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彼は自分の名前が好きではなかった。「指」と書いて「ゆび」。 親が何を思って名付けたのかは知らないが、その名前のせいで、彼はいつも自分の手元ばかりを見つめる少年になった。

16歳の夏。湿度を含んだ風が、制服のシャツを肌に張り付かせる。 同級生たちが放課後の教室で卑猥な冗談に興じている間、指はいつも、その輪の少し外側で、自分の細い指先を眺めていた。彼はまだ、誰も知らない。誰の肌にも、深く触れたことがなかった。

佐伯さんは、指の家の隣に住む、十ほど年上の女性だった。 彼女はときどき、仕事帰りの廊下で、指に「コーヒーでも飲んでいく?」と声をかけた。彼女の部屋はいつも、古い映画のような琥珀色の電球の光に満ちていて、少しだけ煙草とバニラの香りがした。

「指くん、またそんな顔して。何か、知りたいことでもあるの?」

ソファに深く腰掛けた佐伯さんが、グラスの縁をなぞりながら微笑む。その仕草に、指は心臓の鼓動が耳元まで響くのを感じた。

雨が降り出した日の夕暮れだった。 雨音は世界の雑音をすべて消し去り、その部屋だけが宇宙に浮いているような錯覚を指に与えた。

「僕……」 指は、震える声で切り出した。「僕だけが、何も変わっていない気がするんです」

佐伯さんは立ち上がり、ゆっくりと指の前に膝をついた。彼女の瞳には、怯えたような、けれど真っ直ぐな16歳の熱が映っていた。

「指くん。大人の世界は、君が思っているほど輝いてはいないわ。でも、一度扉を開けたら、二度と今の君には戻れない。……それでもいいの?」

指は頷いた。喉の奥が熱く、言葉にならない。 佐伯さんの細く白い手が、指の頬に触れる。その熱は、彼が今まで想像していたどんなものよりも現実的で、そして優しかった。

雨音はさらに激しさを増し、琥珀色の光に包まれた部屋を外の世界から完全に切り離していました。佐伯さんの指先が指の頬をなぞるたび、彼はまるで自分の輪郭が書き換えられていくような不思議な感覚に陥っていました。

彼女の体温は、想像していたよりもずっと高く、そして心地よい重みを持っていました。指はこれまで、誰かとこれほどまでに至近距離で向き合ったことがありません。彼女の吐息が首筋にかかるたび、背筋に電流が走るような衝撃を覚え、彼はただ、自分の名前の由来となったその指を彼女の背中に回すことしかできませんでした。

「怖い?」と彼女が耳元で囁きました。その声は決して彼を試すようなものではなく、暗闇の中で道標を示す灯火のように穏やかでした。

指は小さく首を振りました。怖くないと言えば嘘になりますが、それ以上に、彼女が教えてくれる未知の領域への渇望が勝っていました。彼は覚束ない手つきで彼女のシャツのボタンに手をかけました。プラスチックの小さな円が指先に触れる感触さえ、今はひどく官能的で、重大な意味を持っているように感じられました。

一つ、また一つとボタンを外すごとに、少年のあどけなさが剥がれ落ち、代わりに一人の男としての自覚が芽生えていきます。佐伯さんは彼の拙い動きを急かすことなく、むしろ慈しむように、そのすべての瞬間を優しく受け止めていました。

窓を打つ雨粒の音、微かに聞こえる彼女の鼓動、そして部屋を満たすバニラの香り。それらすべてが混ざり合い、指にとっての「初めての記憶」として、深く、消えない刻印となって心に刻まれていったのです。

暗闇に近い琥珀色の部屋で、二人の呼吸だけが重なり合っていました。指は、自分の胸の奥で暴れる心臓の音を、佐伯さんに悟られてしまうのではないかと気が気ではありませんでした。彼女がこれから自分に何をしようとしているのか、その意味を頭では理解していても、体が追いつきません。彼はその瞬間を烈烈と望んでいたはずなのに、いざその境界線に立つと、足元が崩れ落ちるような恐怖と、言いようのない罪悪感に押しつぶされそうになっていました。

「嫌なら、今すぐ逃げ出してもいいのよ」

佐伯さんはそう言いながらも、彼を解放することはありませんでした。彼女の瞳には、年上の余裕だけではなく、どこか自分自身を罰するような、悲痛な光が宿っていました。16歳の無垢な魂を、自分の手で汚し、変質させてしまうことへの躊躇。それでも、彼女の指先は震える彼の肩をしっかりと掴み、逃げ場を塞いでいきます。指は、彼女の唇が近づくたびに、窒息しそうなほどの圧迫感を覚え、目をつぶりました。

彼が望んでいたのは、ただの「経験」ではありませんでした。この、世界の誰よりも美しく見える女性に、自分という存在を深く刻みつけてほしかったのです。その代償として、二度と戻れない子供時代を差し出すこと。それがこれほどまでに苦しく、身を切るような痛みと同義だとは、想像もしていませんでした。

佐伯さんは彼の喉仏にそっと唇を寄せ、少年の震えをその身で受け止めました。彼女にとっても、これはただの火遊びではありませんでした。指が抱えている未熟な熱情も、戸惑いも、すべてを飲み込んで進む覚悟を決めていたのです。彼女の手が、彼の制服のベルトに触れたとき、指は思わず彼女の細い手首を強く掴みました。拒絶ではなく、溺れる者が縋り付くような、必死の抵抗に近い懇願でした。

