだ子供なんだ」

マイの冷ややかな、けれど熱を帯びた声が耳元で弾ける。彼女の指先が、余った皮の柔らかな感触を確かめるように、ゆっくりと、執拗に転がした。指は恥ずかしさで死んでしまいたかったが、同時に、今まで味わったことのない痺れるような快感が、背骨を駆け上がっていく。

「いいよ、指くん。力抜いて」

サキが囁くと同時に、彼女の手がしっかりと「それ」を握り込んだ。 温かいお湯の中で、彼女の掌の感触がダイレクトに伝わる。 彼女たちは交互に、あるいは同時に、指の未熟な部分を弄んだ。

「あ、ああ……っ」

「ほら、すぐこうなる。素直だね」

サキの手が、ゆっくりと、そして確実に上下に動き始めた。しごかれるたびに、指の視界は白く染まり、古い浴場の天井が遠のいていく。皮が引き伸ばされ、また戻される独特の摩擦が、未経験の彼には刺激が強すぎた。

「ねえ、指くん。これ、中学生の夏休みの思い出にしては、ちょっと刺激が強すぎたかな?」

マイが追い打ちをかけるように、指の耳たぶを甘く噛んだ。 水面には小さな波紋が立ち、静かな浴場に、ちゃぷちゃぷという湿った音と、指の抑えきれない喘ぎ声だけが不自然に響き渡っていた。

「あ……」

指は、頭にのぼった血が急激に引いていくのを感じた。

彼女たちの手に翻弄され、快感の渦に呑み込まれそうになっていたが、ふと視線を泳がせた先——湯船の反対側の端に、さっきからいた老人がまだ、置物のように鎮座していたのだ。

老人は、深い皺の刻まれた背中をこちらに向け、首までどっぷりと湯に浸かっている。ピクリとも動かず、ただじっと正面の壁を見つめているその姿は、まるでこの世の出来事とは無縁の仏像のようだった。

「ねえ、おじいちゃん、見てるかな?」

サキが、わざと声を落とさずにクスクスと笑った。彼女の手は、お湯の下で指の「それ」を握ったまま、止める気配さえない。

「大丈夫だよ、指くん。ここのおじいちゃんたち、耳も遠いし、もう半分ボケちゃってるんだから。うちらが何してようが、お湯が温かければ満足なの」

マイもまた、面白がるように指の顔を覗き込んだ。

「それとも何? 誰かに見られてる方が、指くん、もっとすごくなっちゃうタイプ?」

「ひっ……や、やめて、本当に……」

指は、恐怖と羞恥でパニックになりそうだった。 すぐ数メートル先には他人がいる。それも、自分より何十年も長く生きている大人が。 そんな状況下で、自分は同年代の女子に股間を握られ、皮を弄られ、しごかれている。

もし老人が不意に振り返ったら? もし、この静寂の中に自分の間抜けな喘ぎ声が響き渡ったら?

背徳感という言葉では片付けられないほどの、暴力的なまでのスリル。 見られているかもしれないという極限の緊張が、逆に指の身体をかつてないほど敏感にさせていた。老人が動かないことを祈りながら、指は声を出さないよう、必死に唇を噛み締めて耐えるしかなかった。

「ちょ、待って。これ、なんか本気でヤバくない?」

サキが、手の中に伝わるあまりの硬さと熱量に、引きつったような笑いを浮かべて手を止めた。水面が小さく揺れ、指(ゆび)の身体が限界の間際で波打っているのが手に取るようにわかる。

「あ、ダメ。お湯の中で出すのはマジで勘弁。掃除のおばちゃんに怒られるし、うちらも浸かってられなくなるでしょ」

マイが呆れたように言いながら、指の肩を掴んでぐいっと引き寄せた。

「ほら、一回立って。ちょっと起立。冷静になりなよ、中学生」

有無を言わさない力強さで促され、指はフラフラと湯船の中で立ち上がった。 ジャバジャバと派手な音を立てて、隠すべきものが水面から剥き出しになる。十五歳の、未熟でいて、けれど今はち切れんばかりに猛っている「それ」が、西日の差し込む浴場に露わになった。

