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「……動かねーな」

**指(ゆび)**は、納車されたばかりの型落ちのセダンで、高速道路のど真ん中に閉じ込められていた。19歳。大学一年の夏休み。バイト代を注ぎ込んだこの中古車は、彼にとって「童貞卒業への特急券」のはずだったが、現実は無慈悲な事故渋滞。

エアコンの効きが悪い車内。ジリジリと照りつける太陽。やることがない。 スマホをいじるのも飽きた指は、ふとした魔が差した。密室、孤独、そして退屈。

彼はズボンのチャックを下ろし、**「あれ」**を引っ張り出した。 自慰をしようというわけではない。ただ、手に触れるその確かな感触が、このやり場のない停滞感を紛らわせる唯一の慰めのように思えたのだ。ぬるい空気の中で、自分の体の一部を無意識に愛でる。

コン、コン。

窓を叩く音に、指の心臓が口から飛び出しそうになった。

「ひ、ひゃい!?」

慌ててブツをしまい込み、チャックを上げた。 横を見ると、フルフェイスのヘルメットを被ったライダーが立っている。黒い革ジャケットに身を包んだシルエットは、男か女かも判別がつかない。ライダーは指を指すと、そのまま前方の路肩を指差し、「ついてこい」と手招きした。

「怒られる……? さっきの、見られたのか?」

血の気が引いたまま、指は言われるがままに車を動かした。渋滞の列を抜け、ライダーに導かれるようにして、すぐ先のパーキングエリアの隅っこへと誘導される。

車を停め、震える手でエンジンを切る。 ライダーはバイクをサイドスタンドで立てると、ゆっくりとヘルメットに手をかけた。


カパッ、とヘルメットが脱げた。

中から溢れ出したのは、艶やかな、驚くほど綺麗な黒の長髪だった。 現れたのは、指よりもいくつか年上に見える、意志の強そうな瞳をした綺麗な女性だ。彼女は汗ばんだ首筋を拭いながら、呆れたような、それでいて少し面白がっているような表情で指の運転席を覗き込んだ。


「……ねえ、君」

彼女は窓越しに、指の股間のあたりをチラリと見てから、不敵に笑った。その視線は、つい数十秒前まで彼がそこで何をしていたかを確信しているようだった。指は顔から火が出るほど赤くなり、開けた窓から入ってくる生温い風すら直視できない。

彼女はバイクを降りると、長い足を優雅に運んで、パカッと指の車の助手席のドアを開けた。許可も得ずに乗り込んできた彼女からは、革ジャンの匂いと、少しだけ甘い香水の香りが混じった大人の匂いがした。

「そんなに顔を真っ赤にしなくてもいいじゃない。退屈なのはわかるし、男の子だもんね」

彼女はダッシュボードに肘をつき、指の横顔をまじまじと見つめた。指はといえば、ハンドルを握る手が震え、今にもエンストしそうなほど動揺している。中古の古いシートに、不釣り合いなほど美しい長髪の女性が座っているこの状況が、まるで白昼夢のようだった。

「私はレイカ。君、名前は?」

「……ゆび、です」

「指? 変な名前。でも、さっきの器用な動きにはぴったりかもね」

レイカと名乗った彼女は、いたずらっぽく片目を瞑った。指はもう、消えてしまいたいという羞恥心と、隣から漂う圧倒的な「女」の存在感の間で、爆発しそうになっていた。

「渋滞、まだ一時間は動かないわよ。私、バイクの調子がちょっと悪くてね。エンジンが冷めるまで、涼しい車内で休ませてくれない?」

彼女はそう言うと、窮屈そうに足を組み替えた。その拍子に、革のパンツがキュッという音を立てる。19歳の童貞にとって、それはあまりに刺激が強すぎる音だった。指はただ、黙って頷くことしかできなかった。

これからこの閉ざされた車内で、レイカと過ごす濃密な時間が始まろうとしていた。

「この車、冷房あんまり効かないねえ。……ねえ、ちょっと脱いでもいい?」

レイカは首筋に張り付いた髪をかき上げながら、そう切り出した。指は「あ、はい」とも「えっ」ともつかない妙な声を漏らし、慌ててエアコンのつまみを最大まで回した。古いコンプレッサーが、悲鳴のような音を立てて生ぬるい風を吐き出す。