彼女は一瞬だけ動きを止め、彼の潤んだ瞳をじっと見つめ返しました。そして、慈しむような、けれど残酷なほどに優しい手つきで、彼の指を一つずつ解いていきました。

「大丈夫、痛いのは今だけ。明日になれば、あなたは違う景色を見ているはずだから」

その言葉は呪文のように彼の意識を朦朧とさせました。指は、自分の内側で何かが音を立てて壊れていくのを感じながら、同時に、彼女という底なしの沼へ深く、深く沈んでいくことに抗えない快楽を見出し始めていました。悩み、苦しみ、けれど指先は彼女の肌を求め、探り、縋り付く。佐伯さんはそのすべてを静かに受け入れ、少年の輪郭を壊しながら、新しい男としての形を刻み込むように、一歩ずつ、引き返せない道へと彼を誘っていきました。

佐伯さんの唇が重なった瞬間、指が真っ先に感じたのは、映画や小説で語られるような甘い陶酔ではありませんでした。それは、逃げ出したくなるほど生々しい「他人の肉体」の質感でした。

鼻をくすぐる彼女の吐息には、先ほどまで飲んでいたアルコールの残り香と、化粧品の匂い、そして隠しきれない生理的な人間の口の匂いが混ざり合っていました。自分の口内に侵入してくるぬるりと湿った粘膜の感触、そして舌に絡みつく見知らぬ唾液の、鉄分を含んだような独特の味。

「……っ」

指は思わず顔を背けそうになりました。自分とは違うリズムで繰り返される呼吸、自分のものではない体温が喉の奥まで侵食してくる不快感。そこには、純粋な嫌悪感がありました。潔癖な少年時代を過ごしてきた彼にとって、他人の体液を受け入れるという行為は、自らの境界線を泥靴で踏み荒らされるような屈辱に近かったのです。

しかし、不思議なことが起こりました。その「汚らわしさ」を感じれば感じるほど、彼の脳裏には痺れるような快感が閃光となって走り抜けたのです。

清潔で平穏だった自分の世界が、目の前の女性の手によって無残に壊されていく。その「壊される」という感覚が、彼の下腹部を熱く、硬く突き上げました。好きでもない女性と、これほどまでに醜悪で密接な接触をしているという背徳感。他人の匂いに塗りつぶされ、自分という存在が不純なものに変質していく実感が、16歳の少年にとっては何よりの猛毒であり、同時に抗いがたい媚薬となりました。

「嫌?……それとも、もっと汚してほしい?」

佐伯さんは彼の困惑を見透かしたように、濡れた唇をわずかに離して囁きました。指は答えられませんでした。嫌悪感に顔を歪めながらも、彼の体はさらに強く彼女を求め、シーツを掴む指先に力がこもります。

気持ち悪い。そう思うたびに、指の理性はほどけ、本能が剥き出しになっていきました。最悪の気分なのに、かつてないほどに頭が真っ白になるほど興奮している。矛盾する二つの感情が激しく衝突し、火花を散らす中で、指は自分から彼女の首筋に顔を埋めました。もはや、それが愛情なのか、それともただの破壊衝動なのか、彼自身にも分からなくなっていました。

佐伯さんの喉から、満足げな、そして少しだけ悲しげな吐息が漏れました。彼女は指の混乱をすべて飲み込むように、再びその「他人の味」を彼に押し付けていきました。

唾液の生々しい味に翻弄され、頭が芯から痺れるような感覚に陥っていた指の意識は、下腹部に走った明確な重みによって、一気に現実へと引き戻されました。

佐伯さんの手が、迷いなくスラックスの膨らみに触れたのです。

厚手の制服の布地越しであっても、彼女の掌が持つ確かな熱と、指先が描く柔らかな曲線が克明に伝わってきました。指は、まるで見えない電流を浴びせられたかのように、その場で小さく体を跳ねさせました。これまで自分ひとりの手で、密かに、そしてどこか事務的に処理してきた「そこ」を、自分ではない誰かの、それも大人の女性の手が容赦なく定義していく。その事実に、彼は声にならない悲鳴を上げそうになりました。

スラックスのジッパーの冷たい金属の感触と、彼女の温かい肌の対比。彼女がわずかに指先に力を込め、布のシワをなぞるように動かすたび、指は自分の呼吸が異常に浅くなっていくのを感じました。

「ここ、こんなに熱くなってる……」

佐伯さんの囁きは、もはや慰めではなく、獲物を追い詰める者の慈悲のようでした。指は、彼女の掌の下で自分の拍動が激しく暴れているのを自覚し、猛烈な羞恥心に襲われました。他人の手に自分の最も卑猥な部分を握られているという状況。それは先ほどの口づけのときと同様、生理的な嫌悪感を伴うものでした。

自分ではない他人の肉体が、自分の意志とは無関係に、自分の最も奥深い領域に干渉してくる。その暴力的なまでの「侵入」に対して、彼の理性が「汚されている」と警告を発します。しかし、その警告が強まれば強まるほど、不思議なことに下腹部の熱は密度を増し、張り裂けんばかりの興奮へと変換されていきました。

嫌だ、触られたくない。そう思っているはずなのに、腰は無意識のうちに彼女の手を求めて僅かに浮き上がり、スラックスの布地を彼女の掌に押し付けていました。

佐伯さんは、指が抱いているその矛盾した熱狂を愉しむかのように、ゆっくりと、けれど確実な力強さで、スラックスの上から彼の形を確かめていきました。彼女の指先が、布越しに敏感な先端を掠めた瞬間、指はついに耐えきれず、彼女の肩に顔を埋めて短く喘ぎました。