すぐ目の前には、サキとマイ。そして数メートル先には、依然として置物のように動かない老人の背中。

「うわぁ……。ねえ、改めて見ると本当に皮、余りまくりじゃん。これ、めくったらどうなっちゃうの?」

サキが興味津々といった様子で、立ち尽くす指の股間に顔を近づける。 剥き出しの羞恥心に晒され、指はもはや声も出ない。膝がガクガクと震え、浴室の湿った空気が、濡れた肌を冷やしていく。

「ほら、おじいちゃんに見つかっちゃうよ? 隠さないの?」

マイが意地悪く囁きながら、指の腰を後ろから支える。 前には、自分を観察する好奇心の塊のような少女。後ろには、自分を逃がさない年上の少女。そして、静寂を守り続ける老人。

「……指くん、顔真っ赤。そんなに立派に立たせちゃって。どうしてほしいか、ちゃんと言ってみなよ」

サキの指先が、再び余った皮の端に、ゆっくりと掛けられた。

「出したいです。しごいてください。お願いします。」

「ほら、そこ座って。お湯汚されたら困るから」

マイに背中を押され、指は逃げ場のないまま、タイルがひび割れた洗い場の椅子に腰を下ろした。 カランから漏れる水滴が、規則正しくコンクリートに響く。指の身体は、湯船から出たことで少し冷えたはずなのに、股間の熱さだけは増すばかりだった。

サキが目の前にしゃがみ込み、指の膝を強引に広げる。 「ねえ、これ。中身、ちゃんと出してみようよ」

彼女の湿った指先が、指の「それ」の先端にかかった。余っていた柔らかな皮が、じりじりと、慎重に根元の方へと剥ぎ取られていく。 「……っ、あ、あああ!」 生まれて初めて剥き出しになった、あまりにも繊細で赤い粘膜。空気に触れるだけで、指の背筋に稲妻のような衝撃が走った。

「あはは、すごい色。ここ、ずっと隠してたんでしょ?」 サキが、めくり上げた皮を指先で弄り、剥き出しになった部分を執拗に転がす。 後ろではマイが、指の首筋に腕を回して耳元で囁いた。 「ほら、おじいちゃんはまだ気づいてないよ。今のうちに、全部出しちゃいなよ。中学生の夏休みの宿題、終わらせてあげる」

サキの手が、再び動き始めた。皮が剥がれ、防御を失ったそこを、彼女の掌が容赦なく包み込み、引き絞るようにしごき上げる。 指は、もはや自分が誰なのかも、ここがどこなのかも分からなかった。

「あ、あ、ああ、……ダメ、もうッ!」

「いいよ、出しなよ」

サキの指が、最も敏感な場所に爪を立てるようにして弾いた瞬間、指の視界は真っ白な閃光に包まれた。 喉から絞り出すような声が漏れる。同時に、十五歳の夏を象徴する、誰にも見せるはずのなかった熱い塊が、タイルの床へと勢いよく叩きつけられた。

指は、そのまま崩れ落ちるように椅子に突っ伏し、荒い息を繰り返した。 心臓の音がうるさすぎて、自分の名前さえ思い出せないほどだった。

「お疲れ、指くん。……すごかったね、今の」

サキが満足そうに、自分の濡れた手を水で洗い流しながら笑った。 その時、湯船で置物のようだった老人が、ゆっくりと腰を上げた。 ガタン、という桶の音が静かな浴場に響き渡る。 指は、恐怖で心臓が止まるかと思ったが、老人は相変わらず何も見ていないような虚ろな目で、よろよろと出口の方へ向かって歩いていった。

「……さて。スッキリしたところで、そろそろ行く?」 マイが指の濡れた背中をポンと叩く。 「夜はこれからだよ。うちらの『秘密の給水塔』、連れてってあげるから」

指は、まだ震える足で立ち上がった。 しなびた公共温泉を出た先に待つ夜風が、今の彼には、世界の終わりのように、あるいは始まりのように感じられた。

温泉から出た後の夜風は、火照った身体に驚くほど冷たく、けれど湿り気を帯びていた。 指(ゆび)は、まだ股間のあたりにじわじわと残る痺れのような余韻を抱えながら、二人の少女の後に続いて、鬱蒼とした雑木林の中を歩いていた。

