「放課後の、解けない魔法」

 西日の差し込むリビングには、低く唸る換気扇の音だけが響いていた。 幼馴染の家。

「指くん、麦茶でよかった?」

キッチンから現れたのは、親友の母、えまさんだった。洗い物で少し濡れた手をエプロンで拭いながら、彼女は指くんの隣に腰を下ろした。42歳。指くんにとっては物心つく前からの「綺麗なおばさん」だったが、19歳になった今、彼女から漂う石鹸と微かな香水の混じった香りは、毒のように彼の理性を狂わせる。

指くんは膝の上でスマートフォンを握りしめていた。画面には『包茎手術 術後の痛み』の文字。 最近、そのことばかり考えている。19歳。大学生。周りは大人になっていくのに、自分だけが「皮」に閉じ込められた子供のままのような気がして、たまらなく惨めだった。

「指くん……さっきから、元気ないね」

えまさんの声が耳元でして、指くんは肩を跳ねさせた。

「……あ、いや、別に」 「嘘。ずっとそこ、気にしてるじゃない」

えまさんの視線が、指くんが思わず隠した股間のあたりに向けられる。彼女の表情が、急に真剣なものに変わった。

「もしかして……どこか悪いの? 病気とか」 「えっ、違っ、これは……!」 「恥ずかしがらないで。私、こう見えても母親なんだから。……もしかして、変な病気もらっちゃったの? 痛むの?」

えまさんの手が、指くんの震える手に重ねられた。ひんやりとして、でも指先が驚くほど柔らかい。

「あの子(親友)には絶対言わないから。……一人で悩んで、もし取り返しがつかなくなったらおばさん悲しいよ? 正直に言って。ねえ?」

彼女の瞳が真っ直ぐに自分を捉える。その慈愛に満ちた、けれど残酷なほどに美しい「女」の目に射抜かれ、指くんのダムが決壊した。

「……病気じゃないんです。ただ、その……」 「……ただ?」 「……むけて、ないんです。僕。……皮、かぶってて……情けなくて……」

沈黙。 指くんは顔が爆発しそうなほど赤くなり、床に視線を落とした。消えてしまいたかった。 しかし、えまさんの手は離れなかった。それどころか、握る力が少しだけ強くなった気がした。

「……ふふ。なぁんだ、そんなこと」

えまさんの声が、先ほどよりも少しだけ艶を帯びた。

「指くん、それはね、病気じゃないのよ。……まだ、誰も中身を知らないっていう、大切なしるしなんだから」





あの子、盲腸なんて……。しばらくは退院できそうにないわね」

えまさんは、入院した親友(息子)の着替えを紙袋に詰めながら、小さくため息をついた。リビングの空気は、先ほど指くんが「告白」した時から、熱を帯びたまま停滞している。

「……指くん。あの子がいない間、寂しいからって毎日来なくてもいいのよ? でも……」

えまさんがパッキングの手を止め、振り返る。その目は、心配性の母親のものではなく、獲物を見つけた肉食獣のような、あるいは迷える子羊を導く聖母のような、不思議な光を湛えていた。

「さっきの続き。ちゃんと解決しておかないと、指くん、ずっと不安でしょう?」

「で、でも、えまさん……ここは、アイツの家だし……」

「あの子は今、病院のベッドで寝てるわ。ここには、私と指くんしかいないの」

えまさんはゆっくりと立ち上がり、指くんの目の前で膝をついた。19歳の指くんの視線からは、彼女の襟元から覗く白い肌と、微かに見えるレースの縁が見えてしまう。

「……ねえ、指くん。皮が被っているのは、ただの個性よ。でも、もしそれが原因で君が男の子として自信を持てないなら……私がお手入れの仕方を、教えてあげてもいいわよ?」