もはや、そこにあるのは嫌悪感だけではありませんでした。自分を汚し、壊していく彼女の手の感触に、彼は生まれて初めて、溺れるような快楽の淵に立たされていることを悟ったのです。

彼女の手は、ついにスラックスのベルトへと伸びていきました。指は、この先にある決定的な崩壊を予感しながらも、その手を止めることができませんでした。

頭のどこか半分は、驚くほどひどく冷めていました。

下腹部を突き上げるような、これまでに経験したことのない熱い衝動に身を任せながらも、もう一人の自分が天井に近い場所から、ベッドの上の無様な自分を観察しているような感覚です。

佐伯さんの指先がベルトのバックルに手をかけ、カチリと金属音を立てた瞬間、指の脳裏を埋め尽くしたのは、官能的な期待ではなく、もっと切実で情けない不安でした。

(……パンツ、汚れてないだろうか)

昨日洗濯したばかりのものだったか、それとも朝の着替えで適当に選んだものだったか。16歳の少年にとって、大人の女性の前に身を晒すということは、自分の生活の「裏側」をすべて見透かされることと同義でした。部活動でかいた汗の匂いや、一日中履き続けていたスラックスの中に籠もった、自分でも自覚している特有の生臭い匂い。

彼女はそれを不快に思わないだろうか。鼻を背けたり、幻滅したりしないだろうか。

そんな「恥」への恐怖が、こみ上げる快感と交互に押し寄せます。しかし、その不安こそが、さらに彼を追い詰め、興奮を加速させました。嫌悪感、羞恥心、そして好奇心。それらが複雑に絡み合い、彼の意識を混濁させていきます。

(じかに触られたら、僕はどうなってしまうんだろう)

布越しでさえ、これほどまでに理性が削り取られていくのに。彼女の指が、自分の最も柔らかく、最も敏感な場所に直接触れた瞬間、自分の形が完全に溶けてなくなってしまうのではないかという、未知の領域への恐れ。

佐伯さんは、指の逡巡をすべて楽しんでいるかのようでした。彼女の手がスラックスを押し下げ、下着のゴムの境目に指を滑り込ませます。指の体は期待に震え、それと同時に、最悪の綻びを見られることへの恐怖で強張りました。

「……指くん、力が入りすぎ」

彼女の低い笑いを含んだ声が、鼓膜を震わせます。その瞬間、指の中で「羞恥」が「悦楽」に完全に屈服しました。どんなに臭くても、どんなに汚れていても、もう後戻りはできない。彼は、自分を支配しているこの女性が、自分のすべてを暴き出すのを待つことしかできませんでした。

スラックスが膝の下まで押し下げられ、薄い下着一枚になった瞬間、指の冷静な思考はさらなる「格差」への不安に支配されました。

暗い部屋の中で、佐伯さんの瞳が自分の股間へ向けられているのを感じるだけで、消え入りたいほどの羞恥心がこみ上げます。脳裏をよぎるのは、友人の家で隠れて見たアダルトビデオの光景でした。画面の中で猛々しく反り返る男たちのそれと、今、この琥珀色の光の下で情けなく脈打っている自分のものを比較して、彼は絶望に近い感情を抱きました。

(全然違う。あんなに大きくないし、色だって……)

何より彼を惨めな気持ちにさせたのは、先端を中途半端に覆っている皮の存在でした。いわゆる「半剥け」の状態である自分の未熟さが、まるで16年間の子供じみた生活を象徴しているようで、彼は反射的に膝を閉じようとしました。大人の女性である佐伯さんからすれば、こんなものは男の体ですらなく、ただの子供の悪戯の延長線上にしか見えないのではないか。

「……見ないでください」

思わず口から漏れたのは、情けないほどか細い拒絶の言葉でした。

しかし、佐伯さんはそんな彼の劣等感をあざ笑うことも、幻滅した表情を見せることもありませんでした。彼女はゆっくりと、まるで壊れやすい宝物に触れるような手つきで、指の下着に指をかけました。

「どうして? 綺麗よ、指くん」

彼女の言葉は、決して気休めには聞こえませんでした。彼女にとっては、画面の中の作り物のような完成された肉体よりも、目の前で不安に震え、期待と恐怖で熱を帯びている16歳のリアルな体の方が、ずっと価値があるのだと言わんばかりでした。

下着が取り払われ、ついに剥き出しになった自分の熱が、部屋の冷たい空気に触れました。指は顔を真っ赤に染め、固く目をつぶりました。しかし、その直後、彼の懸念をすべてかき消すような、決定的な衝撃が訪れます。

彼女の、潤んだ掌の柔らかさが、ダイレクトに彼の「そこ」を包み込んだのです。

皮の境目、敏感すぎるほどに露出した先端に、彼女の指先が優しく、けれど確実に食い込みます。AVの男優のような立派なサイズではなくても、半剥けの未熟な形であっても、彼女の手はそれを一つの独立した熱源として、慈しむように、じっくりと愛撫し始めました。