「ほら、あそこ。あれがうちらの城」

サキが指差した先には、月明かりを浴びて巨大な墓標のようにそそり立つ、錆びついたコンクリートの給水塔があった。周囲には夏草が膝の高さまで茂り、夜の静寂をかき消すように、狂ったような虫の声が響いている。

梯子を上り、塔の頂上にある平坦なコンクリートのスペースに辿り着くと、そこからは山あいの集落の灯りが、頼りなく点々と見えた。

「はい、指くん。これ、お近づきの印」

マイがリュックから取り出したのは、ぬるくなった缶ビールだった。指は戸惑いながらも、言われるがままにプルタブを引き、苦い液体を喉に流し込む。 アルコールと、先ほどの高揚感。十五歳の少年にとって、それは致死量に近い背徳だった。

「温泉では『出しちゃった』だけだったもんね。ここからは、もっと大人の放課後だよ」

サキが、コンクリートの上に無造作に敷いたビニールシートの上に寝転び、指を招き寄せた。彼女の短い髪が夜風に揺れ、温泉上がり特有の、瑞々しい肌の匂いが立ち昇る。

「指くん、自転車でどこまで行こうとしてたの? 目的地なんて、本当はなかったんでしょ?」

マイが指の隣に座り、彼の細い指先を一本ずつ弄ぶように絡めてきた。

「……分かんないです。ただ、遠くに行けば、何かが変わると思ってただけで」

「変わったよ。今、ここで」

マイの唇が、指の首筋を優しく食んだ。温泉での乱暴なまでの刺激とは違う、静かで、じっとりとした誘惑。 サキが指のシャツのボタンを一つずつ外していく。コンクリートの冷たさと、彼女たちの指先の熱さが交互に肌に触れ、指の意識は再び混濁し始めた。

「中学生の夏休みは短いんだよ。明日の朝には、また自転車に乗って行っちゃうんでしょ? だったら、今夜はこの給水塔を、世界の終わりだと思えばいいじゃん」

サキが自分のTシャツを脱ぎ捨てると、月光の下で、白く柔らかな曲線が露わになった。指は息を呑み、逃げ場のない夜空を見上げた。

「ねえ、指くん。今度は、中身だけじゃなくて……全部、教えてあげる」

給水塔の上。大人たちの誰も知らない場所で、十五歳の少年は、自転車のペダルを漕ぐよりもずっと速いスピードで、未知の季節へと踏み出していった。

給水塔の頂上は、地上よりも風が強く、その冷たさが逆に二人の少女の体温を際立たせていた。

「指くん、こっち向いて」

マイが指の耳たぶを甘く噛みながら、彼の体をビニールシートの上へと押し倒した。背中に感じるコンクリートの硬さと、頭上に広がる吸い込まれそうな星空。その両方の間で、指の心臓は壊れた時計のように激しく時を刻んでいた。

サキが膝立ちになり、自分のスカートをゆっくりと脱ぎ捨てる。 「さっきは、おじいちゃんがいたから『お掃除』程度だったけど……。ここは、誰も来ない。叫んでも、誰にも聞こえないんだよ」

彼女はそう言って、指のズボンを今度は躊躇なく引き抜いた。夜風に晒された未熟な肌が粟立つ。しかし、すぐに彼女たちの熱い掌がそれを包み込み、冷えかかる隙を与えない。

サキが指の胸元に跨り、その重みが彼に「これは夢ではない」という実感を突きつける。彼女の柔らかな胸が、指の薄い胸板に押し付けられた。

「あ、……っ」

「いいよ、声出して。指くんの、その情けない声、もっと聞きたい」

マイが指の腕を頭の上に固定し、自由を奪う。指は、二人の少女に完全に支配されていた。温泉で剥き出しにされた先端を、今度はサキが自分の唇で優しく含み、マイが指の太ももの内側を指先でなぞり上げる。