えまさんの細い指先が、指くんのジーンズの膝あたりを、なぞるように滑った。

「おばさん、看護の経験があるって言ったでしょ? 手術しなくても、毎日少しずつ広げてあげれば、ちゃんと剥けるようになるの。……やってみる?」

指くんの心臓は、ラグビーボールを叩きつけているような音を立てていた。親友への申し訳なさと、目の前のえまさんから放たれる圧倒的な女性の魅力。

「……っ、お願いします」

絞り出すような声でそう言うと、えまさんは満足げに微笑み、彼のベルトに手をかけた。

「いい子ね、指くん。……大丈夫、痛くしないから。私に、全部任せて?」

カチリ、とベルトが外される音が、静まり返ったリビングに異様に大きく響いた。指くんは、逃げ出したい衝動を必死に抑え、ソファの端を強く握りしめた。

「そんなに固くならなくていいのよ。リラックスして?」

えまさんの声は、おやすみ前の子供をあやすように甘い。彼女は指くんのジーンズと下着を、手慣れた動作で膝まで押し下げた。 19歳の剥き出しの未熟さが、夕暮れ時の淡い光にさらされる。指くんは顔を真っ赤にし、腕で目を覆った。

「……っ、やっぱり、恥ずかしいです。こんなの、えまさんに見せるなんて……」

「恥ずかしいことなんてないわ。……あら、思っていたより、ずっと立派じゃない」

えまさんの指先が、指くんの内腿にふわりと触れた。冷たいはずの指先が、熱を持った今の彼には火傷しそうなほど熱く感じられる。彼女はまじまじと、指くんのコンプレックスの象徴を見つめた。

「本当ね。しっかり被っちゃってる。……でも、これなら大丈夫。私が少しずつ、優しく剥いてあげるから」

えまさんはソファに浅く腰掛け、指くんの股間に顔を近づけた。彼女の髪から漂うシャンプーの香りが鼻腔をくすぐり、指くんの頭は真っ白になる。

「……っ、えまさん、何、を……」

「動いちゃダメよ、指くん。……まずは、こうして少しずつ、皮を下げていくの……」

彼女の白く細い指が、慎重に、けれど確実な力強さで「そこ」を掴んだ。ゆっくりと皮が引き絞られ、今まで一度も外の空気に触れたことのない過敏な部分が、じわりと顔を出す。

「……あ、……痛っ、……ああっ!」

「痛い? ごめんね……でも、ここを我慢しないと、一生子供のままよ? 指くん、大人の男になりたいんでしょ?」

えまさんは、上目遣いで指くんを見つめた。その瞳には、慈愛とは正反対の、征服欲に似た色が混じっている。彼女はわざと、露出したばかりの先端を、自身の温かい指先で円を描くように撫でた。

「ひっ……! あ、あああっ!」

未経験の指くんにとって、それは電気のような衝撃だった。背中が跳ね、ソファに沈み込む。

「ふふ、いい声。……指くん、ここはとってもデリケートなの。こうやって私が触る感覚、ちゃんと覚えておいてね?」

えまさんは、今度は指の腹だけでなく、爪の先で軽く、けれどなぞるように刺激を加えた。

「これは『治療』なんだから。……ねえ、指くん。おばさんの手が、どんな風に動いてるか、ちゃんと見てなさい?」

涙目で腕をどかした指くんが見たのは、自分の情けない姿と、それを慈しむように、そして楽しむように弄ぶ、親友の母親の「女」の顔だった。

その日から、指くんにとって親友の家は「遊びに行く場所」ではなく、えまさんによる**『お手入れ』**を受けるための密室へと変わった。

「指くん、今日もちゃんと来たわね。偉いわ」

夕暮れ時、チャイムを鳴らすと、えまさんはいつもより少し胸元の開いたブラウス姿で迎えてくれる。親友がいない家は驚くほど静かで、二人の足音だけが廊下に響く。

ソファに座らされ、昨日と同じようにズボンを下ろされる。指くんはもはや抵抗らしい抵抗もできず、ただえまさんの指先がもたらす熱に体を震わせるしかなかった。

「……えま、さん……。どうして、僕なんかに、こんなこと……」

快感で思考が溶けそうになる中、指くんは絞り出すように尋ねた。40代の、美しくて優しいえまさんが、なぜ19歳の、しかも自分のような未熟な男を相手にするのか。

えまさんの手が、ふっと止まった。彼女は指くんの膝に顔を埋めるようにして、ポツリと独白を始めた。

「……寂しかったのよ、ずっと。あの子が大きくなって、夫も仕事ばかりで家に帰らなくなって……。この家には、私を『女』として見てくれる人が誰もいなかった」

彼女が顔を上げると、その瞳には小さな子供のような孤独が浮かんでいた。

「指くんが、あんなに真っ赤になって、一生懸命に私に悩みを打ち明けてくれたとき……あぁ、この子は私が必要なんだって、そう思ったら、もう止まらなくなっちゃったの。……指くんの初めても、恥ずかしいところも、全部私が管理してあげたい。私がいないと、何もできない体にしてあげたいの」