彼女は返事も待たずに、革ジャケットのジッパーに手をかけた。ジリジリという金属音が、静まり返った車内に不自然なほど大きく響く。指は前方のフロントガラスを見つめたまま、視線を固定することに必死だった。けれど、視界の端では、厚手の黒い革が左右に割れ、その下から白い肌と薄いタンクトップが露わになっていくのがはっきりと見えてしまう。

「ふう、死ぬかと思った。この時期のライダースは自殺行為ね」

脱ぎ捨てられたジャケットが後部座席に放り投げられる。隣に座る彼女の肩は驚くほど華奢で、タンクトップの細い肩紐が、浮き出た鎖骨に食い込んでいる。今までモニター越しでしか見たことのなかった「本物の女性」の質感が、わずか数十センチの距離に存在していた。

レイカはそのまま、Tシャツの裾をパタパタと仰いで風を中に送り込んだ。そのたびに、車内の狭い空間に彼女の体温と、少し強くなった香りの粒子が充満していく。

「指くん、そんなに固まらなくていいわよ。……それとも、さっきのを邪魔されたの、まだ根に持ってる?」

彼女は顔を近づけてくると、上目遣いで指を覗き込んだ。至近距離で見つめられた瞳の奥に、自分の情けない顔が映っている。指の膝の上では、隠したはずの衝動が、またじわりと熱を帯び始めていた。

「あ、あの、根に持ってるとか、そんなんじゃなくて……」

「じゃあ、どっち? 暑いのと、恥ずかしいの」

「悪いけど、下も脱ぐわね。汗で張り付いちゃって、もう限界」

レイカはそう言うと、狭い助手席で器用に体をひねらせた。指は心臓が口から飛び出しそうな勢いでバクバクと鳴るのを感じ、ハンドルを握る手にぐっと力を込めた。

彼女はまず、エンジニアブーツのバックルを外し、片方ずつ床に脱ぎ捨てた。コトン、と軽い音が車内に響く。続いて、タイトな革のスラックスのボタンに指がかけられた。ジッパーが下がる低い音が、指の耳にはまるで雷鳴のように大きく聞こえた。

レイカは腰を浮かせ、密着していた革を剥ぎ取るようにして下へとずらしていく。擦れる音が止み、彼女が丸めたスラックスを後部座席に放り投げたとき、指の視界には眩しいほどの脚が飛び込んできた。

革の下に隠されていたのは、驚くほど短いデニムのショートパンツだった。引き締まった太ももが、中古車のくたびれたシートの上で大胆にさらけ出されている。

「はぁ、生き返った……。やっぱり夏はこれじゃないとね」

彼女は解放感に満ちた表情で、長く白い脚をダッシュボードの上に投げ出した。ショートパンツの裾から覗く柔らかな肌の質感に、指はどこに目を置いていいのか完全にパニックに陥っていた。

「指くん、顔が真っ赤どころか、紫になってるわよ? ……そんなに女の子の生脚、珍しい?」

レイカは面白がるように、自分の太ももをパチンと叩いた。その肉感的な音が、狭い車内に妙に生々しく響き渡る。彼女はそのまま、脚を組むようにして指の方へと体を向けた。

「せっかくの密室なんだし、もっとリラックスしなよ。渋滞、全然進む気配ないんだから」

彼女の膝が、指のシフトレバーを握る手に、熱を帯びたままかすかに触れた。

「ねえ、指くん。ちょっとお願いがあるんだけど」

レイカはダッシュボードに乗せていた脚を下ろすと、少し困ったような、それでいて甘えるような声を出した。

「飲み物と、なんか食べるもの買ってきてくれない? 私、見ての通り靴を脱いじゃったし、あんな重たいブーツをもう一度履く元気、今の私にはないわ」

彼女は床に転がったエンジニアブーツを爪先でちょんと突き、それから上目遣いで指を見た。

「ここからだと、あそこの売店まで歩いてすぐでしょ? 私はこの涼しい車内で、お留守番してるから。……あ、もちろん私のおごり。これで好きなもの買ってきて」

レイカはそう言って、脱ぎ捨てた革ジャケットのポケットから千円札を数枚取り出し、指の膝の上に置いた。彼女の指先が、一瞬だけ指の太ももに触れる。その熱が、デニム越しに電気のように伝わった。

