指先の嘘 🔞

2025/12/25(木)
第一章:深夜のスタジオ、震える原石
深夜二時。
ビルの防音扉を隔てた向こう側、静寂に包まれているはずの第3スタジオから、微かな歌声が漏れ聞こえていた。
俺は足を止めた。
粗削りで、ピッチも不安定。だが、その声には鼓膜を直接撫で回されるような、不思議な引力があった。
(……いい素材だ)
俺は無意識に、ポケットの中で指先を動かした。ピアノを弾くときのように、あるいは、女の肌を愛でるときのように。
重い扉を開ける。
ブースの中にいたのは、制服姿の少女だった。名前はたしか、えま。事務所が抱える「売れない練習生」の一人だ。
「……っ!?」
俺の姿に気づき、えまは弾かれたように歌うのをやめた。目を丸くして、小動物のように怯えている。俺がこの業界で『神の手を持つ』と呼ばれるプロデューサーだとは、夢にも思っていないだろう。

「や、辞めさせないでください……! ここを追い出されたら、私……」
えまは今にも泣き出しそうな顔で俺の袖を掴もうとした。
やはりな。
俺は口角が上がるのを悟られないよう、冷徹な表情を崩さずに彼女の手首を掴んだ。
「事務所に報告されたくないか?」
「は、はい……お願いします、何でもしますから……」
『何でもします』。
その陳腐でありふれた言葉が、今の俺には最高のチケットに聞こえた。
「いいだろう。俺も鬼じゃない」
俺は掴んでいた彼女の手首を離し、代わりに人差し指を一本立てて、彼女の震える唇に押し当てた。
「んっ……」
「黙ってここを使わせてやる。その代わり、条件がある」
俺は唇に当てた指を、ゆっくりと下へ滑らせる。
顎のラインをなぞり、白く華奢な首筋を撫で、脈打つ喉仏のあたりでピタリと止めた。
えまがごくりと唾を飲み込む動きが、指先に生々しく伝わる。
「お前のその声帯(のど)、俺に貸せ」
「え……?」
「俺は新しい音を探している。お前の声は素材としては悪くないが、使い方が素人以下だ。だから俺が直接、開発してやる」
俺は喉元に当てた指に少し力を込め、逃げられないように圧をかけた。
「俺の『指』で、どこをどう使えばいい声が出るのか、身体に直接教え込んでやるよ。……嫌なら、今すぐ事務所に電話するが?」
えまの瞳が揺れる。
拒絶すれば終わり。受け入れれば、この男のなすがまま。
彼女の呼吸が荒くなり、胸元が激しく上下するのを見ながら、俺はあえて優しい声で囁いた。
「賢い子だ。……さあ、口を開けて」
俺は彼女の返事を待たずに、濡れた唇の隙間に指を割り込ませた。
口腔内の熱く湿った感触。
舌の動き、顎の力み。すべてを指先で診察するように、俺は彼女の口の中を弄った。
「ふぁ……ん、あ……」
「そうだ。もっと力を抜け。舌の根元が硬いぞ」
えまは涙目になりながらも、俺の指を拒むことができない。
契約は成立した。
これからは、レッスンという名目があれば、俺はこの原石をどこまでも好きに弄れるのだ。

第二章:天才の音階(スケール)
「ストップ」
俺の短く冷たい声と共に、スタジオ内のトラックが停止した。
マイクの前に立つえまが、ビクリと肩を震わせる。
「……何か、違いましたか?」
「全部だ」
俺はミキシング卓の椅子を蹴るようにして立ち上がり、ブースの中へと入っていった。
部屋の隅に置かれたグランドピアノの蓋を乱暴に開ける。
「お前は譜面通りに音をなぞってるだけだ。カラオケなら90点だが、プロとしては0点だ」
「で、でも……ピッチは合ってると……」
「ピッチなんて機械でいくらでも直せる。俺が欲しいのは『グルーヴ』だ」
俺はピアノの椅子に座ると、鍵盤に指を走らせた。
複雑なジャズコードを含んだ、不協和音ギリギリの伴奏。俺の指先が鍵盤を叩くたび、空気が張り詰める。
「いいか、よく聴け。俺が弾くピアノは、一定のリズムじゃない。わざと拍(ビート)を遅らせたり、走らせたりしてる」
「はい……」
「お前の歌は、その揺らぎを無視して、メトロノームみたいに正確すぎるんだよ。だからつまらない」
俺はえまを鋭く睨みつけた。
「俺のピアノと『会話』しろ。俺が音を溜めたら、お前も息を止めろ。俺が走ったら、お前も食らいついてこい。……できるまで帰さないぞ」
「や、やってみます」
俺は再び鍵盤を叩き始めた。
今度はさっきよりも激しく、感情的な旋律。
えまが歌い出す。
最初は戸惑い、リズムが合わずに音が衝突する。
「違う! 遅い!」
俺は演奏を止めずに怒鳴る。
「耳で聴くんじゃない、肌で感じろ! 音の波に乗るんだ!」
えまの額に汗が滲む。必死な形相。
何度目かのリテイク。彼女の呼吸が変わり始めた。
思考を捨て、俺の指先が紡ぐ音に、本能だけで反応しようとしているのが分かる。
(……そうだ、そこだ)
俺はわざと、サビの直前でテンポを落とした(ルバート)。
普通の歌手ならつんのめる瞬間。
だが、えまの声は、俺のピアノの残響にピタリと寄り添い、一瞬の静寂を作った。
そして次の瞬間、俺がフォルテ(強音)で和音を叩きつけると同時に、彼女の喉から爆発的な高音が放たれた。
――突き抜けるような、クリアな倍音。
スタジオの空気がビリビリと震えるのを感じた。
計算や技術じゃない。俺の音に呼応して引き出された、彼女の魂の叫びだ。
俺はピアノを弾く手を止めた。
余韻だけが、静まり返ったスタジオに響いている。
えまは肩で息をしながら、呆然と立ち尽くしていた。自分でも今の声が信じられないといった顔だ。
「……今の感覚を忘れるな」
俺は静かに告げた。
褒め言葉は言わない。だが、俺の中のクリエイターとしての血が、確かに騒いでいた。
この原石は、磨けば光るどころじゃない。世界を揺らす爆弾になるかもしれない。
「休憩だ。10分後、今のをもう一度やる」