えまさんの言葉は、優しく、けれど重い鎖のように指くんに絡みつく。

「ねえ、指くん。今日も、おばさんに全部預けてくれるわね?」

彼女の指が、昨日よりもずっと大胆に、そして慣れた手つきで「そこ」を割り開く。指くんは、罪悪感で胸が締め付けられそうになりながらも、えまさんの言葉に救いを感じていた。自分を必要としてくれる大人の女性。その甘い支配に、彼は自ら沈んでいくことを選んだ。

「……はい、えまさん……。……お願いします……っ」

病院のベッドで親友が回復を待っている間、その母親の指先は、指くんを「大人の男」ではなく、「えまさん専用の依存者」へと作り変えていった。

「……指くん。指だけじゃ、もう限界みたいね」

えまさんは、指くんの膝の上で熱く脈打つ「彼」を見つめながら、困ったように、けれどどこか嬉しそうに微笑んだ。 数日間にわたる『お手入れ』のせいで、指くんの体はえまさんの香りを嗅ぐだけで、どうしようもなく反応するようになっていた。皮はすでに剥けやすくなっていたが、それ以上に彼の中の「欲望」が、薄い皮を突き破らんばかりに膨れ上がっている。

「えま、さん……。僕、もう、どうにかなりそうなんです……」

「わかってるわ。指くんが、もっと奥まで知りたいって顔してること」

えまさんは立ち上がると、ブラウスのボタンを上から一つ、また一つと外していった。 あらわになった肩、そして年齢を感じさせない艶やかな肌が、西日に照らされて黄金色に輝く。指くんは息を呑み、瞬きすることさえ忘れた。

「お手入れは、もう終わり。ここからは……本当の『教育』よ」

彼女はソファに深く腰掛ける指くんを跨ぐようにして、その細い腰を降ろした。 柔らかな太ももの感触が指くんの肌に直接触れ、彼は全身に電気が走ったような衝撃を覚える。

「あ、あの日……あの子が生まれたとき以来かな。私のここに、誰かが入ってくるのは」

えまさんの瞳が、熱を帯びて潤んでいる。彼女は指くんの首に両腕を回し、耳元で熱い吐息を漏らした。

「指くん……。あなたの初めて、おばさんが全部、食べてあげる。……いいわね?」

「……っ、はい。えまさん……えまさん……!」

指くんは、導かれるままに彼女の腰を掴んだ。 親友への裏切り、19歳という若さ、そしてコンプレックス。そんなものは、えまさんの体温に触れた瞬間にすべてどうでもよくなった。

彼女がゆっくりと腰を落とした瞬間、指くんは、自分が今まで閉じこもっていた「皮」という名の狭い世界が、音を立てて壊れるのを感じた。

「……あ、……すごい……。指くん、……入ってるわよ、……あなたの全部が」

えまさんの苦しげで、かつ悦びに満ちた声が、静かなリビングに響き渡る。 指くんは、必死に彼女にしがみついた。それは、溺れる者が藁を掴むようであり、同時に、自分の居場所をようやく見つけた子供のようでもあった。