「冷たいお茶と、あと……お腹に溜まるものがいいな。指くんのセンスに任せるわ」

指は、膝の上の千円札を握りしめた。19歳の彼にとって、年上の、しかも今まさにショートパンツ姿で隣に座っている美女からの頼み事は、絶対的な命令に等しかった。

「わ、わかりました! 行ってきます!」

「ふふ、いいお返事。待ってるわね、指くん」

レイカはシートに深く背中を預け、まるで自分の車であるかのようにくつろぎ始めた。指は逃げるように車外へ飛び出した。外の熱気が全身を包み込むが、それ以上に、車内のあの濃密な空気と彼女の白い脚の残像が、彼の頭をクラクラさせていた。

彼は小走りで売店へと向かいながら、必死に呼吸を整えようとした。しかし、戻った後のことを考えると、さらに鼓動は速くなるばかりだった。

指が売店で何を選び、車に戻ったときに彼女がどんな顔で待っているのか、想像するだけで手汗が止まらなかった。

売店までの道のりは、まるでフワフワした雲の上を歩いているようでした。指は自動販売機の前で迷いに迷った末、キンキンに冷えた緑茶を二本と、腹持ちの良さそうなミックスサンドイッチ、それに少し甘いチョコレートの菓子パンを抱えて車へと急ぎました。

「……ただいま、戻りました」

恐る恐る運転席のドアを開けると、車内の空気はさらに彼女の香りで満たされていました。レイカはシートを少し倒し、目を閉じて休んでいましたが、指の声に気づくと「おかえり」とゆっくり目を開けました。

「意外と早かったわね。ありがとう、喉カラカラだったの」

彼女は指から冷たいお茶を受け取ると、結露したペットボトルを自分の火照った首筋に当てて「冷たっ」と小さく声を上げました。その仕草一つ一つが、指には映画のワンシーンのように刺激的でした。

「指くんも食べなよ。渋滞、まだ当分動きそうにないし」

彼女は器用にサンドイッチのパッケージを開けると、一切れ摘んで自分の口に運び、もぐもぐと咀嚼しました。そして、ふと思いついたように、もう一切れを指の方へ差し出してきたのです。

「はい、運転手さんの分。あ、手、ハンドル握ってて汚いかもしれないから……はい、あーんして?」

「えっ、あ、いや、自分でお箸とか……あ、箸じゃない、自分で食べます!」

「いいから。ほら、あーん」

彼女の白い指先に挟まれたサンドイッチが、指の唇のすぐそばまで迫ります。断る勇気なんて、今の彼には一ミリも残っていませんでした。指は震えながら、ゆっくりと口を開けました。

彼女の指先がかすかに唇に触れ、マヨネーズの味と一緒に、言いようのない緊張感が全身を駆け抜けました。

「おいしい?」

レイカは満足そうに微笑むと、今度は自分の飲みかけのお茶を指の口元に持っていきました。

「お茶も飲む? 口の中パサパサでしょ?」

それは、19歳の童貞が一度に受け止めるにはあまりに過剰な、甘い洗礼でした。

指は言われるがまま、彼女が差し出したペットボトルを口に含みました。彼女の飲み口に自分の唇が重なる。その事実だけで、頭の中のヒューズが飛びそうでした。

「……ぷはっ。ごちそうさまです」

「いい食べっぷり。指くん、見てて飽きないわね」

レイカはくすくすと笑いながら、空いた手で指の耳たぶをひょいとつまみました。指はビクッと肩を震わせましたが、逃げる場所などどこにもありません。狭い車内、冷房の唸り声、そして隣にはほとんど下着に近いようなショートパンツ姿の美女。

彼女は倒していたシートをさらに一段倒し、指の方へ体をぐいと寄せました。

「ねえ、さっき私、渋滞のいい過ごし方を教えてあげるって言ったでしょ?」

レイカの瞳が、至近距離で指の視線を捉えて離しません。彼女は指が持っていた飲みかけのお茶をダッシュボードに置くと、彼の右手をそっと取りました。そして、その手を自分の、まだ少し汗ばんだ太ももの上に導きました。

「ひゃ、あ……っ」

指の掌に、吸い付くような肌の感触が伝わります。柔らかくて、それでいて弾力のある、生きている女性の体温。指は指先を丸めることもできず、ただ硬直したまま、彼女の白い肌に手を置いていました。

