第1話 放課後の補習と、隠しきれない魔力

ある日の放課後。指さんは、異世界の常識が抜けず、現代のテストで少しズレた解答をしてしまい、えま先生に呼び出されて補習を受けています。


「指くん、ここ。……『火魔法の詠唱』じゃなくて、『化学反応式』を書いてほしかったな」

夕日が差し込む物理準備室。 新任のえま先生は、赤ペンで真っ赤になった私の答案用紙を机に置き、困ったように眉を下げた。ふわりと、彼女から甘い紅茶のような香りがする。

「すみません、先生。故郷(あっち)のクセが抜けなくて」 「故郷……? まぁ、指くんは転校してきたばかりだもんね。でも、日本の高校を卒業するには、こっちのルールも覚えてもらわないと」

えま先生は熱心だ。25歳、教師1年目。 彼女は知らない。目の前にいる生徒が、指一本でこの校舎を消し飛ばせるほどの魔力を持っていることも、重力を操作してチョークを浮かせられることも。

私はあくびを噛み殺しながら、彼女の横顔を眺める。 この平和な世界で、私の能力なんて無用の長物――のはずだった。

「……あれ? キャビネット、揺れてない?」

えま先生が不思議そうに振り返る。 まずい。無意識に漏れ出た私の魔力に反応して、理科室のビーカーたちがカタカタと震え始めている。

「地震かな? 怖い……」 怯えて私の腕に掴まろうとするえま先生。 その距離、わずか数センチ。

 

ガタガタガタッ! 大きな揺れと共に、私の背丈よりも高いスチール棚が、えま先生の頭上めがけて倒れてきた。中には重い実験器具が満載だ。直撃すればただでは済まない。

「きゃっ!」 えま先生が頭を抱えてしゃがみ込む。

私はため息を一つつくと、**《身体強化レベル1》**を発動した。 倒れてくる数百キロの鉄塊を、左手一本、それも人差し指だけで軽く受け止める。

ドンッ。 鈍い音がしたが、棚はピタリと空中で静止した。

「……え? 痛くない?」 恐る恐る目を開けるえま先生。

私は音もなく棚を元の位置に戻し、何食わぬ顔でポケットに手を入れた。

「先生、この棚、建て付けが悪いですね。今、勝手にバランス崩して戻りましたよ」 「ええっ!? も、戻ったの? 私、死ぬかと思った……」 「古い校舎ですからね。床が傾いてるんでしょう。俺、用事あるんで帰りますね」

冷や汗をかいている先生を置いて、私は鞄を肩にかけた。 (危ないところだった。もう少しで反射的に棚を粉砕してしまうところだっ

「あ、指くん! 待ってよ、駅まで一緒に行きましょう」 校門を出たところで、えま先生が小走りで追いかけてきた。 放っておけない人だ。

その時、私の**《敵意感知》**スキルが脳内で警報を鳴らした。 上空80メートル。建設中のビルから、鉄骨が落下してきている。 狙いは――明らかにえま先生だ。

(やれやれ、この世界の重力ごときで私を出し抜けると思うなよ)

私は歩く速度を変えず、あくびをするふりをして空を見上げ、わずかに視線を細めた。 《空間歪曲》。

ヒュンッ! 落下していた鉄骨は、えま先生の頭上数メートルで突如軌道を変え、誰もいない公園の植え込みへと吸い込まれていった。

ズドォォン!! 凄まじい轟音が響く。

「ひゃああっ!?」 えま先生が驚いて私の背中に抱きついた。柔らかい感触と、震える体温が伝わってくる。 「な、なに今の音!? 何かが落ちてきたわよ!?」

私は平然とした顔で、彼女の方を振り返る。

「ああ、今のですか? たぶん、近所の子供が爆竹でも鳴らしたんじゃないですか?」 「ば、爆竹で地面があんなに揺れる!?」 「最近の爆竹は性能がいいですからね。それより先生、早く行かないと電車遅れますよ」