カーテンの隙間から差し込む光が、二人の影を一つに繋いでいた。

親友が退院してから一ヶ月。 指くんは、以前よりもずっと頻繁にこの家を訪れるようになっていた。

「指、お前最近うちに入り浸りすぎだろ。まあ、ゲーム相手がいて助かるけどさ」

親友がテレビ画面に向かってコントローラーを叩いている。その横で、指くんは心ここにあらずといった体で、壁一枚隔てたキッチンの音に耳を澄ませていた。

「指くん、ちょっと手伝ってくれる?」

えまさんの、落ち着いた、けれど指くんにだけは艶っぽく聞こえる声がリビングに響く。

「あ、ああ、今行く」

「おー、悪いな指。母さんの手伝い、よろしく」

親友の無邪気な声を背中に、指くんはキッチンへと向かう。 扉を閉めた瞬間、そこは二人だけの聖域に変わった。えまさんは、まだ濡れたままの指を指くんの唇に当て、静かに、けれど有無を言わせない力で彼を冷蔵庫の陰へと誘った。

「……今日は、あの子が寝てからにする?」

えまさんの囁きに、指くんは抗えない。 定期的に重ねるようになった体は、もはや言葉を介さずとも、互いの熱を求め合っていた。

「……我慢、できないです」

指くんの言葉に、えまさんは満足げに目を細めた。彼女の手が、慣れた手つきで指くんのズボンに忍び寄る。かつての「皮」の悩みなど、今の指くんには微塵も残っていない。えまさんによって丁寧に、そして執拗に『手入れ』され続けた彼は、今や彼女なしでは完成しない体に作り変えられていた。

「いい子。……あの子がゲームに夢中になってる間に、少しだけ『お手入れ』しましょうか」

換気扇の低い回転音と、隣の部屋から聞こえる親友の笑い声。 その境界線で、指くんはえまさんの首筋に顔を埋めた。

この関係がいつか壊れる恐怖よりも、今、えまさんの指先がもたらす快感と、彼女を独占しているという優越感が、19歳の指くんを支配していた。

いつものように、親友がリビングで昼寝をしている午後のひととき。 キッチンで並んで立つ二人の距離は、一ヶ月前とは明らかに違っていた。

「指くん……今日は、少し強引じゃない?」

えまさんが、耳元で小さく声を漏らした。冷蔵庫の陰、親友の寝息が聞こえるすぐそばで、指くんの手が彼女の腰を強く引き寄せている。以前の彼は、触れられるたびにビクビクとしていたが、今の彼の指先には、確かな「男」の力が宿っていた。

「……えまさんが、僕をこう変えたんですよ」

指くんの声は低く、落ち着いている。 彼はえまさんの顎をそっと持ち上げ、自分を見上げさせた。かつて自分を「教育」していた年上の女性の瞳に、わずかな戸惑いと、期待の混じった熱が浮かぶのを見逃さない。

指くんは、かつて自分が教わったように、今度は自分の指でえまさんの唇をなぞった。

「今日は、僕がえまさんのこと、お手入れしてあげます」

「っ……指くん……」

えまさんの肩が微かに震える。 彼女は、うぶだった少年が自分の手の中で急速に牙を剥き始めたことに、恐怖を上回るほどの悦びを感じていた。 指くんは、親友が起きないか確認するようにチラリとリビングへ視線を送ると、わざと音を立てるようにえまさんの耳たぶを甘く噛んだ。

「おばさん……なんて呼ぶのは、もうやめますね。えま」

呼び捨てにされた瞬間、えまさんの膝から力が抜けた。 崩れ落ちそうになる彼女の体を、指くんは逞しくなった腕でしっかりと支える。皮を被り、自信のなかったかつての「指くん」はもうどこにもいない。

彼は、えまさんのブラウスのボタンを、今度は自分の手で、一つずつゆっくりと外していった。

「えま……。僕がいないと、何もできない体になっちゃうのは、どっちでしょうね?」

皮を剥かれ、素顔をさらけ出したのは、指くんだけではなかった。 今や二人の関係は、慈愛の教育から、互いの魂を奪い合うような、激しい共犯関係へと進化していた。

「……えまさん。今日は、そっちの家じゃなくて、こっちに来てください」

ある土曜日の午後。大学の講義が終わった指くんは、駅前の喫茶店でえまさんを呼び出した。 いつもはエプロン姿の彼女も、今日は落ち着いた紺色のワンピースに身を包んでいる。一歩外に出れば、誰も二人を「母子」とは思わない。若く精悍になった大学生と、その恋人にしか見えないはずだ。