第三章:微熱とミネラルウォーター
「ほらよ」
俺はコンビニ袋から常温のミネラルウォーターを取り出し、えまの方へ放り投げた。
えまは慌ててそれを受け取ると、キャップをひねり、喉を鳴らして飲み干していく。その無防備な横顔は、さっきまでの鬼気迫る歌い手とは別人の、ただのあどけない女子高生だった。
「……生き返りました」
「喉を冷やすなよ。プロは身体が資本だ」
俺は自分の分のコーヒーを開け、ピアノの椅子に深くもたれかかった。
スタジオ内の照明を少し落とす。薄暗い空間に、エアコンの駆動音だけが響く。
「あの……」
えまがボトルを握りしめたまま、恐る恐る口を開いた。
「私、あんな声が出せるなんて知りませんでした。指さんのピアノに、無理やり引きずり出されたみたいで……怖いくらいでした」
「俺のピアノはただのガイドだ。あそこまで飛べたのは、お前の翼が強かったからだよ」
俺が珍しく素直に認めると、えまは驚いたように目を丸くし、それから嬉しそうに照れ笑いを浮かべた。
その笑顔を見て、俺の胸の奥で何かが小さく疼いた。
今まで多くの歌手を育ててきたが、こんなに純粋な反応をする奴はいなかった。どいつもこいつも、売れるための計算か、俺への媚びばかりだったからだ。
「指さんのその『指』、魔法みたいですね」
えまの視線が、俺の手に注がれている。
俺は自分の右手を見つめた。長く、骨ばった指。鍵盤を叩き、弦を弾き、そして多くの女を泣かせてきた手だ。
「魔法なんかじゃない。……これは、呪いみたいなもんだ」
「呪い?」
「あぁ。触れるものすべてを音に変えてしまう。そうしないと生きていけない、厄介な代物さ」
少し気取った言い方だったかもしれない。だが、えまは笑わなかった。
彼女は俺のそばまで歩み寄ると、ピアノの縁に手をつき、真剣な眼差しで俺を見下ろした。
「私は……その呪いに、かけられてみたいです。もっと、深いところまで」
ドキリとした。
彼女にその自覚はないだろう。だがその言葉は、まるで愛の告白のように、あるいは身を捧げる契約のように響いた。
俺はコーヒーをサイドテーブルに置き、立ち上がった。
彼女との距離が縮まる。
レッスン中のような威圧感はない。ただ、静かな熱だけがそこにある。
「……口が上手くなったな」
俺は自然な動作で、彼女の乱れた前髪を指先で払った。
指が額に触れる。さっきまでの熱唱で、彼女の肌は微熱を帯びていた。
「休憩は終わりだ。……帰るぞ」
「えっ? もう一度やるんじゃ……」
「今の声が枯れる前に休ませるのも、プロデューサーの仕事だ。送ってやる」
俺は背を向け、出口へと歩き出した。
これ以上そばにいると、ただの「指導者」の仮面が剥がれ落ちてしまいそうだったからだ。
背後で、えまが慌てて荷物をまとめる音がした。
その足音を聞きながら、俺はポケットの中で、熱を持った指先を強く握りしめた。