「そんなにガチガチにならないで。……さっき、あんなに一生懸命自分を慰めてた時の情熱はどこに行ったの?」

彼女の声が、耳元で吐息とともに囁かれます。レイカは指の手を自分の手で上から包み込み、ゆっくりと、その掌を太ももの付け根の方へと滑らせていきました。

「せっかくの密室だもの。お互い、もっと『素直』になったほうが、渋滞も短く感じると思わない?」

彼女のもう片方の手が、今度は指のズボンのベルトに伸びてきました。カチリ、と金具が外れる音が、静かな車内に響きました。

指は、目の前で微笑む「お姉さん」の魔力に、抗う術を完全に失っていました。窓の外では、依然として車の列が止まったまま、夏の陽炎が揺れています。けれど、この古い中古車の中だけは、外の世界とは切り離された、熱く、甘い時間が動き始めていました。

レイカの指先が、ベルトを解かれたズボンの隙間から、するりと滑り込んできました。

「あ……」

指は声を漏らし、背筋をピンと伸ばしてシートに後頭部を押し付けました。彼女の手はためらうことなく、下着の境界線を越え、熱を持って膨らみ始めた彼の「あれ」へと直接辿り着きました。

先ほどまで自分自身の指で、虚しく触れていた場所。けれど、彼女の掌が触れた瞬間に伝わってきた温度と柔らかさは、それとは比較にならないほど生々しく、強烈でした。

「……ふーん、さっきよりずっと元気になってる」

レイカは指の反応を楽しむように、ゆっくりと、それでいて確実にその感触を確かめるように手を動かしました。彼女の長い髪が指の肩にかかり、鼻先をかすめる。車内はもう、エアコンの冷風など完全に無視したような熱気に包まれていました。

「指くん、心臓の音、ここまで聞こえてくるわよ」

彼女は空いた方の手で、指の胸元を優しくトントンと叩きました。指はもはや、ハンドルのどこを握ればいいのかも分からず、ただ天井を見上げて荒い息を繰り返すしかありません。

レイカの動きは次第にリズムを帯びていき、狭い車内には、衣類が擦れる音と、彼女が小さく鼻歌を漏らすような吐息だけが響きました。

「ねえ、目、閉じちゃダメ。……ちゃんと私を見て、どうしてほしいか教えて?」

彼女は指のズボンの中に手を沈めたまま、顔をさらに近づけてきました。その瞳には、19歳の少年を完全に手玉に取っている余裕と、ほんの少しの情熱が混じり合っていました。

指は、羞恥心と快感の限界地点で、レイカの名前を呼ぼうとして言葉にならない声を漏らしました。

「……なんか、濡れてるよ」

レイカの手が止まり、彼女は少しだけ意外そうに目を見開きました。その直後、彼女の唇の端がいたずらっぽく吊り上がります。ズボンの中に差し込まれた彼女の手のひらには、指が自分でも制御できないほど溢れさせてしまった、熱く湿った感触がはっきりと伝わっていました。

「本当だ……。指くん、まだ何もしてないのに、こんなに正直なんだ?」

彼女は指先を少しだけ動かし、その「濡れている」感触を広げるように、ゆっくりと、執拗に這わせました。指は全身に電流が走ったような衝撃を感じ、膝がガクガクと震えるのを抑えられません。

「これ、私が触ってるから? それとも、さっきからずっと私のこと、そういう目で見てた?」

レイカはそう言いながら、濡れた指先を一度ズボンから引き抜きました。そして、あろうことかその指を、指の目の前まで持ってきたのです。窓から差し込む西日に照らされて、彼女の指先がキラキラと光っていました。