指くんが指し示したのは、繁華街の裏通りにある、少し高級なシティホテルの入り口だった。

「指くん、本気? こんなところ、誰かに見られたら……」

「大丈夫です。あいつは今日、サークルの合宿で一日中いないのは知ってますから」

指くんは、戸惑う彼女の手を強く握った。かつては彼女に引かれていたその手は、今やえまさんの柔らかな手首を完全に包み込み、有無を言わせぬ力強さでリードしていく。

チェックインを済ませ、部屋のドアが閉まった瞬間。 指くんはえまさんを壁に押し当て、深い口づけを交わした。家のリビングとは違う、無機質で静かな空間。

「……っ、はぁ……。指くん、……今日はなんだか、すごく強引ね」

「えまさんが言ったんでしょう?『大人の男になりたいでしょ?』って。……今の僕は、えまさんの目にはどう映ってますか?」

指くんは、彼女の腰を引き寄せ、耳元で低く囁いた。 もう「おばさん」とは呼ばない。敬語の中にも、支配的な響きが混じる。彼は慣れた手つきで、彼女のワンピースのファスナーを下げていく。

「……怖いくらい、……格好いいわよ、指くん」

えまさんは観念したように、彼の首に腕を回した。 広いベッドの上、指くんはえまさんを圧倒するような熱量で愛した。自分のコンプレックスを一つずつ丁寧に剥いでくれた彼女に、今度は自分が「女」としての悦びをすべて教え込むように。

「えま……。僕、もう皮を被ったガキじゃない。……あんたを満足させられる、男だよ」

夕闇が部屋を包むまで、二人は現実を忘れて溺れ続けた。 ホテルの白いシーツに沈み込みながら、えまさんは確信した。自分が育て上げた「教え子」は、もう二度と自分の手のひらには収まらない、一人の男になってしまったのだと。

ホテルの部屋を出るとき、指くんはえまさんの乱れた髪を丁寧に整え、襟元を正してあげた。 数時間前まで、その肌を情熱的に求めていた男とは思えないほど、今の彼の顔は凪いでいる。

「……帰りましょう、えまさん。あいつ、もうすぐ合宿から帰ってくる頃だ」

「ええ……。そうね、指くん」

えまさんは鏡を見つめ、いつもの「お母さん」の微笑みを作り直す。しかし、その頬は微かに上気し、瞳の奥にはまだ指くんが刻みつけた熱が、残り火のように揺れていた。

親友の家に戻ると、ちょうど玄関で大きなリュックを背負った親友と鉢合わせた。

「おっ! お前ら、一緒だったのか? 買い物?」

親友の屈託のない声が響く。指くんはポケットの中で、ホテルのルームキーの感触(あるいは、えまさんの香りが移ったハンカチ)を確かめながら、完璧な「親友」の顔で笑った。

「ああ。駅前でえまさんと会ったから、荷物持ちしてたんだよ」

「マジか! 指、お前本当気が利くなぁ。母さんも、こいつがいて助かっただろ?」

「ええ、本当に……。指くんは、とても頼りになる『男の子』よ」

えまさんはそう言って、キッチンへと向かう。 通り過ぎる際、彼女の指先が、親友からは完全に見えない角度で、指くんの手の甲を優しく、愛おしむように撫でた。それは、あの『お手入れ』から始まった二人だけの、秘密の合図だ。

食卓には、何事もなかったかのように夕食が並ぶ。 親友が合宿の思い出を熱心に語る横で、指くんとえまさんは時折、視線を交わす。 そこには罪悪感などもうない。あるのは、この平和な食卓を舞台裏から支配しているという、甘美な共犯意識だけだった。

指くんは、かつて自分が悩んでいた「皮」のことを思い出す。 あの中に閉じこもっていた頃の自分は、もういない。 今の自分は、この家の主さえ知らない、えまさんの本当の素顔を知っている。

「……ごちそうさまでした。えまさん、今日も美味しかったです」

「いいえ、どういたしまして。また、いつでもいらっしゃいね。指くん」

親友の笑い声が響くリビング。 その平穏な空気の下で、二人の共犯関係は、誰にも暴かれることなく、どこまでも深く、永遠に続いていく。

                (完)

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