第四章:雨音と告白
地下駐車場を出ると、外は冷たい雨が降り始めていた。
俺の愛車のレザーシートに沈み込むようにして、えまは小さくなっている。高級車の静粛性は、車外の喧騒を遮断し、車内を完全な二人だけの世界にしていた。
「住所、ナビに入れるから言え」
「あ、いえ……その、駅の近くで下ろしていただければ」
「こんな雨だ。家の前まで送る。……まさか、男連れ込む予定でもあるのか?」
俺がからかうように言うと、えまは顔を真っ赤にして首を振った。
「ち、違います! ただ……私の家、古い団地で……この車じゃ目立つし、恥ずかしいから……」
彼女がポツリと告げた住所は、都心から少し離れた、所得の低い層が多く住むエリアだった。
ハンドルを切りながら、俺はバックミラー越しに彼女を見る。
「親は?」
「母と二人です。でも、夜はパートに出てるので、いつも私一人です」
「……そうか」
歌うことへの執着。ハングリー精神。
その根源が少し見えた気がした。彼女にとって歌は、貧しい日常から抜け出すための唯一のチケットであり、孤独を埋めるための手段なのだろう。
ワイパーが雨を弾く規則的な音だけが響く。
沈黙を埋めるように、俺は以前から気になっていたことを口にした。
「お前さ。ラブソングを歌う時、妙に淡白だよな」
「えっ……そうですか?」
「あぁ。テクニックはあるが、情念(パッション)が足りない。『愛してる』って歌詞が、辞書を読んでるみたいに聞こえる」
俺は信号待ちで車を止め、助手席の彼女の方を向いた。
「いい恋をしてない証拠だ。……今、付き合ってる奴は?」
えまは膝の上でギュッと手を握りしめ、視線を泳がせた。
「い、いません」
「過去には?」
「……いません」
俺は片眉を上げた。
「意外だな。その顔なら、言い寄ってくる男もいただろう」
「歌うことしか考えてこなかったし……それに」
えまは少し俯き、消え入りそうな声で続けた。

「私……男の人と、そういうこと……したことなくて。……手をつないだことくらいしか……ありません」

車内の空気が、一瞬で変わった気がした。
信号が青に変わり、俺はアクセルを踏み込んだ。加速するG(重力)が身体をシートに押し付ける。
(……マジかよ)
内心、舌なめずりをしたくなった。
この業界、十代でデビューする頃にはすでに大人びてしまっている子ばかりだ。
だが、こいつは違う。
身体も、心も、まだ誰にも開発されていない。
「……じゃあ、キスの味も知らないわけだ」
「は、はい……すみません、歌手として、経験不足ですよね……」
えまは恥じ入るように身を縮めた。
俺はハンドルを握る指に力を込めた。
「謝るな。……むしろ、好都合だ」
「え?」
「真っ白ってことだろ。これからどんな色にでも染まれる」
俺の声は、自分でも驚くほど低く、粘着質になっていた。
彼女が知らない「愛」も「快楽」も、すべて俺が最初に教え込むことができる。
その事実は、俺の独占欲と支配欲を強烈に刺激した。
「えま。お前のその『初めて』……全部、俺がプロデュースしてやる」
意味深な俺の言葉に、えまはきょとんとしていたが、やがて信頼しきった瞳で「はい!」と力強く頷いた。
その無防備さが、どれほど危険なことかを知りもせずに。