指の背中が大きく弓なりに反りました。視覚的なコンプレックスなど、彼女の掌から伝わる圧倒的な快感の前では、もはや何の意味も持たなくなっていました。

佐伯さんの指が、彼の不安だった部分を丁寧に、そして執拗になぞるたび、指の頭からは「大きさ」や「形」といった概念が、ドロドロに溶けて流れ出していきました。

佐伯さんの掌は、驚くほど滑らかで、それでいて容赦のない力強さを持っていました。彼女は、指の股間に視線を落とすのではなく、あえて彼の顔を真っ正面から見つめながら、その手をゆっくりと上下に動かし始めました。

「指くん、どんな感じ……?」

彼女の指先が、彼の最も過敏な部分を強く押し潰すように滑り上がった瞬間、指の視界が白く弾けました。口を半開きにし、喉の奥で「あ、っ……」と、自分でも聞いたことのないような湿った声が漏れます。

佐伯さんは、指の顔に浮かぶあらゆる反応を、実験動物でも観察するかのように冷徹に、そして熱狂的に見つめていました。彼が快感に眉を寄せれば動きを早め、彼が呼吸を忘れて硬直すれば、わざと意地悪く手を止め、じりじりと先端を指の腹で転がします。

指の顔は、羞恥と快楽が入り混じり、ひどく歪んでいました。 頬は上気し、瞳は潤んで焦点が定まらず、ただ佐伯さんの瞳の中に吸い込まれていくような錯覚に陥っています。彼女の手のひらが、彼の「半剥け」だった皮を根元へと力強く押し下げ、露出した熱をダイレクトに摩擦するたび、指の腰は勝手に跳ね上がりました。

「……っ、や、め……あ、動かさないで……!」

拒絶の言葉を口にしながらも、彼の体は真逆の反応を示していました。佐伯さんがわざと力加減を弱め、指先で羽毛が触れるような微かな刺激に変えると、指は耐えがたい虚無感に襲われ、自分から彼女の手を追いかけるように腰を振ってしまいます。その様子を見て、佐伯さんの口元に加虐的な笑みが浮かびました。

「口ではダメって言うのに、体は正直ね。……ほら、ここ、さっきよりずっと硬くなってる」

再び、彼女の手が力強く彼を包み込み、今度は逃げ場を塞ぐように激しく上下運動を繰り返します。指の喉からは、もはや言葉にならない断続的な喘ぎ声がこぼれ、シーツを掴む指先は白く強張っていました。

観察される恐怖と、それ以上に強い「見られながら愛撫される」という倒錯した興奮。 指は、自分の羞恥心が佐伯さんの掌によって一つずつ剥がされ、むき出しの欲望へと作り替えられていくのを、もだえながらも受け入れるしかありませんでした。

彼の意識は、激しさを増す彼女のストロークの波に呑まれ、限界へと近づいていきます。

指の脳内は、灼熱の火花が散るような快感と、冷水を浴びせられるような絶望的なまでの冷静さが、目まぐるしく入れ替わっていました。

(僕は今、何をされているんだ? 僕は、誰なんだ?)

目の前で自分を観察し、弄んでいるのは、隣の部屋に住む憧れの女性。けれど、今の彼女は聖母のようでもあり、自分を地獄へ引きずり込む悪魔のようにも見えました。16年間、大切に守ってきたはずの自分の「芯」が、彼女の掌の中で泥のように溶けていく。その喪失感への恐怖と、すべてを明け渡してしまいたいという破滅的な願望が、激しく胸の中でせめぎ合います。

しかし、その葛藤は、次の瞬間に訪れた未知の衝撃によって、文字通り粉々に砕け散りました。

佐伯さんが不意に身を屈め、彼の熱をその唇の間に迎え入れたのです。

「……っ!!」

指は、声にならない叫びを上げてベッドに背を叩きつけました。 最初に来たのは、湿った、それでいて熱い舌の感触でした。彼女は彼の「未熟な部分」の隅々までを、まるで味を確かめるように丁寧に舐め回します。先ほどまで感じていた「他人の唾液」への嫌悪感などは、もはやどこかへ吹き飛んでいました。ただただ、粘膜と粘膜が直接触れ合う、その獣じみた生々しさに、指の全身の毛穴が逆立ちました。

続いて、彼女は彼のすべてを口内に深く吸い込み、驚くほど強い力で吸引し始めました。

口の中の、密閉された熱帯のような熱さ。舌が絡みつき、喉の奥が自分の先端に触れるたび、指の理性の糸はパチンと音を立てて千切れました。彼女はそのまま、顔を上下に動かし、激しい出し入れを繰り返します。

「あ、あ……あぁっ!」

指の腰は、もはや自分の意思では止められないほど激しく震え、彼女の口内に向かって突き上げられました。16年間溜め込んできた、どろりとした熱情と、張り詰めた緊張。それが、彼女の喉の奥を突くたびに、限界まで膨れ上がっていきます。

もう、一秒も耐えられない。

「だめ……出る、出ます……っ!!」

指の言葉が終わるか終わらないかのうちに、彼の中で決定的な崩壊が起きました。 脊髄を駆け上がった電流が脳を真っ白に焼き尽くし、彼は我慢することさえ忘れて、佐伯さんの口の中へ、己のすべてを思い切りぶちまけました。

ドクンドクンと脈打つたびに吐き出される、熱い生命の証。 指は、自分の体が空っぽになってしまうのではないかと思うほどの勢いで、彼女の口内にすべてを預けきりました。

激しい余韻の中で、指の視界は涙で歪んでいました。琥珀色の世界はぐにゃりと曲がり、聞こえるのは自分の荒い呼吸と、窓を叩き続ける雨音だけ。

佐伯さんは、それを一切避けることなく、すべてを飲み干すように受け止めました。彼女がゆっくりと顔を上げたとき、その唇の端には一筋の白い跡が残り、彼女はそれを艶かしく舌で拭い去りながら、恍惚とする指を優しく見つめました。