「ほら、見て。こんなに……。責任、取ってくれる?」

彼女はそう囁くと、今度は自分のショートパンツのボタンに手をかけました。

「暑いし、狭いけど……。指くんの初めて、私が美味しくいただいちゃってもいいかな?」

レイカはシートをさらに深く倒し、指を誘うようにその長い脚を大きく広げました。中古車の狭い空間が、一気に二人だけの濃厚な「戦場」へと変わっていきます。

「はじめてって……なんで、わかったんですか?」

指は裏返った声で問い返しました。レイカは一瞬だけきょとんとした顔を見せましたが、すぐに噴き出すように笑いました。

「だって、指くん。さっきから手の震えが止まってないし、視線のやり場に困って泳ぎまくってるし……何より、さっき私がズボンの中に手を入れた時の、あの驚き方」

彼女は倒したシートの上で身を乗り出し、指の耳元に唇を寄せました。

「そんなにウブな反応、慣れてる人には絶対に無理。……ねえ、当たってるんでしょ?」

指は真っ赤になったまま、消え入りそうな声で「……はい」とだけ答えました。嘘をつく余裕なんて、一滴も残っていません。

レイカは満足そうに目を細めると、自分のショートパンツのジッパーをゆっくりと引き下げました。

「やっぱり。……光栄だわ。19歳の貴重な『はじめて』を、こんな渋滞の車内で私にくれるなんて」

彼女はショートパンツを脱ぎ捨て、薄い下着一枚になった脚を指の膝の上に絡めました。革のシートが、二人の体温でじっとりと熱を帯びていきます。

「大丈夫、優しく教えてあげる。……指くんはただ、私に触られるまま、感じたままでいてくれればいいから」

彼女の手が再び、今度はもっと深く、もっと熱く、彼のすべてを受け入れるように伸びてきました。外では相変わらず、何百台もの車が動けずに停まっていましたが、この中古車の窓の向こう側だけは、完全に二人だけの濃密な世界に塗り替えられていました。

レイカは指の膝の上に馬乗りになるようにして、狭い運転席へと体を割り込ませました。ハンドルが彼女の背中に当たってクラクションが小さく「パッ」と鳴りましたが、今の二人にはそんな警告音すら、情熱を煽るスパイスでしかありません。

「ねえ、指くん……こっちを見て」

彼女の手が指のTシャツをたくし上げ、生肌に触れます。19歳の若く、まだ頼りない胸板に、彼女の柔らかな胸の感触が押し付けられました。指は、自分の心臓が肋骨を突き破って彼女に届いてしまうのではないかと思うほど激しく打ち鳴らされるのを感じました。

レイカは指の首筋に顔を埋め、熱い吐息を吹きかけながら、自分の下着をそっとずらしました。

「初めてなんだもんね……。私のことも、ちゃんと触って?」

彼女は指の震える手を導き、自分の熱を帯びた肌へと誘いました。指が恐る恐る指先を動かすと、そこには驚くほど滑らかで、それでいて自分と同じように、あるいはそれ以上に「濡れている」未知の感触がありました。

「あ……っ、うそ、すごい……」

「ふふ、指くんがそんなに一生懸命だから、私も我慢できなくなっちゃった……」

レイカは指の肩に爪を立て、小さく喘ぎながら、ゆっくりと腰を下ろしていきました。中古車の古いサスペンションがギィ、と音を立て、車体がわずかに揺れます。狭い空間で二人の体温が混ざり合い、窓ガラスは内側から白く曇り始めました。

外の渋滞の喧騒、エンジン音、遠くで鳴るサイレン。それらすべてが遠い世界の出来事のように感じられます。指は、レイカの長い髪に顔を埋め、彼女から溢れる熱狂的な甘い香りに包まれながら、19年間守り続けてきた境界線を、今まさに踏み越えようとしていました。

二人の重なる吐息が、夕暮れ時の車内を濃密に、そしてどこまでも熱く塗りつぶしていきました。

「……指くん、目を開けて。私が入っていくところ、ちゃんと見ててね」

彼女の潤んだ瞳が、至近距離で指の魂を射抜きました。

「……指くん、顔すごいことになってるわよ」

レイカは指の肩に腕を回し、その耳元でわざと熱い吐息を漏らしました。彼女が腰をわずかに、けれど深く沈めるたびに、指は天を仰いでハンドルを握る手に指が白くなるほど力を込めました。

「お姉さん、気持ちいいです……っ。あの、そんなに動かないで……すぐ、いきそうです!」

「だめ。勝手に終わらせないわよ」

レイカは不敵に微笑むと、指の言葉とは裏腹に、さらに執拗に腰を使い始めました。狭い車内、古いシートが二人の動きに合わせて不規則に軋みます。指にとって、その一つ一つの振動が、脳を直接かき回されるような甘美な責め苦でした。

「初めてなんだから、たっぷり感じなきゃ。ほら、ここ?」

「あ、そこ……っ、ひゃあ!」

彼女が特定のポイントを抉るように動くたびに、指の視界に火花が散りました。19年間、自分の手だけで知っていた快感とは次元が違う、暴力的なまでの多幸感が全身を駆け抜けます。