第五章:雨と視線、そして侵入者
団地の入り口に車を停めると、雨足はさらに激しくなっていた。
コンクリートの剥げ落ちた古びた外壁。ここが、あの透明な歌声が育った場所か。
「送っていただき、ありがとうございました」
えまがシートベルトを外し、ドアを開けようとする。
ふと、視界の隅に人影が映った。
団地の駐輪場の屋根の下。コンビニの袋を下げた少年が一人、呆然とこちらを見ている。
年の頃はえまと同じくらいか。雨に濡れるのも忘れて、この場違いな高級車と、そこから降りようとするえまを凝視していた。
(……なるほど。ハエが一匹、か)
俺は直感した。あの少年がえまに向ける視線は、単なる幼馴染のそれではない。焦がれるような、粘着質な好意だ。
「……待て、えま」
俺は彼女を制止し、先に運転席を降りた。
トランクから大きめの傘を取り出し、わざわざ助手席のドアを開けてやる。
「あ、すみません……」
「濡れるぞ。もっと寄れ」
俺は傘を広げると、彼女の肩を抱くようにして引き寄せた。
必要以上の密着。
えまは体を強張らせたが、抵抗はしなかった。
チラリと駐輪場を見る。
少年は、信じられないものを見るような顔で、俺たちを見ていた。
俺は少年に向かって、ほんの少しだけ口角を上げてみせた。
――見ろよ。お前の手の届かない高嶺の花は、今、俺の腕の中にいる。
「指さん? どうしました?」
「いや……行こうか」
俺たちは身を寄せ合い、雨の中を歩いた。
エレベーターのない階段を3階まで上がり、鉄製の錆びたドアの前へ。
えまが鍵を開ける間も、俺は傘を差し掛けていたせいで、スーツの片側はずぶ濡れになっていた。
「あ……指さん、背中が真っ濡れです!」
えまが申し訳なさそうに声を上げる。
「構わない。車に戻れば乾く」
「だ、だめです! 風邪ひいちゃいます。あの……狭くて汚い部屋ですけど、タオルだけでも使ってください」
俺は内心でほくそ笑んだ。計算通りだ。
彼女の罪悪感を刺激すれば、扉は開く。
「……悪いな。じゃあ、お言葉に甘えるか」
ガチャリ、と鍵が開く音。
それは、彼女の聖域への侵入許可証だった。
下の駐輪場にいる少年は、俺がこの扉の中に消えていくのを、どんな気持ちで見上げているだろうか。
第六章:聖域の匂い
「どうぞ……散らかってますけど……」
通された部屋は、予想通り狭かった。
玄関には安いスニーカーと学校指定のローファー。
六畳の和室には、使い古された家具と、彼女の生活の匂いが充満していた。
シャンプーの残り香、古い畳の匂い、そして……微かに甘い、少女特有の体臭。
高級ホテルのスイートなんかより、よほど興奮する空間だ。
「お母さんは?」
「今日は夜勤なので、朝まで帰ってきません」
完璧だ。この密室には、今、俺とえましかいない。
「タオル、持ってきますね! 適当に座っててください」
えまが慌てて奥の洗面所へ引っ込んでいく。
俺はその隙に、部屋を見渡した。
勉強机の上には、ボロボロになるまで書き込まれた歌詞ノート。壁には安物のギターが立てかけてある。
俺は彼女のベッド——といっても布団だが——のそばに歩み寄り、枕元に置かれたクッションを指先でなぞった。
(ここで寝て、ここで歌って……ここで俺のことを考えていたのか?)
所有欲が満たされていくのを感じる。
そこへ、えまがタオルを持って戻ってきた。
「お待たせしまし……あ」
俺が彼女の寝具に触れているのを見て、えまが顔を赤くして立ち止まる。
プライベートな空間を見られる恥ずかしさは、服を脱がれるのと同義だ。
「……いい匂いがするな、この部屋」
俺はわざと言ってやった。
「へ、変なこと言わないでください……! はい、タオル!」
彼女はタオルを押し付けるように俺に渡した。
俺はそれを受け取りながら、濡れた髪を拭くふりをして、彼女との距離を一歩詰めた。
狭い部屋だ。逃げ場はない。
外では激しい雨音が、世界とこの部屋を遮断するように響き続けていた。
「えま。……練習の続き、ここでもできるな」
俺の低い声が、狭い部屋に重く響いた。

第六章:雨音と、暴かれた本心
「指さん、背中がびしょ濡れです!」
「あぁ……車に戻れば乾く」
「だ、だめです! 風邪ひいちゃいます。タオル使ってください!」
えまに押し切られる形で、俺は上着を脱いだ。
ワイシャツも肌に張り付いて気持ちが悪い。俺は少し躊躇ってから、ボタンを外し、シャツも脱ぎ捨てた。
狭い六畳間に、男の上半身が晒される。
タオルを持ってきたえまが、俺の裸を見て「ひっ」と小さな悲鳴を上げ、茹でたタコのように赤くなった。
「な、なんで脱ぐんですか……!?」
「濡れたままじゃ風邪を引くと言ったのはお前だろ。……それとも、男の身体を見るのは初めてか?」
「み、見ません! 向こう向いてますから!」
えまは慌てて背を向け、自分の濡れたスカートの裾を気にし始めた。
その隙に、俺は部屋の探索を再開する。
ふと、勉強机の上に広げっぱなしの大学ノートが目に入った。
歌詞の書き留めかと思ったが、ページの隅に、見覚えのある男の似顔絵が落書きされている。
……俺だ。
しかも、その横には走り書きでポエムのような言葉が並んでいた。
『指さんの音が好き。あの指に触れられたい』
『今日、目が合った気がした。心臓がうるさい』
(……なるほど。ファン心理、というよりは……)
「お茶、淹れました……って、あーーっ!!」
振り返ったえまが、俺の手にあるノートを見て絶叫した。
「見ないで! 返してください!!」
彼女は必死の形相で飛びかかってきたが、俺は片手で彼女の頭を押さえ、軽くあしらった。
「『あの指に触れられたい』……か。随分と熱烈なラブコールだな」
「わ、忘れてください! それはただの妄想で……うぅ、死にたい……」
えまはその場にへたり込み、両手で顔を覆った。
憧れの相手に、とてつもなく恥ずかしい日記を見られたのだ。精神的なダメージは計り知れない。
俺はノートを机に戻し、彼女の前にしゃがみ込んだ。
「顔を上げろ」
「無理です……」
「命令だ」
恐る恐る顔を上げた彼女の瞳は潤み、頬は涙と羞恥で濡れている。
俺はその頬に指を這わせた。
「妄想だけじゃ、上手くならないぞ」
「……え?」
「お前も濡れてるな。足、冷えてるじゃないか」
俺の視線は、彼女の濡れたローファー越しの足元に向けられた。雨が染みて、靴下は冷たく湿っている。
俺は彼女の足首を掴み、強引に引き寄せた。
「ちょ、指さん!?」
「靴下、脱げよ。ここを冷やすと声が出なくなる」
俺は彼女の濡れた靴下を剥ぎ取った。
露わになった白い素足。雨で冷え切っているが、指先はピンク色に染まっている。
俺は自分の熱い掌で、彼女の冷たい足裏を包み込んだ。
「ひゃうっ……!」
「冷たいな。温めてやる」
俺は親指の腹を使い、土踏まずのツボをぐりぐり押し込みながら、足首からふくらはぎへと指を滑らせていく。
マッサージという名目だが、その手つきは粘着質で、這うようだった。
「んっ……くすぐったい、です……」
「我慢しろ。筋肉が強張ってる。これじゃいいビブラートは出ない」
俺の指は、ふくらはぎの肉を揉みしだきながら、徐々に上へ、膝裏へと侵入していく。
膝裏の窪みを人差し指と中指で挟むように擦り上げると、えまの喉から甘い声が漏れた。
「あ……っ、そこ、変な感じ……」
「リンパが詰まってるんだよ。……ほら、日記に書いてあっただろ。『この指に触れられたい』って」
俺は意地悪く囁きながら、濡れたスカートの裾を少しめくり、太ももの内側に手をかけた。
「望み通りにしてやってるんだ。……感謝しろよ」
「う、あ……指さん……」
精神的に丸裸にされた恥ずかしさと、巧みな指使いによる快感。
えまは抵抗する力を失い、狭い畳の上で、俺にされるがまま身を任せ始めた。