「お疲れ様。……これで、卒業ね」

彼女のその言葉を聞いた瞬間、指は自分がもう、二度と「昨日までの自分」には戻れないことを、ひどく静かな気持ちで理解していました。

ドクンドクンと脈打つ鼓動がようやく落ち着き始めた頃、指は深い脱力感の中で、自分が「男」になったのだという重すぎる実感に浸っていました。しかし、その余韻を切り裂くように、佐伯さんの低く、確信に満ちた声が耳元に届きました。

「指くん、交代。今度は私をよくしてちょうだい」

その言葉の意味を理解するのに、数秒かかりました。賢者モードのような静寂に包まれていた指の脳裏に、再び激しい動揺が走ります。卒業させてもらった、それで終わりだと思い込んでいた彼にとって、それは予想だにしない「第二幕」の合図でした。

佐伯さんはベッドの上でゆっくりと身を起こし、乱れた髪をかき上げました。彼女の瞳には、先ほどまでの慈しむような光とは違う、飢えたような、生々しい大人の欲望が宿っています。彼女は自ら衣服を脱ぎ捨て、白く柔らかな肌を琥珀色の光の下に晒しました。

「どうしたの? してもらったんだから、お返ししなきゃ」

彼女は指の手をとり、自分の熱を帯びた肌へと導きました。指は、自分の指先が触れた瞬間の、吸い付くような女性特有の肌の柔らかさに息を呑みました。先ほどまで自分が翻弄されていた立場が、一瞬にして逆転する。その責任の重さに、指は再び、慣れない緊張で喉を鳴らしました。

何をすればいいのか、正解はわかりません。けれど、彼女が自分に見せた「他人の体に触れる」という行為の生々しさを、今度は自分の手でなぞる番なのだと覚悟を決めました。

指は、震える手で彼女の腰を引き寄せました。好きでもない、よく知らないはずの女性。けれど、自分のすべてをぶちまけた相手。その境界線が曖昧になったまま、彼は彼女の肌に触れ、彼女が漏らす「あぁ……」という吐息を追いかけるように、未知の探求へと足を踏み出していきました。

それは、教科書にもビデオにも載っていない、本当の意味での「大人への対話」の始まりでした。

指の頭の中は、パニックに近い混乱と、未知の扉を自ら開けようとする高揚感で溢れかえっていました。

(どうすればいい? どこを、どう触れば彼女は声を出すんだ?)

先ほどまで自分が翻弄されていた快楽の余韻が、今度は重い宿題となって彼にのしかかります。彼は佐伯さんの白い肌を前にして、まるで見知らぬ迷宮の入り口に立たされたような心地でした。彼女にされたように、首筋に唇を寄せ、耳たぶを甘噛みしてみるものの、彼女の反応はどこか余裕を含んだままです。

(もっと、深いところ……彼女が僕にやったように……)

指の視線は、自然と彼女の太ももの間、琥珀色の光が影を作る場所へと吸い寄せられました。そこは彼にとって、神聖で恐ろしく、そしてどうしようもなく人を狂わせる未知の深淵でした。

「……あそこも、舐めなきゃいけないんですか?」

掠れた声で問いかけると、佐伯さんは挑発するように薄く笑い、彼の髪に指を絡めてぐいと自分の方へ引き寄せました。

「知りたいんでしょ? 自分で確かめてみて」

その言葉に背中を押されるように、指は意を決して顔を寄せました。鼻腔を突くのは、先ほどのバニラの香りではなく、もっと濃厚で、湿度を含んだ女性特有の強い匂い。一瞬、強烈な嫌悪感が脳をかすめ、指は動きを止めました。他人の、それも女性の最も秘められた場所に口を寄せるという行為の生々しさに、本能が警鐘を鳴らします。

けれど、その不快なはずの「生臭さ」こそが、今の彼にとっては強烈なエロティシズムの源泉でした。

指は、震える手で彼女の柔らかい肉を割り、そこへ舌を這わせました。 自分の口内に広がる、塩気と、言葉にできない複雑な熱い味。

「……っ、ん、指くん……っ!」

その瞬間、佐伯さんの喉から、先ほどまでの余裕をかなぐり捨てたような鋭い喘ぎ声が漏れました。彼女の腰が大きく跳ね、指の頭を抱え込むように力がこもります。

(喜んでる……僕が、この人を、変えているんだ)

自分が彼女の身体をコントロールしているという全能感。嫌悪感を感じていたはずの口内の感触が、彼女の乱れる呼吸と重なることで、最高のスパイスへと変わっていきました。指は夢中で、彼女の最も敏感な場所に舌を当て、吸引し、貪りました。自分の顔が彼女の体液で汚れ、彼女の匂いに塗りつぶされていくことが、これ以上ないほどに彼を興奮させました。

16歳の少年は、他人の肉体という迷宮の中で、自分自身の新しい欲望の形を、その舌と指先で刻み込んでいったのです。

指は、ただ無我夢中でした。

鼻を突く匂いも、口内に広がる独特の味も、もはや嫌悪の対象ではなく、彼を突き動かすガソリンのようなものに変わっていました。舌を必死に動かし、彼女の最も熱い場所に這わせるたびに、そこからは際限なく、熱を帯びた蜜が溢れ出してきます。