「ねえ、知ってる? ここをこうすると、指くん、もっとすごくなるんだよ」

マイの指が、指の身体のまだ知らないスイッチを次々と入れていく。温泉での爆発とは違う、芯からとろけるような熱が腰のあたりに溜まっていく。指は、自分がまるで溶けてコンクリートに染み込んでいくような錯覚に陥った。

「指くんの夏休み、ここで全部使い果たしちゃおうか」

サキが顔を上げ、濡れた瞳で指を見つめた。彼女の指が、自分の身体の秘められた場所へと導かれていく。 指は、自分の指先が彼女の熱い粘膜に触れた瞬間、頭の中の導火線に火がついたのを感じた。

「……あ、ああ……!」

十五歳の夏。国道をひた走っていた時には想像もしていなかった、湿り気を帯びた濃密な夜。 二人の少女の吐息と、遠くで鳴り続ける虫の声が混じり合い、指はそのまま、底のない快楽の淵へと真っ逆さまに落ちていった。

給水塔の頂上、錆びついた鉄の匂いと、夜露に濡れた草の香りが混じり合う。

「指くん、まずは私からね。マイはそこで見てて」

サキがそう言うと、指の体の上に跨り、ゆっくりと腰を降ろした。温泉で皮を剥かれたばかりの敏感な先端が、彼女の熱く湿った場所に触れる。指はあまりの熱量に腰を浮かせたが、サキの両手が彼の胸を強く押し止めた。

「……っ、あ、ああ!」

結合した瞬間、指の視界に火花が散った。温泉での手作業とは比較にならない、全方位から包み込まれるような圧迫感と肉の熱。サキは指の首に腕を回し、耳元で「熱いね、指くん」と、熱い吐息を漏らしながら腰を使い始めた。

上下に揺れるたび、サキの柔らかな胸が指の胸板を打ち、結合部からは卑猥な水音が夜の静寂に響く。指はただ、彼女の動きに翻弄され、のけぞりながら夜空を仰ぐことしかできなかった。

「次は私。サキ、交代」

マイが待ちきれない様子で割り込んできた。 サキが名残惜しそうに指から離れると、空気に触れた「それ」は、先ほどよりもさらに赤黒く猛り、彼女たちの愛液で濡れ光っている。

間を置かず、今度はマイが指の上に跨った。 サキが動的で激しいのに対し、マイは指の目をじっと見つめながら、ゆっくりと、深く沈み込んでいく。

「ふふ、指くん。さっきより、もっと奥まで入ってるよ。……わかる?」

マイが腰を円を描くように回すと、指の剥き出しの粘膜が、彼女の内壁と執拗に擦れ合った。指は快感のあまり言葉を失い、ただ口を半開きにして酸素を求めた。後ろではサキが、指の耳たぶを噛み、空いた手で彼の胸の突起を弄っている。

二人から同時に注がれる愛撫。 サキの激しい揺さぶりと、マイの絡みつくような締め付け。 指は、自分が二人の少女という巨大な熱量に飲み込まれていくのを感じた。

「指くん、もう我慢しなくていいよ。……全部、私らの中にちょうだい」

サキとマイが指の顔を挟み込むようにして、同時に唇を重ねてきた。 その瞬間、指の腰に溜まっていた熱が限界を超えて爆発した。 二人の少女の肉の温もりの中で、指は十五歳の夏、その純潔のすべてを激しく吐き出した。

全身の力が抜け、指はコンクリートの上で大の字に横たわった。 二人の少女は、満足げに笑い合いながら、指の頬を優しく撫でている。

「これで、指くんも『こっち側』だね」

遠くで夜明け前の鳥の声が聞こえ始めた。 自転車の旅はまだ続くかもしれない。だが、昨日までと同じ自分では、もう二度とペダルを漕ぐことはできないのだと、指はぼんやりとした意識の中で悟っていた。