第七章:愛の定義と、指先の熱
本来なら、このまま押し倒して奪ってしまうのが男の本能だろう。
だが、俺は踏みとどまった。
ただ抱くだけでは、彼女は「経験した」ことにはなっても、俺が求める「表現者」にはなれない。
未熟な彼女に教えるべきは、快楽そのものではなく、そこに至るまでの**「感情の爆発」**だ。
「……んっ、あ……やっ……」
俺の手は、太ももの内側からさらに奥、秘められた場所へと滑り込んだ。
下着越しに触れたそこは、すでに自身の熱と雨の湿り気で、ぐっしょりと濡れていた。
「いい反応だ。……でも、まだ足りない」
俺は彼女の耳元に唇を寄せ、低い声で囁く。
「さっき車で言ったな。『愛してる』の歌詞が辞書みたいだと」
「は、はい……ふぅ……っ」
「教えてやるよ。本当の愛の言葉ってのは、理屈じゃない。……頭がおかしくなるくらい、熱くて、苦しいもんだ」
俺は中指を、彼女の秘所に宛てがい、ゆっくりと、しかし確実に円を描き始めた。
ピアノで最も繊細なピアニッシモ(最弱音)を奏でる時のタッチだ。
焦らすような愛撫に、えまの腰がビクビクと跳ねる。
「声を出せ。我慢するな」
「ん……ぅ、あ、ああっ……!」
「そうだ。歌う時と同じだ。腹の底から、感情を吐き出せ」
俺は徐々に指の動きを早めた。
リズムを変える。強弱をつける。
まるで難解なジャズのインプロビゼーション(即興演奏)のように、俺の指は彼女の最も敏感な一点を執拗に攻め立てた。
「ひっ、あ、すごい……指さん、の、ゆび……!」
「感じるか? 俺の指が、お前の身体を弾いてるんだ」
俺はもう一方の手で、彼女の胸のふくらみを着衣の上から強く掴んだ。
痛みと快感の波状攻撃。
えまの瞳から涙がこぼれ、焦点が定まらなくなっていく。
「こわい、です……私、おかしくなっちゃう……!」
「なればいい。壊れるくらい感じて、初めて『愛』が何かわかるんだよ」
俺は仕上げにかかった。
指先に渾身の力を込め、激しいトレモロ(振動)を与える。
一点集中。逃げ場のない刺激。
「イく瞬間、男の名前を呼べ。……それが、お前にとっての『愛してる』だ」
「あ、あ……だめ、もう、むりぃぃぃ……ッ!!」
えまの身体が弓なりに反り上がる。
彼女は喉が張り裂けんばかりの悲鳴にも似た声を上げ、俺のシャツの袖を力任せに握りしめた。
「――指さんっ……!!」
絶叫と共に、彼女の身体が激しく痙攣する。
俺の指先は、その収縮と熱を余すところなく感じ取っていた。
何度も、何度も波が押し寄せ、やがて糸が切れたように、彼女は脱力して畳の上に沈んだ。
部屋には、荒い呼吸音と、雨音だけが残された。
俺はゆっくりと手を離し、乱れた彼女の髪を撫でた。
汗と涙で濡れたその顔は、数分前までのあどけない少女のものではなく、一皮むけた「女」の顔をしていた。
「……よくできました」
俺は耳元で囁くと、彼女の唇に軽く、触れるだけのキスを落とした。
「その感覚を忘れるな。……次こそ、本物のラブソングを歌ってみせろ」
えまは返事をする力も残っていないのか、うっとりと潤んだ瞳で俺を見つめ返すだけだった。
だが、その瞳の奥には、俺への絶対的な服従と、焦がれるような熱情が確かに宿っていた。