「う、うそぉ……絶対違うと思うんだけど……」

えま先生は涙目で私の服の裾を掴んだまま、警戒してキョロキョロしている。 彼女は気づいていない。 その植え込みの陰に、異世界から私を追ってきた「魔獣」の使い魔が潜んでいて、今まさに私が**《影縛り》**の術で動きを封じたことを。

私は拘束した使い魔に冷ややかな視線を送り(あとで尋問してやる)、えま先生にはニコリと笑いかけた。

「ほら、風が強いから気をつけてください。俺のそばを離れないほうがいいですよ」 「う、うん……指くんって、意外と頼りになるのね……」

第2話:『重力定数の乱れと、先生の不運な体質』
 
「……おかしい。絶対におかしいわ」

翌日の放課後。えま先生は理科準備室で、ストップウォッチと鉄球を手に、何やら計算に没頭していた。その髪は少し乱れ、目の下には薄いクマができている。

「指くん、昨日、鉄骨が落ちた場所を詳しく調べたんだけどね……あの軌道、ニュートン力学ではありえないのよ。まるで空中で意思を持って曲がったみたいに……」

私は先生の机に補習のプリントを置きながら、内心で舌打ちした。 (さすが理科教師。昨日の『爆竹』という言い訳は、少し無理があったか)

「先生、考えすぎですよ。風が強かったんですって」 「風速100メートル以上ないと、あの重量の鉄骨は曲がらないわ! それに、指くんが私の隣にいる時だけ、私の周りで変なことが起きすぎるの」

えま先生が身を乗り出してくる。25歳の若手教師らしい、真っ直ぐで疑うことを知らない瞳。

「指くん……あなた、実は何か隠してる? 例えば、超強力な磁石を全身に仕込んでるとか!」 「……そっちの方向ですか」

私はやれやれと首を振った。 その時だ。

パリンッ!

窓の外から、飛んできた野球部のボールが窓ガラスを突き破った。 鋭い破片が、無防備なえま先生の背中に降り注ごうとする。

(またか。彼女、本当に『不幸』を引き寄せすぎる……)

私はあえて彼女の方を見ず、手元のスマホをいじるふりをして、背後で指をパチンと鳴らした。 《空間障壁・極小》。

「ひゃっ!?」 先生の背中数センチのところで、ガラスの破片がまるで目に見えない壁に当たったかのように弾け飛び、床にパラパラと落ちる。

「……え? 私、今、背中にガラスが当たる感触があったのに……無傷?」 「先生、運がいいですね。奇跡的に全部外れたみたいですよ」 「そ、そんなはず……。あ、待って、今の『パチン』って音……指くん、今指鳴らしたわね!?」

先生が食いついてくる。鋭い。 だが、私は表情を一つも変えない。

「ああ、蚊がいたんで。それより先生、今のガラスの破片、拾うとき気をつけてくださいよ。先生のことだから、また指とか切りそうですし」 「そんなドジじゃないわよ! ……あだっ、切っちゃった」

案の定だ。彼女が割れた破片を片付けようとした瞬間、指先から血が滲む。 ただの切り傷ではない。私の感知スキルが、その血の香りに反応して集まってくる「負のエネルギー」を捉えた。

(なるほど。彼女の血は、異世界の魔物や不運を呼び寄せる『招き香』なんだな。本人に自覚がないのが一番厄介だ)

「ほら、見せてください」 私は先生の手を強引に取り、ポケットからハンカチを出すふりをして、指先で傷口に触れた。 《超高速再生》。

瞬時に傷は塞がり、跡形もなくなった。

「え……? 痛みが消えた……。傷は?」 「傷? 最初からなかったですよ。先生、見間違いじゃないですか? 疲れすぎて幻覚見てるんですよ。今日はもう早く帰ったほうがいい」 「そんな……確かに血が出てたのに……指くん、あなた……!」

えま先生は、自分の指と私の顔を交互に見つめ、顔を真っ赤にしている。

「……もしかして、手品がすごく上手なの?」 「……ええ、まあ。趣味です」

私はそれだけ言い残して、教室を後にした。 背後で「絶対何かある! 明日はビデオカメラ持ってくるんだから!」という先生の叫び声が聞こえる。

(ビデオカメラか……。**《光学屈折》**でレンズを曇らせる必要があるな。やれやれ、守るのも楽じゃない)