なめても、なめても、それは止まることを知りません。

指の顎は彼女の体液で濡れ、琥珀色の光を反射して不謹慎なほどにテカテカと輝いていました。吸い上げるたびに「クチュ、クチュ」と、静かな部屋に不純な音が響き渡ります。その音が、指の耳を、脳を、さらに激しく刺激しました。

「あ……っ、指くん、そこ……すご、い……っ!」

佐伯さんの声は、もう大人の余裕など微塵も感じられないほどに掠れ、乱れていました。彼女の白い指先が、指の髪をむんずと掴み、自分のそこへと力任せに押し付けます。溢れてくるそれは、指の口の端から零れ、彼女の太ももを伝い、シーツに黒いシミを作っていきました。

指は、自分が得体の知れない大きな生き物に飲み込まれていくような、あるいは自分がその生き物を内側から食い破ろうとしているような、狂気的な興奮の中にいました。

溢れれば溢れるほど、指はそれを一滴も逃すまいと、さらに深く、さらに強く、彼女の深淵へと顔を埋めました。もはや自分の鼻がどこにあるのか、どこまでが自分の唇なのかも分からなくなるほどの密着感。

「もう……だめ……っ、指くん、入れて……お願い……!」

ついに、佐伯さんが崩れ落ちるように懇願しました。彼女の腰は激しく波打ち、あふれ出た蜜で、二人の境界線はこれ以上ないほどに滑らかに、そして淫らに整えられていました。

指は顔を上げました。彼の口元は濡れそぼり、瞳には一人の女を支配したという、残酷で純粋な光が宿っていました。16歳の少年の顔からは、先ほどまでの迷いや不安は消え去り、ただ目の前の獲物を完遂させようとする、男の情動だけがそこにありました。

指は、溢れ出した熱情をそのままぶつけるように、佐伯さんの白い体にのしかかりました。彼女の肌は汗と蜜で滑り、重なり合った胸元からは、お互いの激しい鼓動がダイレクトに伝わってきます。

先ほどまでの口づけや愛撫で、彼女の準備は万全に整っているはずでした。指は、自分の熱り(ほとぼり)を彼女の最も熱い場所へと導き、意を決して腰を押し進めました。

「……っ」

しかし、期待していた滑らかな感覚は訪れませんでした。 硬い壁に突き当たったような、あるいは、入り口を力ずくで押し広げようとするような、鈍い抵抗感。指は、力加減がわからないまま、さらに体重をかけて腰を突き出しますが、それは彼女の肌を虚しく滑るか、入り口付近で押し留められてしまうだけでした。

AVで見たシーンでは、もっと簡単に、吸い込まれるように収まっていたはずなのに。現実はあまりにも不器用で、無様でした。

「くそっ……なんで……」

指の口から、焦燥感に満ちた言葉が漏れました。一刻も早く、この張り裂けそうな熱を彼女の中に沈めてしまいたいのに、肝心の「そこ」がどこにあるのか、どう角度をつければいいのかが分かりません。焦れば焦るほど腰の動きはぎこちなくなり、せっかくの興奮が、言いようのない無力感へと変わり始めます。

16歳の指にとって、それは高く、厚い「大人の壁」そのものでした。 膝を立て、腕を震わせながら何度も試みますが、そのたびに、自分の未熟さを突きつけられるような鈍い衝撃が返ってくるだけです。

佐伯さんは、指の背中に手を回し、必死にもがく少年の熱を静かに受け止めていました。彼女は彼の焦りを感じ取り、耳元で優しく、けれどどこか楽しむような吐息を漏らしました。

「指くん、そんなに急がないで。……もっと、ゆっくりでいいのよ」

彼女の導きによって、指は再び、自分の身体と彼女の身体が交わる、その「真実の場所」を探り始めました。

佐伯さんは、焦りで強張る指の腰を優しく包み込むと、自分の手を添えて、迷子になっていた彼の熱を正しい場所へと導きました。

彼女の指先が触れ、角度が微調整されたその瞬間、先ほどまでの拒絶が嘘のように、世界がふわりと開きました。

指が恐る恐る腰を沈めると、熱く、濡れた未知の粘膜が、彼の先端をゆっくりと飲み込んでいきました。一気に押し寄せる、圧倒的なまでの密着感。スラックス越しや自分の手とは比較にならない、締め付けられるような、それでいてすべてを許容されるような包容力に、指は思わず短く喘ぎ、彼女の肩に顔を埋めました。

「あ……っ、これ……っ」

入った。 その確信が脳を突き抜けた瞬間、指の全身を、経験したことのない重厚な快感が駆け巡りました。

自分の一部が、自分ではない誰かの体の中に深く埋まっている。その異質な、けれど奇跡的な一体感。佐伯さんは、彼を迎え入れた痛みを微かな眉の動きで飲み込み、代わりに満足げな、どこか誇らしげな表情で彼の背中を強く抱きしめました。

「そう……いいのよ、指くん。そのまま、ゆっくり動いてみて」

彼女の促しに従い、指は恐る恐る、けれど本能に突き動かされるように腰を動かし始めました。引き抜くたびに、絡みつくような未練を残し、再び押し込むたびに、彼女の奥深い場所が自分の熱を証明してくれる。

琥珀色の光の下で、二人の影はひとつに溶け合っていました。 指はもう、AVの男優と自分を比べることも、自分の未熟さを恥じることも忘れていました。ただ、目の前で自分を求めて声を上げるこの女性を、もっと深く、もっと強く感じたい。その一心で、彼は16歳の未完成な体すべてを使って、大人の女性が用意してくれた「愛」という名の迷宮を、一歩ずつ、深く突き進んでいきました。

指の脳内は、未曾有の衝撃で真っ白に塗りつぶされていました。

(これが……これこそが、セックスなのか?)