第八章:濡れた歌声
翌日のスタジオ。空気は張り詰めていた。
ミキシング・エンジニア、ディレクター、そして事務所の社長までもが、固唾を飲んでブースの中を見つめている。
「……テープ回せ」
俺が短く指示を出すと、トラックが走り出した。
昨日はダメ出しばかりだったバラード曲。
ブースの中のえまは、マイクスタンドを両手で包み込むように握りしめ、ゆっくりと瞼を閉じた。
(思い出せ。昨夜の熱を。俺の指の感触を)
俺はガラス越しに念を送る。
えまが口を開いた。
『――愛してる、なんて言わないで……』
その第一声が出た瞬間、隣にいたエンジニアが「ぞくっ」と身震いしたのが分かった。
昨日までの優等生な歌声ではない。
吐息混じりで、掠れていて、それでいて芯がある。
まるで、情事の直後の気怠さと、満たされない渇望がそのまま音になったような、生々しい「女」の声だった。
サビの高音パート。
えまは苦しげに眉を寄せ、身体をよじりながら声を張り上げた。
その姿は、昨夜俺の指先で絶頂に達した時の姿と完全に重なっていた。
『あなたが欲しい……ただ、それだけなのに……』
曲が終わっても、誰も言葉を発しなかった。
圧倒的な余韻。
スピーカーから聞こえるえまの荒い呼吸音だけが、スタジオを支配していた。
「……化けたな」
社長がポツリと漏らした。「指君、君はあの子に一体どんな魔法をかけたんだ?」
俺はコンソール(操作卓)のフェーダーを、愛おしむように指先で撫でながら答えた。
「魔法じゃありませんよ。……ただ、少し『皮を剥いて』やっただけです」

第九章:中毒症状
休憩時間。
廊下の自販機コーナーに行くと、えまが先に来ていた。
俺の姿を見るなり、彼女の表情がパッと華やぐ。昨日までの怯えたような顔とは大違いだ。
「指さん……! どうでしたか、今の歌」
「悪くない。昨日の『レッスン』の効果が出たな」
俺が近づくと、えまは周囲を気にする素振りを見せつつも、さらに一歩、俺の方へ体を寄せてきた。
その瞳は潤み、頬は上気している。
「歌っている時……ずっと考えてました。指さんのこと」
彼女は小声で、とんでもないことを口走った。
「マイクを握りながら……これが指さんの手だったらって。そうしたら、身体の奥が熱くなって……声が勝手に出て……」
「……随分と淫らな妄想だな」
「だって……忘れられないんです」
えまは俺の右袖を、すがるように掴んだ。
「ねぇ、指さん。……次は、いつしてくれますか?」
「何のことだ?」
「とぼけないでください。……『続き』です。もっと教えてほしい。私、もっと凄い声が出せるようになりたい……」
完全に依存している。
歌の快感と、性的な快感が脳内でリンクしてしまったのだ。
俺は彼女の顎を指ですくい上げ、唇が触れるか触れないかの距離で囁いた。
「焦るな。ご褒美は、いい子にしてたらまたやってやる」
えまは不満げに、しかし嬉しそうに「……はい、先生」と答えた。
調教は順調だ。そう思った矢先だった。

第十章:レンズ越しの視線
その日の深夜。
レコーディングを終え、疲れ果てたえまをタクシーに乗せて見送った後、俺は自分の車へと向かった。
駐車場の暗がり。
キーのロックを解除しようとした時、背後から声をかけられた。
「……あんたか」
振り返ると、そこには昨日の少年が立っていた。
雨の日の団地で、俺たちを見ていたあの少年だ。
名前はたしか、えまの幼馴染の「レン」とか言ったか。
「えまに何をした」
少年の声は震えていたが、その目には明確な敵意があった。
「何の話だ?」
「とぼけるなよ! 今日のえま、様子が変だった。……あんな顔、今まで見たことなかった」
勘のいいガキだ。
俺は鼻で笑った。
「プロとしての自覚が芽生えただけだ。部外者は帰ってママのおっぱいでも吸ってな」
俺が車のドアを開けようとすると、少年はスマホを取り出し、画面を突きつけてきた。
「……これを見ても、部外者って言えるのか?」
画面に映っていたのは、昨日の団地の写真。
俺とえまが相合傘で歩き、そして――俺が彼女の部屋に入っていく瞬間の後ろ姿だった。
「未成年のタレントの部屋に、プロデューサーが入り浸り。……これ、週刊誌に売ったらどうなるかな」
少年は歪んだ笑みを浮かべた。
「えまを返せよ。そしたら、この写真は消してやる」
なるほど。
ただの嫉妬深い幼馴染かと思えば、意外と面白いカードを切ってくる。
俺は車のドアから手を離し、ゆっくりと少年に向き直った。
脅し?
いや、これはチャンスだ。
この障害さえも利用して、えまをもっと深い泥沼に引きずり込める。
俺はポケットからタバコを取り出し、ゆったりとした動作で火をつけた。
そして、煙と共に冷酷な言葉を吐き出した。
「いい度胸だ、小僧。……だが、その写真一枚で、俺から『指一本』でも触れられると思ってるのか?」