第3話:『臨界点の放課後、そして暴かれる「不運」の正体』

 翌日の物理準備室。えま先生はついに「最終決戦」の準備を整えていた。 机の上には、ハイスピードカメラ、ガイガーカウンター、そしてなぜか方位磁針が並んでいる。

「指くん、観念なさい。今日の私は一味違うわよ。あなたの周りで起きる『奇跡』を、すべて数値化して証明してあげるんだから!」

鼻息を荒くするえま先生。だが、私は彼女の背後に漂う「どす黒い霧」に目を細めていた。昨日彼女が流した数滴の血が、ついにこの世界と異世界を繋ぐ門(ゲート)をこじ開けようとしている。

「先生、検証もいいですけど、その方位磁針……狂ってません?」 「えっ? ……あら、本当ね。ぐるぐる回ってるわ。磁場の異常……? まさか指くん、強力な電磁波を出して――」

「違います。来ますよ」

私が呟いた瞬間、理科室の空間がガラスのように割れた。 亀裂から這い出してきたのは、漆黒の甲冑を纏った異世界の暗殺者――《影の執行者》。

「見つけたぞ、亡命者『指』。そしてその女……『災厄の巫女』の血を継ぐ者か」

「な、なにこれ!? ホログラム!? 映画の撮影!?」 腰を抜かして震えるえま先生。暗殺者が放った漆黒の刃が、容赦なく彼女の喉元へ突き出される。

私は溜息をつき、ポケットに手を入れたまま、一歩だけ前に出た。 《因果逆転(レトロ・コーザリティ)》。

キンッ! と高い音が響き、暗殺者の刃が「自分自身の胸」に突き刺さった。

「ぐはっ!? なぜだ……軌道を変えた覚えは……!」 「先生、危ないですよ。ほら、そこの床、ワックスで滑りやすくなってますから」

私は暗殺者の存在など無視して、腰を抜かしたえま先生の腕を掴んで引き寄せた。その拍子に、背後で暗殺者が「虚空に消滅」した。

「指くん……今、変な格好の人が……消えたわよね? 私の目の前で、何かが爆発したような……」 「ああ、プロジェクターの故障じゃないですか? 最近の機器は立体映像がリアルですから。あ、先生。実験器具、落としそうですよ」

「ああっ! 大事なカメラが!」 慌ててカメラを掴もうとするえま先生。しかし、その瞬間、彼女の「不運体質」が最悪の形で発動した。

彼女が掴もうとしたカメラから、異常な電圧が放電される。さらに、窓の外からは先日の比ではない巨大な「隕石(魔力の塊)」が、この理科室をピンポイントで狙って落下してくるのが見えた。

(……やれやれ、これだけの物量を同時に「とぼける」のは骨が折れるな)

私はえま先生の目を手で覆い、優しく耳元で囁いた。

「先生。3つ数える間、目をつぶっててください。……マジックの種明かしは、それからです」

「え……? 指、くん……?」

「3(スリー)」 《次元断絶》。校舎全体を隔離し、外部への被害をゼロにする。 「2(ツー)」 《概念消去》。上空から迫る魔力の隕石を、ただの「夕立の雨」に書き換える。 「1(ワン)」 《全記憶修正(マイルド)》。

「――はい、ゼロ」

手を離すと、窓の外には綺麗な虹がかかっていた。 暗殺者も、壊れた精密機器も、不吉な黒い霧も、すべて消えていた。

「あ……あれ? 私、何を調べてたんだっけ……。あ、そうよ、指くんの超能力を……!」 「超能力? 先生、寝ぼけてるんですか。補習中に居眠りして、変な夢でも見てたんでしょ。ほら、虹が出てますよ」

えま先生は呆然と窓の外を見つめ、それから自分の手のひらを見た。 不思議なことに、彼女を包んでいた「負のオーラ」は完全に消え去っている。指さんが、彼女の血筋にかけられていた呪いごと消し去ったのだ。