レイカは指の首筋に額を預け、自分自身の熱も高まっていくのを感じているようでした。彼女の綺麗な長髪が、指の汗ばんだ胸元をくすぐります。

「指くん……すごい。私まで、おかしくなりそう……」

彼女の余裕のあった声が、次第に細く、湿った喘ぎへと変わっていきました。指はもう限界でした。レイカの柔らかな肉体の感触と、締め付けられるような熱い圧迫感。それらが一つに溶け合い、指の意識は真っ白な光の中に飲み込まれていきました。

「お姉さん、もう……っ、出ます! 出ちゃう……!」

指が彼女の腰を強く掴んだ瞬間、世界が激しく揺れ、二人の吐息が重なり合って車内の空気が一気に弾けました。

しばらくの間、二人は重なったまま、荒い呼吸だけを響かせていました。窓ガラスは完全に曇り、外の景色は見えなくなっていました。

やがて、遠くで一台、また一台とエンジンが吹かされる音が聞こえてきました。渋滞が、ようやく動き出そうとしていました。

「……ふふ、いいよ。そんなに謝らないで」

レイカは指の肩に顔をうずめたまま、少しだけ荒い息をつきながら優しく囁きました。彼女の体温が直接伝わってきて、指は賢者タイム特有の申し訳なさと、言いようのない幸福感の真っ只中にいました。

「ごめんなさい、お姉さん……。我慢できなくて、直に出しちゃった……」

指が消え入りそうな声で謝ると、レイカはゆっくりと体を離し、曇った窓ガラスを指先で少しだけ拭いました。そこから差し込む夕日が、彼女の汗ばんだ肌を黄金色に照らしています。

「いいのよ。それが『はじめて』の証拠でしょ? それに……私も、その、指くんの熱いのが直接伝わってきて……ちょっとびっくりしたけど、悪くなかったわ」

彼女はそう言って、少しだけ頬を赤らめながら、脱ぎ捨てていたショートパンツを手繰り寄せました。指は慌てて自分のズボンを整えようとしましたが、狭い車内では思うように体が動きません。

「あ、拭くもの……。えっと、あ、さっきのコンビニの袋に……」

「いいよ、自分でやるから。指くんは運転席に戻って」

レイカは手際よく身なりを整えると、後部座席に放り投げていた革のスラックスとジャケットを抱え込みました。

「ほら、見て。前の車が動き出したわよ。……夢の時間は、これでおしまい」

彼女の言う通り、前方のブレーキランプが次々と消え、渋滞の列がゆっくりと前進を始めていました。レイカは最後に、指の頬にちゅっと軽いキスをしました。

「指くん。中古車も、たまにはいいことがあるでしょ? 安全運転で帰りなさいよ。……バイバイ」

彼女は慣れた手つきで助手席のドアを開けると、サンダルの代わりに重たいエンジニアブーツを片手で持ち、裸足のまま自分のバイクへと駆けていきました。

指はぼう然としながら、ハンドルを握り直しました。シートに残った彼女の体温と、車内に充満する甘い匂い。そして、ズボンの中に残る、少しだけ不快で、けれど最高に誇らしい湿り気。

「……夢じゃ、なかったんだ」

彼はゆっくりとアクセルを踏みました。19歳の夏。買ったばかりの中古車は、彼をただの少年から、少しだけ大人の男へと変えて、再び高速道路を走り始めました。

あの日から一週間、指はまるで抜け殻のようでした。バイトをしていても、大学の講義を受けていても、ふとした瞬間に鼻をくすぐる「革と香水の匂い」を追いかけてしまいます。

中古車の助手席には、彼女が脱ぎ捨てたときに付いたのか、小さな香水の残り香が染み付いている気がして、彼はあえて芳香剤を置かずにいました。

「……また、会えるわけないよな」

彼はあの日、彼女の連絡先はおろか、フルネームさえ聞いていませんでした。わかっているのは「レイカ」という名前と、あの黒い大型バイクの特徴だけ。

そんなある日の夕暮れ時。指がバイト帰りに、あの高速道路近くのガソリンスタンドで給油をしていた時のことです。

「ハイオク満タン、あとタイヤの空気圧見てくれる?」

聞き覚えのある、少しハスキーで凛とした声が響きました。指が弾かれたように振り返ると、そこにはあの日と同じ、黒い革ジャケットを羽織り、ヘルメットを脇に抱えた彼女が立っていました。