第十一章:子供と大人の決定的な差
「……は?」
俺の余裕の態度に、レンという名の少年は虚を突かれたように固まった。
「び、ビビってないのかよ。えまがクビになってもいいのか?」
俺はゆっくりと紫煙を吐き出し、少年を見下ろした。
「勘違いするなよ、坊主。俺は『天才プロデューサー』だ。スキャンダルの一つや二つ、むしろ武勇伝になる。痛くも痒くもない」
俺は一歩、少年に近づく。
「だが、えまはどうかな? まだデビューもしていない無名の新人だ。この写真が出れば、彼女は『枕営業で媚びを売った汚れた女』として世間に認知される。歌手としての人生は終わりだ」
「な……っ」
少年の顔が青ざめる。
「お前がその送信ボタンを押せば、俺は少し困る程度だが、えまは死ぬ。……彼女の夢を殺すのは、俺じゃない。その写真を撮ったお前だ」
「う、嘘だ……俺は、えまを助けたくて……!」
「助ける? 笑わせるな」
俺は吸っていたタバコを足元に捨て、革靴のつま先でグリグリと踏み消した。
その動作だけで、少年はビクリと肩を震わせた。
「お前はえまを助けたいんじゃない。手の届かない場所へ行く彼女を、自分のレベルまで引きずり下ろしたいだけだ」
図星を突かれたのか、少年は言葉を詰まらせ、スマホを持つ手が小刻みに震え始めた。
ここからがトドメだ。
俺はさらに距離を詰め、少年の耳元へ顔を寄せた。
「それに……お前は大きな勘違いをしている」
「……なにがだ」
「俺が無理やり部屋に入ったと思ってるのか? ……逆だよ」
俺は昨日、えまを愛でた右手の人差し指と中指を、少年の目の前に突きつけた。
「彼女は俺を招き入れたんだ。そして、この指にすがってきた」
「やめろ……聞きたくない……!」
「昨日の雨の音、激しかっただろう? だがな、部屋の中のえまの声は、もっと凄かったぞ」
俺は少年の肩に手を置き、逃げられないように強く掴んだ。残酷な囁きは続く。
「お前が『えまちゃん』なんて呼んで、遠くから見つめているだけの唇も、舌も、その奥も。……この指は全部知ってる。お前が一生かけても拝めないようなとろけた表情で、彼女は俺に『もっと』とねだったんだよ」
「ああああっ!!」
少年は叫び声を上げ、俺の手を振り払った。
目には涙が溜まっている。憧れの幼馴染が、目の前の男によって「女」にされてしまったという事実。その敗北感と絶望感は、少年の未熟な精神を破壊するには十分すぎた。
「……もういい、消えろ」
少年は力なくスマホを下ろした。戦意喪失だ。
「賢明な判断だ」
俺は冷たく言い放ち、車のドアを開けた。
乗り込む直前、俺は最後に振り返り、慈悲のような残酷な言葉を投げかけた。
「安心しろ。お前の好きだった『清純なえまちゃん』はもういないが、代わりに俺が『最高の歌姫』にしてやる。……これからは、CD越しに彼女の声を聴いてオナニーでもしてな」
重厚なドアが閉まる音。
エンジンがかかり、俺の車は走り出した。
バックミラーの中で、少年はその場に崩れ落ち、雨上がりのアスファルトに膝をついていた。
これで邪魔者は消えた。
そして、えまは完全に「過去」と決別し、俺だけのものになったわけだ。

第十二章:山荘の檻、昼と夜の境界線
レンという邪魔者を排除してから数日後。
俺たちは人里離れた山奥の別荘にいた。デビューアルバムを完成させるための、一週間の「強化合宿」だ。
「……んっ、はぁ……指さん、もう……」
「まだだ。サビのメロディが決まってない」
広々としたリビングには、グランドピアノと散乱した譜面。
そして、一糸まとわぬ姿でピアノの上に寝そべるえまの姿があった。
窓の外は深い森。誰の目もないこの場所で、俺たちは昼夜の区別なく、音楽と快楽に溺れていた。
「いいか、えま。音階(スケール)を身体で覚えろ」
俺は右手で鍵盤を叩きながら、左手で彼女の白い肌を鍵盤のように弾く。
高い音が出る時は胸の突起を爪先で弾き、低い和音が響く時は、太ももの内側を重く這う。
「ひゃうっ……! 音と、刺激が……混ざるぅ……!」
「そうだ。俺が『ド』を弾いたら、お前はそこを感じるんだ」
一週間の監禁生活。
食事と睡眠以外の時間は、すべて俺の指に支配されていた。
えまの羞恥心は完全に麻痺し、今では俺がピアノに向かうだけで、条件反射のように身体を火照らせるようになっていた。
この合宿で、彼女は「歌手」としての技術と、「女」としての絶頂を同時に叩き込まれたのだ。