これまで想像してきたどんな妄想も、画面越しに眺めていたどんな映像も、今この瞬間に自分の腰から脳髄へと突き抜ける「本物の快感」の前では、色褪せた偽物に過ぎませんでした。

彼女の体の中は、驚くほど熱く、そして生き物のように脈打っていました。一突きするごとに、濡れた粘膜が自分のすべてを吸い込み、逃がすまいと締め付けてくる。その圧倒的な密着感は、単なる肉体的な刺激を超え、指の魂そのものを内側から引きずり出そうとしているかのようでした。

「あ……あぁっ、すごい……佐伯さん、これ……っ!!」

指は、自分の声が情けなく裏返るのも構わず、獣のような喘ぎを漏らしました。 腰を動かすたびに、脳がとろけて形を失っていくような感覚。内臓を直接撫でられているような、あまりにも生々しく、凶暴なまでの悦楽。それは16歳の少年が受け止めるにはあまりに巨大すぎる快感の渦でした。

好きでもない、よく知りもしない隣人。 けれど今、この瞬間、指にとって世界には彼女の体温と、自分を繋ぎ止めているこの熱い結合部しか存在しませんでした。

嫌悪感も、羞恥心も、未熟さゆえの不安も、すべてがこのとんでもない快感の奔流に押し流されていきます。指は、自分が壊れてしまうのではないかという恐怖に駆られながらも、さらなる深淵を求めて、無我夢中で彼女の奥へと腰を叩きつけました。

「そう……指くん、もっと……全部、ちょうだい……っ」

佐伯さんの声が、絶頂の波の中で歪んで聞こえます。 指は、自分の内側で何かが限界まで膨れ上がり、真っ赤に熱した鉄のように爆発する瞬間が近づいているのを悟りました。彼は、琥珀色の光が乱反射する部屋の中で、ただひたすらに、自分を「男」へと変貌させていくその暴力的なまでの快感に、身も心も委ねていきました。

脳が沸騰するような快感の頂点に達した瞬間、指の視界から琥珀色の光すら消え去り、世界はただ一点の熱い衝撃へと収束しました。

「あ、っ……あああああぁぁっ!!」

喉を掻き切るような叫びとともに、指は佐伯さんの体に、これまで経験したことのない激しさで組み敷きました。彼の腰は自分の意志を離れて猛烈に震え、彼女の奥深くで何かが堰を切ったように爆発します。

一滴、また一滴と、文字通り自分の命のすべてを彼女の中に預けるような感覚でした。16年間、彼の体の中に眠っていた未熟な熱情が、濁流となって佐伯さんの内壁を叩きます。指は、自分の内臓までもが絞り出されてしまうのではないかと思うほどの収縮に、ただ体を強張らせて耐えることしかできませんでした。

指先はシーツをむしり取り、爪が白くなるほど彼女の背中に食い込んでいます。佐伯さんもまた、少年の最後の一滴までを逃さぬよう、そのしなやかな足で彼の腰を強く絡め取り、すべてを飲み込んでいきました。

やがて、激しい脈動が静かな余韻へと変わり、指の体から力が抜けました。

琥珀色の部屋には、二人の混じり合った荒い呼吸と、再び激しさを増した雨音だけが残されました。指は、彼女の胸元に顔を埋めたまま、動くことができません。自分のすべてを絞り出し、空っぽになったような感覚。けれど、その空洞には、先ほどまでの嫌悪感や不安に代わって、重く、確かな「大人の重み」が流れ込んでいるようでした。

佐伯さんは、汗ばんだ指の髪をゆっくりと撫で、彼の耳元で小さく、けれど優しく囁きました。

「指くん……全部、もらったわよ」

その言葉を聞いたとき、指は自分がもう二度と、自分の指先を見つめて閉じこもる少年には戻れないことを悟りました。16歳の夜。雨とバニラの香りに包まれた琥珀色の部屋で、彼は一人の女性によって「男」という名の、孤独で、けれど熱い荒野へと放り出されたのでした。

窓の外では、まだ雨が止む気配もありません。指は彼女の腕の中で、初めて知った世界の広さと、その残酷なまでの美しさに、ただ静かに瞳を閉じました。

賢者モードのような静寂が訪れるはずだったその瞬間、指は自分自身の身体に起きている、理解を超えた現象に戸惑っていました。

すべてを出し切り、魂まで空っぽになったような感覚。それなのに、佐伯さんの体内に留まっている「そこ」は、萎えるどころか、さらに密度を増して熱く、硬く、彼女の粘膜を押し広げ続けていたのです。

「指くん……これ、何?」

佐伯さんが、驚きと少しの艶めかしさを孕んだ声を漏らしました。彼女は自分の内側に居座り続ける、先ほどよりもさらに猛々しくなった少年の熱量に、息を呑みました。

「全部出したんでしょう? 今日二回目なのに……全然小さくならないね」

彼女が腰を僅かに動かすと、指のそれは敏感に反応し、さらに血管を浮き上がらせるようにして脈打ちました。16歳の瑞々しく、底知れない生命力。一度扉を開け、未知の快楽を知ってしまった少年の肉体は、理性の制御を離れて、暴走を始めていたのです。