「……レイカさん!?」

指が思わず叫ぶと、彼女は驚いたように目を丸め、それからすぐに、あの時と同じいたずらっぽい笑みを浮かべました。

「あら、指くんじゃない。相変わらず、その中古車を大事に乗ってるのね」

彼女はゆっくりと歩み寄ってくると、窓越しに指の顔を覗き込みました。

「あの後、ちゃんと自分で片付けた? ……それとも、私のこと思い出して、また一人で変なことしてた?」

「してません! ……あ、いや、思い出してはいましたけど」

顔を真っ赤にする指を見て、レイカは楽しそうに笑い、自分のスマホを取り出しました。

「今日は渋滞してないけど、時間はたっぷりあるの。……ねえ、指くん。この近くに、車で入れる見晴らしのいい公園があるんだけど、案内してくれない? 今度は、ちゃんとお礼を言わせてほしいし」

彼女はそう言って、指のスマホに自分の番号を素早く打ち込みました。

「今度は『あーん』だけじゃ、済まないかもしれないけど……いい?」

「ちょっとバイク、そこに置いといてくれない?」

レイカの言葉に、指は一瞬耳を疑いました。彼女はガソリンスタンドの隅にある駐輪スペースを指差し、店員に軽く手を振って話をつけています。

「え、いいんですか? バイク……」

「いいのよ。今日はなんだか、自分で風を切るより、誰かの隣で揺られていたい気分なの。……それに、あの狭い助手席、案外居心地よかったしね」

彼女はヘルメットをリアボックスに放り込むと、鍵をポケットにねじ込みました。そして、ためらうことなく指の車の助手席へと滑り込みます。

バタン、とドアが閉まると、一瞬であの日の濃密な空気が車内に蘇りました。

「さあ、出して。指くんの運転で、どこか遠くまで」

レイカはそう言うと、窮屈そうに足を組み替えました。今日は革のスラックスではなく、薄手のロングスカートを穿いていましたが、スリットから覗く白い脚は、あの日見たショートパンツ姿よりもずっと色っぽく見えました。

指は震える手でシフトレバーを「D」に入れました。隣からは、彼女の体温が混じったあの甘い香りが漂ってきます。

「……ねえ、指くん。今日はもう、ズボンの中に手を入れたりしないから、安心して運転していいわよ?」

彼女は指の横顔を覗き込み、わざと耳元まで顔を近づけて囁きました。

「でも……目的地に着いたら、どうなるか分からないけどね」

指はハンドルを握りしめ、前だけを見つめてアクセルを踏みました。19歳の彼にとって、この中古車はもはや単なる移動手段ではなく、世界で一番贅沢で、少しだけ危険な二人だけの密室へと変わっていました。

夕闇に溶けていくテールランプの列を追い越しながら、指の夏は、まだ終わる気配を見せませんでした。


「指くん、あそこに入って」

レイカが指差したのは、バイパス沿いに派手なネオンを輝かせている、お城のような外観の建物でした。いわゆる、ロードサイドのラブホテル。

「えっ、あ、あそこですか!?」

指は思わず声を裏返させ、ブレーキを踏みそうになりました。免許取り立ての彼にとって、その入り口のゲートをくぐるのは、高速道路の合流よりも何倍も勇気のいる決断です。

「そうよ。この車、思い出深くて好きだけど、やっぱりちょっと狭いじゃない? 足も伸ばしたいし……それに、ちゃんと大きなベッドで、指くんの『続き』を教えてあげたいしね」

レイカは助手席でリラックスしたまま、いたずらっぽく笑いました。指は心臓がバクバクと暴れ狂うのを感じながら、指示通りにウィンカーを出しました。

スロープを上がり、パネルに並んだ部屋の写真から一つを選びます。駐車場に車を停めてエンジンを切ると、急に静寂が訪れました。

「……ねえ、指くん。まだ怖い?」

レイカはそっと指の手に自分の手を重ねました。彼女の手のひらは温かく、あの日、車内で感じたあの生々しい熱狂を思い出させます。

「い、いえ……ただ、夢みたいで」

「夢じゃないわよ。ほら、行きましょう」

二人は車を降り、無人の受付を通って部屋へと向かいました。ドアを開けた先には、中古車の車内とは比べものにならないほど広々とした、ふかふかのキングサイズベッドが鎮座していました。