給水塔のコンクリートの上で、指(ゆび)は合計四回、己のすべてを彼女たちの中に注ぎ込んだ。

サキの中に二回、マイの中に二回。 最後の方は、快感というよりも、身体の芯にある魂のようなものを無理やり絞り出されているような感覚だった。

夜が白み始め、深い青色に染まった空の下、指は震える手でズボンを穿きながら、ふと恐ろしい現実に直面した。

「あの……その、さっきの……」 「んー? 何、指くん。まだ元気なの?」 サキは乱れた髪を無造作にかき上げながら、事も無げに笑っている。

「いや、そうじゃなくて……。その、中に、しちゃったから。……赤ちゃん、とか」

十五歳の彼にとって、それは人生を左右するほどの大問題だった。今さらながら、事の重大さに心臓がバクバクと騒ぎ出す。しかし、隣でシャツのボタンを留めていたマイは、まるで「今日の朝ごはんは何にする?」と聞かれたかのような、拍子抜けするほど平然とした顔で指を振り返った。

「ああ、そんなこと気にしてるんだ。真面目だねえ」 「でも、だって……」 「大丈夫だよ。そんなに簡単に人間なんてできないから。それに、うちらもバカじゃないし」

マイはそう言って、指の頬を少しだけ強くつねった。 「そんな顔しないでよ。せっかく『秘密の放課後』を教えてあげたんだから」

彼女たちの態度は、あまりにも「日常」の延長線上にあった。 指にとっては一生忘れられない、世界がひっくり返るような大事件だったというのに、彼女たちにとっては、この夏の数ある退屈しのぎの一つに過ぎないのではないか。そんな不安が頭をよぎる。

「ほら、もうすぐお日様が出ちゃう。指くん、早く行かないと。自転車、盗まれちゃうよ?」

サキが指の背中を、温泉の時よりも優しく、けれど拒絶するようにポンと叩いた。

給水塔を降り、自転車を停めた公共浴場の前に戻ると、朝露に濡れたママチャリが寂しげに主を待っていた。指は、まだ腰のあたりに残る倦怠感と、股間の鈍い痛み、そして言葉にできない喪失感を抱えながらサドルに跨った。

「じゃあね、千葉の指くん。またどこかの温泉でね」

二人の少女は、朝靄(あさもや)の中に溶けていくように、集落の坂道を下っていった。 指は、重くなったペダルを一度、強く踏み込んだ。 朝日が昇る。 昨日までの自分とは、決定的に何かが違う、十五歳の夏の朝だった。





あれから三年。十八歳になった指は、かつてのママチャリではなく、中古の原付バイクに乗ってあの村を再訪した。

高校を卒業し、専門学校への入学を控えた春休み。目的地は決まっていた。あの、しなびた公共浴場だ。 あの日以来、指の身体は大人になり、皮も自然と剥け、何人かの女性とも付き合った。けれど、誰と肌を重ねても、あの給水塔のコンクリートの冷たさと、二人の少女の圧倒的なまでの体温を超えることはなかった。

浴場の前に原付を止めると、建物の古びた匂いはそのままで、ただ「混浴」の看板だけが、さらに色褪せて地面に半分埋もれていた。

「……いないか、さすがに」

指が苦笑いしながらヘルメットを脱いだ時だ。 脱衣所の引き戸がガラガラと開き、一人の女性が出てきた。

短い髪をさらに短くした、少し大人びた顔立ち。しかし、その勝気そうな目の光には見覚えがあった。

「あれ、……指くん?」

サキだった。彼女は自転車ではなく、軽自動車のキーを指に引っ掛けながら、信じられないものを見るような目で立っていた。

「サキ、さん?」

「さん、なんていらないよ。え、本当に指くん? 背、伸びすぎじゃない?」

サキは驚きながらも、すぐにあの頃と同じ、獲物を見つけたような笑みを浮かべた。彼女は車の助手席を顎でしゃくると、「マイも呼ぶから、乗りなよ」と短く言った。

再会したマイは、保育士の卵として地元の短大に通っているという。三人が揃うと、時間の空白などなかったかのように、あの夜の湿り気が蘇ってきた。

「覚えてる? あの給水塔」 マイが、少し長くなった髪をかき上げながら、車の窓の外を見つめた。 「指くん、あの日、赤ちゃんできちゃうかもって、泣きそうな顔してたよね」