「夢……だったのかしら。でも、なんだかすごく、守られてたような気がして……」

少し顔を赤らめるえま先生を見て、私はカバンを手に取った。

「先生。あんまり根を詰めると、またおかしな幻想(ファンタジー)見ますよ。俺、バイトあるんで帰ります」 「あ、ちょっと! 待ちなさい指くん! ……まだ、方位磁針が私のほうを向いてるんだけど、これもマジックなの!?」

背後で叫ぶ先生の声を聞き流しながら、私は校廊を歩く。 指先を少しだけ動かし、最後に残った微かな魔力を風に溶かした。

(やれやれ。明日からは、もう少し普通の高校生として過ごせそうだな)


第4話:『放課後のティータイムと、嵐を呼ぶ転校生』

 あの「理科室の奇跡」から一週間。 えま先生の不運体質はすっかり影を潜め、代わりに彼女は「指くん観察」に異常な情熱を燃やすようになっていた。

「はい、指くん。今日の補習……じゃなくて、お疲れ様のお茶よ。この紅茶、淹れる時に茶柱ならぬ『茶葉の直立』が起きたんだけど、これもあなたの仕業?」 「……ただの対流ですよ、先生。早く飲んで帰らせてください」

物理準備室には、今や当たり前のように私の席が用意されている。 えま先生は、私が本当に異世界人だとは夢にも思っていないだろうが、私のそばにいると「不思議と心が落ち着く」ことに気づき始めているようだった。彼女の視線が、教師としてのそれより少しだけ熱を帯びているのを、私は気づかないふりでやり過ごす。

だが、そんな穏やかな時間は、唐突に終わりを告げた。

ガラッ!

準備室の扉が、壊れんばかりの勢いで開け放たれた。

「――見つけたぞ! 我が魂の片割れ、指(ユビ)よ!」

そこに立っていたのは、この質素な公立高校にはあまりに不釣り合いな、輝くような金髪をなびかせた美少女だった。 特注と思われる、やたらとフリルの多い改造制服。そして、その背中には見えないはずの「聖なる翼」の残光が私には見えた。

「……リ、リリアーヌ?」 思わず、あっち(異世界)での名で呼んでしまった。

「な、なによ指くん! その知り合いっぽい反応! 誰、そのすごく可愛い子!?」 えま先生がガタッと椅子を鳴らして立ち上がる。

「ふん、そこの女。指の隣に座る無礼を許すのは今この瞬間までだ。私は異世界アルカディアの第1皇女、リリアーヌ・ド・ラ・クール。指を迎えに……いいえ、この世界の妻(第一正妃)になりに参った!」

「はぁぁぁ!? つ、妻ぁ!? 指くん、あなた、そんな不純な交際を……! 教師として、いえ、お姉さんとして聞き捨てならないわ!」

えま先生の顔がみるみる赤くなり、さっきまで大人しかった彼女の周りで、再び磁場が狂い始める。 リリアーヌはリリアーヌで、私に抱きつこうと猛烈な勢いで突っ込んでくる。

(やれやれ。刺客の相手の方が、まだ楽だったな……)

私は、二人の間に割って入り、飛んできたティーカップを**《空間固定》**で空中に静止させながら、最大級のあくびをした。

「先生。これ、ただのコスプレ好きな幼馴染です。あとリリア、その翼、一般人には見えない設定だろ。しまえよ」

「コスプレ!? 幼馴染!? 指くん、嘘よ、その子の目、本気だわ!」 「指! この女、魔力はないが魂の波長が貴様に近すぎる! 排除……は、貴様が悲しむから、まずは教育してやる!」

二人の女性の視線が、私を挟んで激しく火花を散らす。 私の平穏な高校生活は、どうやら異世界での戦争よりも騒がしくなりそうだ。

私は静止させていたティーカップをそっとテーブルに戻すと、二人には聞こえないような小声で、世界を構成する「理(ことわり)」に一つだけ命令を下した。

「……《認識阻害》。今日から起きるすべての騒動を、『よくある学園コメディ』として処理しろ」

さて。 とぼけ切るには、少々賑やかすぎる新学期の始まりだ。


第5話:『絶叫マシンと異世界魔法、時々、恋の火花』

 休日の遊園地「ルナ・ワールド」。 目の前には、フリルだらけの私服で「この鉄の馬(コースター)は、我が軍の飛竜より速いのか?」とはしゃぐリリアーヌと、「今日は指くんの『手品』の種を全部暴くからね!」と意気込むえま先生がいる。