指自身も、自分の体の変化に怯え、けれどそれ以上に激しい興奮を覚えていました。

「……僕にも、わからないんです。でも、さっきよりずっと、熱いんだ」

佐伯さんの瞳に、一瞬だけ年上の余裕が揺らぎ、代わりに一人の女性としての情欲が再燃しました。一度は卒業させたはずの少年。けれど、目の前の彼は、すでに彼女の想像を超えた「男」の入り口に立っていました。

彼女は震える指の頬を両手で包み込み、貪るような、深い、深い口づけを再び交わしました。琥珀色の部屋の空気はさらに濃度を増し、終わるはずだった夜は、少年の尽きることのない渇望によって、再び幕を開けようとしていました。

「……いいわ。今度は、壊れるまでやめないから」

指は、彼女の言葉に応えるように、今度は自分から、より深く、力強く、彼女の奥へとその「熱」を沈めていきました。
佐伯さんは、まだ熱を帯びたままの指の体から離れるどころか、自らその上に跨がりました。琥珀色の光を背負った彼女のシルエットは、少年の目には神々しくも、恐ろしいほどに艶かしく映りました。

「次は、私の番よ」

彼女は指の両手をベッドに押しつけると、自らの腰をゆっくりと落とし込みました。指は、先ほどよりもさらに深く、彼女の熱情に飲み込まれていく感覚に息を呑みました。

佐伯さんは、もう導き手ではありませんでした。一人の飢えた女として、指という瑞々しい獲物を自分の好きなように貪り始めたのです。彼女は自分の快感の核心を探り当てるように、腰を回し、時に激しく、時にじりじりと焦らすように上下させました。

指の視界は、彼女の揺れる髪と、激しい動きに合わせて波打つ白い肌で埋め尽くされました。

「あ……あぁっ、指くん、すごい……!」

彼女が快感の頂上(いただき)を目指して速度を上げるたび、指の肉体もまた、彼女の情熱に応えるようにさらに硬く、熱く変質していきます。繋がっている部分から火花が散るような、とんでもない快感の向こう側。二人の境界線は汗と体液で完全に溶け合い、どちらの鼓動か分からないほど激しいリズムが部屋に響き渡りました。

指は、彼女の腰の動きに翻弄されながらも、必死にその光景を瞳に焼き付けました。自分を大人へと変えていくこの女性の、理性を失った表情、乱れた呼吸、そして自分を求める強い力。

やがて、二人の動きは限界を超えた加速を見せました。 佐伯さんが指の胸元に爪を立て、仰け反るようにして絶叫した瞬間、指もまた、彼女の体内で二度目の、そして先ほどよりもさらに深い爆発を迎えました。

快感の向こう側にある、真っ白な静寂。 二人は重なり合ったまま、崩れ落ちるようにベッドに沈み込みました。

窓の外では雨が静かに降り続いています。指は、自分の上に重なる彼女の重みを全身で感じながら、16歳の長い、長い夜がようやく一つの終わりを迎えたことを知りました。



最初は、ほんの少しの好奇心だったのかもしれません。隣に住む、まだ青い16歳の少年。その「指」という名を持つ純朴な少年を、少しだけからかい、大人の余裕で手ほどきしてやる。佐伯さんにとって、それは退屈な日常の「つまみ食い」のような、ささやかな遊びに過ぎませんでした。

しかし、彼女は決定的な見誤りをしていました。

16歳の少年の中に眠っていたのは、未熟な熱情などという生易しいものではなく、一度目覚めればすべてを飲み尽くす「怪物」だったのです。

「指くん……もう、待って……っ」

ベッドの上で力なく横たわる佐伯さんの瞳には、もはや先ほどまでの余裕など欠片も残っていませんでした。彼女が軽い気持ちで開いたその身体は、指の底知れない生命力と、執拗なまでの渇望によって、徹底的に暴かれ、食い荒らされていました。

彼は彼女の肌を、匂いを、そして秘められた熱を、まるで飢えた獣のように貪り続けました。彼女が「快感」だと思っていたものは、いつの間にか「支配」へと変質し、彼女の自尊心も、大人のプライドも、指の激しい腰使いと、あの真っ直ぐすぎる情動の前に、音を立てて崩れ去ったのです。

指は、彼女の耳元で獣のような低い呼吸を繰り返しながら、なおも彼女の奥深くを突き進みます。その瞳には、自分の人生を書き換えられた少年の面影はなく、ただ目の前の女性を完全に自分のものにしようとする、冷酷なまでに純粋な男の光が宿っていました。

佐伯さんは、指の背中に回した腕に力を込めることさえできず、ただ彼がもたらす過剰な快楽の波に、身を任せて溺れることしかできませんでした。彼女が導いたはずの迷宮で、迷子になったのは彼女の方だったのです。

つまみ食いをするつもりが、自分自身が食い尽くされ、空っぽにされていく。

「……ねぇ、指くん。あなたは、一体……誰なの?」

震える声で問いかけた彼女の言葉は、指の激しい抱擁によって再び掻き消されました。琥珀色の部屋の中で、16歳の「怪物」は、自分を大人にした女性の身も心も、最後の一片まで噛み砕き、飲み込んでいきました。

雨音だけが、すべてを知りながら夜の闇に溶けていきました。


                  完