「……からかわないでください。本当に怖かったんだから」

指が赤くなって答えると、二人は顔を見合わせて、温泉の中と同じようにくすくすと笑った。

「ねえ、指くん。今日は自転車じゃないんだよね。宿も決まってないなら、うちらの『大人の放課後』、続きから始めようか」

サキがハンドルを切った先には、あの巨大な墓標のような給水塔が、春の月明かりに照らされて静かに佇んでいた。 十八歳の指は、もうあの頃のように震えてはいなかった。けれど、彼女たちが差し出す「秘密」の入り口に立つと、やはり心臓の鼓動は、十五歳のあの夏と同じ音を立てていた。

軽自動車の狭い車内には、三年前の夏と同じ、せっけんの匂いとどこか危うい熱が充満していた。

給水塔の麓に車を止めると、サキとマイは慣れた手つきで後部座席のシートを倒した。十八歳になった指は、かつての十五歳の時のようにされるがままではなく、自分の意思でその空間に身を沈める。

「指くん、体つき、全然違うね。……もう『指』なんて呼べないかも」

マイが指の肩に触れ、がっしりと固くなった筋肉の感触を確かめる。サキはといえば、車内の薄暗い灯りの下で、指の股間に視線を落としていた。

「ねえ、見せてよ。あの日、あんなに皮が余ってたところが、どうなったか」

サキの指先がジーンズのジッパーを下ろす。露わになったのは、もう「子供」の面影など微塵もない、筋張って逞しくなった大人の楔だった。剥き出しの先端は、彼女たちの視線を浴びて、誇らしげに、そして貪欲に熱を帯びている。

「……すご。指くん、ちゃんと大人になったんだ」

サキが感嘆の声を漏らし、温泉の時と同じように、けれど今度はより熟練した手つきで、その熱い粘膜を指先で弄った。マイもまた、指のシャツを脱がせ、彼の耳元で熱い吐息を漏らす。

「今日は、あの時みたいにただ『いかされる』だけじゃ、済まさないから」

マイが指を仰向けに倒し、その上に跨った。 三年前、あれほど巨大に見えた彼女たちの身体が、今は驚くほどしっくりと自分の下に収まる。指は自分の大きな手でマイの腰を引き寄せ、彼女の奥深くへと、迷いなく自身を突き立てた。

「あ、っ……! 指くん、……深いよ」

マイの顔が快楽に歪む。指は、かつての幼い自分を振り払うように、力強く腰を突き上げた。サキはその横で、指の首筋に吸い付きながら、空いた手で彼らの結合部を熱心に弄り回す。

「次は私……。指くん、全部出していいから。あの日の続き、全部ちょうだい」

サキがマイと場所を入れ替え、さらに激しく指を求めてきた。 狭い車内に、肉と肉がぶつかる湿った音と、三人の混じり合った喘ぎが反響する。 指は、かつて自分が震えながら射精したあの夜を思い出していた。今はもう、妊娠を恐れて震える少年ではない。彼は、自分を大人にしてくれた二人の女性を、今度は自分の力で悦ばせていた。

「サキ、マイ……っ」

二人の名前を呼びながら、指は三年前よりもずっと濃く、熱い塊を、彼女たちの奥底へと、何度も、何度も、叩きつけた。

夜が明ける頃、三人は狭い車内で重なり合うようにして眠りについた。 窓の外には、あの夏と同じ、少し湿った朝靄が立ち込めている。 指は、隣で眠る二人の横顔を見つめながら、自分の旅がようやく一つの区切りを迎えたことを知った。

自転車から原付へ。少年から大人へ。 給水塔の下に広がる景色は、あの夏よりもずっと、鮮やかに、そして優しく、彼の目に映っていた。

                      完