「指、見て。あの巨大な車輪……あれは重力魔法の訓練用具か?」 「リリア、あれは観覧車だ。あと、その浮いてるぬいぐるみを早くカバンに入れろ」

リリアーヌが無意識に出す魔力で、景品のぬいぐるみが彼女の後をふわふわと追っている。私は指先一つで**《重力固定》**をかけ、それを強引に彼女の腕に収めた。

「指くん、今何かしたわね! ぬいぐるみが急に垂直落下したわ! 自由落下の加速度にしてはおかしい……!」 「先生、風ですよ。さ、次行きましょう」

私はえま先生の肩を軽く押し、最大級の絶叫マシンへと誘導した。



垂直落下するフリーフォール。 「ひゃあああああ!」と絶叫するえま先生の横で、リリアーヌは「ふむ、この程度の落差……っ!? 指、まずい! 刺客だ!」と叫んだ。

見れば、隣のライドに、異世界の残党が放った**《不可視のガーゴイル》**が張り付いている。奴はえま先生を道連れに、装置のワイヤーを切断しようとしていた。

(休日の遊園地くらい、ゆっくりさせてほしいんだがな)

私は落下中の強風を利用し、隣のライドに向けて人差し指で弾いた。 《空気弾(エア・バレット)》。

パァン! という破裂音と共に、ガーゴイルは塵となって消滅する。

「指くん! 今、横で爆発音がしたわよ!? 装置が壊れたんじゃ――」 「先生、演出ですよ。最近の遊園地は、4D体験が売りですから」 「4Dにしても衝撃波がリアルすぎるわよ!」



次にやってきたのは、真っ暗なお化け屋敷。 怖がるえま先生が、私の右腕をギュッと抱きしめる。

「ちょっと先生! 指の右腕は私のものだ! 離せ、この薄ら高い女!」 「な、なによ、私は先生として指くんが転ばないように支えてるだけよ!」

リリアーヌが左腕を、えま先生が右腕を奪い合う。 その時、屋敷内の本物の幽霊(に扮したモンスター)が襲いかかってきた。

「ギャハハハ! 命をもらうぞ!」 「ひいっ! 出たあああ!」

えま先生が叫び、目を閉じる。 私は瞬時に**《精神汚染浄化》**を指先から放ち、モンスターを「ただの腰の低いアルバイト店員」に書き換えた。

「……え? あ、いらっしゃいませ。足元にお気をつけて」 「……え、あ、はい。……ええっ!? 今、怪物だったわよね!? なんで急に丁寧な接客に!?」 「先生、最近のホラーは『ギャップ萌え』が流行りなんですよ。斬新ですよね」 「そんなわけないでしょ! 絶対おかしいわよ!」



最後は三人で観覧車へ。 頂上付近、赤く染まる空を眺めながら、えま先生がポツリと呟いた。

「指くん……今日は、不思議なことばっかりだったけど。でも、あなたと一緒にいると、どんな危ないことが起きても、最後には笑ってられる気がするわ」

「そうだな。指は、昔からそうだ。世界が燃えていても、こいつは『夕焼けが綺麗だ』と笑っているような男だ」

二人の視線が私に集まる。 私は窓の外を見つめながら、指先で小さな光の粒を作っては消した。

「考えすぎですよ。俺はただ、静かに暮らしたいだけの高校生ですから」

「……まだ、とぼけるつもり?」 えま先生が、少しだけ真剣な目で私を見つめる。

「まあ、いいわ。あなたの種明かしは、一生かけて私が解明してあげる」 「ふん、その役割は、妻である私に決まっているだろう!」

(やれやれ。これからの放課後も、騒がしくなりそうだ)

私は、二人の賑やかな論争をBGMに、静かに瞳を閉じた。

           完

COMMENT FORM

以下のフォームからコメントを投稿してください