レイカは部屋に入るなり、壁のスイッチを操作して照明を少し落としました。そして、ゆっくりと指の方を振り向くと、着ていたジャケットを肩から滑り落としました。

「さあ、指くん。ここにはハンドルもシフトレバーもないわ。……私のこと、好きなだけ触っていいわよ」

彼女はそう言うと、ベッドの端に腰掛け、指を招くように手を差し伸べました。

指は誘われるまま、吸い寄せられるようにレイカの前に膝をつきました。部屋に流れる静かなBGMが、かえって二人の距離を際立たせます。

「……本当にお姉さんと、こんな場所にいるなんて」

「まだ信じられない? じゃあ、確かめてみて」

レイカは指の手を取り、自分の首筋へと導きました。指先が触れた瞬間、彼女は小さく吐息を漏らし、瞳を潤ませます。あの日、渋滞の車内では必死で隠していた彼女の「女としての顔」が、今は手の届く距離で剥き出しになっていました。

指は勇気を出して、彼女の背中のジッパーに手をかけました。ゆっくりと下ろしていくたびに、滑らかな背中のラインが露わになり、同時に彼女の甘い香りがより一層濃く立ち昇ります。服を脱ぎ捨て、シーツの上に横たわった彼女は、月明かりを浴びた大理石のように白く輝いて見えました。

「指くん……今日は、焦らなくていいから。ゆっくり、全部見せて」

指は、彼女の柔らかな曲線の一つひとつを、まるで壊れ物を扱うように丁寧に辿っていきました。車内の窮屈さから解放されたレイカの体は、指が触れるたびに小さく跳ね、熱を帯びていきます。19歳の未熟な指先であっても、彼女にとってはそれが何よりも新鮮で、愛おしい刺激として伝わっているようでした。

やがて二人の体温が一つに重なると、広いベッドの上で、あの日とは比べものにならないほど深い熱情が渦巻き始めました。指は彼女に導かれながら、昨日までの自分とは違う、新しい世界の扉を力強く押し開けていきました。

窓の外では夜のバイパスを車たちが走り抜けていきますが、その光の束も、今の二人には遠い銀河の出来事のようでした。

二人の夜は、時間という概念が溶けてしまったかのように長く、そして濃密でした。

あの日、渋滞の中で感じた焦燥感や羞恥心は、いまや互いの肌を滑る汗とともに、甘い快感へと昇華されていきました。指は、彼女の導きによって「男」としての悦びを知り、レイカは、指のひたむきで純粋な情熱に触れることで、日常で纏っていた硬い殻を一枚ずつ脱ぎ捨てていきました。

何度も波のように押し寄せる絶頂のあと、二人は乱れたシーツの中で、折り重なるようにして横たわっていました。

「指くん……すごかったわよ」

レイカは指の胸に顔を埋め、上気した肌を休ませながら、満足げに微笑みました。彼女の長い髪が指の腕に絡まり、そこからはまだ、二人が分かち合った熱い名残の匂いが立ち昇っています。

指は、自分の腕の中に収まっている彼女の体の柔らかさに、改めて驚いていました。あんなに堂々としていて、自分を翻弄していた「お姉さん」が、今はこんなにも小さく、愛らしく感じられる。それは、彼が一つ大人の階段を登った証でもありました。

「……僕、一生忘れないと思います。今日のことも、あの渋滞の日のことも」

「ふふ、重いわね。でも……私も、忘れられない夜になりそう」

レイカは顔を上げ、指の頬を優しく撫でました。

ホテルの窓から見える夜空は、深い紺色から、かすかに紫がかった色へと変わり始めていました。街の灯りが少しずつ消え、代わりに朝の気配が遠くから忍び寄ってきます。

「ねえ、夜が明けたら……また、あの中古車でドライブに連れて行ってくれる?」

「はい。どこまでも、お姉さんの行きたいところまで」

指がそう答えると、レイカは幸せそうに目を閉じ、再び彼に寄り添いました。

中古車の渋滞から始まった、奇跡のような出会い。19歳の指にとって、それは単なる「童貞卒業」という出来事ではなく、人生という名の長い旅路の中で、最も熱く、最も美しいプロローグとなりました。

朝日が地平線から顔を出し、部屋の中に一筋の光を投げかけるまで。二人はただ、互いの鼓動を感じ合いながら、残された贅沢な時間を噛み締めていました。


                      完