第十三章:幕開けの儀式
そして迎えた、デビューライブ当日。
満員のライブハウス。開演5分前。
楽屋の鏡の前で、えまはガタガタと震えていた。
「どうしよう……指さん、足が震えて……声が出ないかも……」
「合宿の成果を忘れたのか?」
俺はスタッフを全員部屋から出し、鍵をかけた。
衣装は純白のドレス。だが、その下にある身体は、俺だけが知る感度抜群の楽器だ。
「緊張してるなら、ほぐしてやる」
俺はえまを鏡台に押し付け、ドレスのスカートをまくり上げた。
「ひっ! でも、もう本番が……!」
「5分ある。……お前にとっては十分すぎる時間だろ?」
俺は躊躇なく、指を深部へと突き入れた。
前戯なしの、強引な指使い。
だが、今のえまにはそれがスイッチだった。
「あぁっ! ……ん、んんっ!」
「声は抑えろ。外に聞こえるぞ」
俺は的確に彼女の弱点を攻め立てる。
恐怖と緊張が、瞬く間に快感へと変換されていく。
彼女の脳内麻薬がドバドバと溢れ出し、震えは歓喜の痙攣へと変わった。
「い、いく……っ! 指さん、イき、ますっ……!」
「いけ。そして、その顔のままステージに立て」
絶頂の余韻で瞳を潤ませ、頬を紅潮させたえま。
スタッフが呼びに来た時、そこには不安げな少女ではなく、艶めかしいオーラを纏った歌姫が立っていた。
その日のライブは伝説になった。
観客は知らない。彼女がなぜ、あれほど情熱的で、どこか恍惚とした表情でラブソングを歌えたのかを。

第十四章:電波越しの秘密
デビューから一ヶ月。
えまの人気は爆発し、ついに全国ネットの生放送歌番組への出演が決まった。
煌びやかなセット。数百万人が視聴する大舞台だ。
本番直前のCM中。
ステージに立つえまは、こわばった笑顔でカメラを見つめていた。
無理もない。
今日の彼女の衣装の下、下着の中には、俺が仕込んだ小さなローターが収まっているのだから。
スタジオの袖、モニターの死角に俺は立っていた。
ポケットの中には、小型のリモコン。
(さあ、テストといこうか)
俺はニヤリと笑い、スイッチを『弱』に入れた。
「……っ!?」
画面越しのえまが、ビクリと肩を跳ねさせた。
マイクを握る手に力が入り、内股がもじもじと動く。
カメラは彼女のアップを映している。視聴者は「緊張しているのかな?」としか思わないだろう。
『30秒前です!』ADの声が飛ぶ。
俺は視線をえまに固定したまま、ダイヤルを少し回した。
振動のパターンを変える。断続的なリズムから、うねるような波へ。
えまが俺の方を見た。
瞳が訴えている。*「やめて、指さん。声が出ちゃう」*と。
俺は冷たく微笑み、口パクで伝えた。
『いい声で、鳴け』
『5、4、3……キュー!』
イントロが流れる。
俺は容赦なく、出力を**『強』**へと上げた。
「――ぅ、あ……愛して、る……なんて……っ」
歌い出しの声が、艶かしく裏返る。
生放送だ。逃げ場はない。
えまは必死に理性を保とうとするが、股下で暴れ回る振動がそれを許さない。
高音パートに差し掛かるたび、俺はさらにスイッチを弄る。
彼女の顔は汗ばみ、目はトロンと潤み、吐息混じりの歌声が全国のお茶の間に響き渡る。
ネットの実況掲示板がざわつき始めた。
『えまちゃん、今日なんかエロくない?』
『目がヤバい。憑依してるみたいだ』
ラストのサビ。
俺はリモコンのボタンを長押しし、最大出力で固定した。
「あぁぁーーっ!!」
それはシャウト(熱唱)にも聞こえたし、絶頂の悲鳴にも聞こえた。
曲が終わると同時に、えまはその場に崩れ落ちるように膝をついた。
会場からは割れんばかりの拍手。
彼女は肩で息をしながら、カメラに向かって虚ろな、しかし最高に淫らな笑みを浮かべた。
番組終了後。
楽屋に戻ってきたえまは、涙目になりながら俺に抱きついてきた。
「ひどい……ひどいです、指さん……! 全国放送で、あんな……」
「でも、最高だったぞ」
俺は彼女の背中に手を回し、まだ微かに震えている身体を抱きしめた。
「トレンド1位だ。『えまの色気がすごい』ってな」
「……もう、お嫁にいけない」
「行く必要ないだろ。お前は一生、俺の『指』から逃げられないんだから」
えまは悔しそうに俺を睨んだが、次の瞬間には甘えるように胸に顔を埋めた。
彼女ももう、普通の刺激では満足できない身体になってしまったのだ。
俺はポケットの中のリモコンを握りしめた。
この指先一つで、彼女は天使にも、娼婦にもなる。
最高の玩具を手に入れた俺の退屈な日々は、まだまだ終わりそうになかった。
         第一部・完

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