痴漢と嘘と生足の熱

2026/01/11(日)
 
 走行音だけが、気まずい沈黙をかき消してくれていた。 快速列車のロマンスシート。向かい合わせに座る絵里さんの膝が、時折、電車の揺れに合わせて僕の膝をかすめそうになる。そのたび、18歳の童貞である僕の心臓は、脱線しそうなほど跳ねた。

隣では見知らぬおばさん二人が、スーパーの特売の話で盛り上がっている。満員の車内。立っている客の視線。こんなに騒がしいのに、僕の耳には、絵里さんがスカートのしわを伸ばす衣擦れの音だけが、鮮明に届いていた。

電車が大きくカーブに差し掛かり、車体が左に傾く。 「あ……」 小さな声と一緒に、絵里さんの柔らかい膝が、僕のデニムの膝にぴたりと重なった。 混んでいるせいか、彼女はすぐに足を引こうとしない。数秒、いや、永遠に感じられる熱がそこにある。 隣のおばさんは「最近の野菜は高いわね」なんて笑っているけれど、僕の世界は今、この数センチの接触面だけで完結していた。

膝が当たった瞬間、僕は謝ろうとして顔を上げた。 けれど、絵里さんは窓の外を眺めたまま、薄く微笑んでいるようにも見えた。 彼女は気づいていないのか? それとも、気づいていてそのままにしているのか? 指先が震えるのを隠すために、僕は膝の上の拳を強く握りしめた。

揺れに合わせて、絵里さんの白く滑らかな膝が、僕のジーンズに触れた。 ストッキングすら挟まない、剥き出しの肌の熱。 短いスカートから伸びるその曲線が、すぐ目の前にある。 僕の膝は、彼女の体温を吸い込んでいるみたいに熱くなった。隣のおばさんが「今日は蒸し暑いわね」と扇子を動かしているが、僕の熱はそんなものじゃなかった。

目を上げれば彼女と目が合う。目を下げれば、生足の眩しさに目が潰れそうだ。 逃げ場を失った僕の視線は、ただ中空を泳ぐしかない。 彼女の膝が当たったまま、離れない。 偶然なのか、それとも……。 18年間、空想の中でしか知らなかった「女の子」の存在が、デニムの生地越しにリアルな質量を持って僕を攻めてくる。

ガタン、と電車が大きく揺れた瞬間だった。 離れるはずだった絵里さんの両膝が、外側から僕の膝を包み込むように閉じた。 「え……っ」 喉の奥で、小さな声が漏れた。デニム越しに伝わる、彼女の柔らかな生足の圧力。逃げ場を塞ぐように、じわりと力を込めてくる。18歳の僕の脳内は、その一点から発火して、真っ白な火花を散らした。

すぐ隣では、おばさんがバッグからお煎餅を取り出している。 そのすぐ数センチ先、テーブルもない座席の下で、僕の膝は彼女の生足に挟まれ、捕らえられている。 周りの誰にも気づかれていない。でも、確実に何かが起きている。 恐る恐る絵里さんの顔を見ると、彼女は伏せ目がちにスマホをいじっていた。けれど、その耳たぶが、夕焼けのような赤色に染まっているのを僕は見逃さなかった。

振りほどくべきなのか。それとも、このまま彼女の熱に身を任せていいのか。 童貞の僕にとって、それはあまりに過剰で、あまりに甘美な暴力だった。 絵里さんの膝の力が、さらに一歩、僕の境界線に踏み込んでくる。 僕の膝は、彼女の意志を拒むことができず、ただ震えながらそこに居座るしかなかった。


挟まれた膝。指くんの頭の中では「どうして?」「これって、わざと?」という問いが高速回転する。 けれど、思考とは裏腹に、彼の体は正直だった。 逃げるどころか、彼女の熱をもっと感じたくて、無意識のうちに自分からも膝を数ミリだけ、彼女の太ももの内側へと押し返していた。 自分の意志ではないような、けれど熱烈な拒絶の拒否。 その反応に気づいたのか、絵里さんの挟み込む力がさらに「ギュッ」と強まった。

挟み込まれた膝から、心臓へと直接熱が吸い上げられていく。 指くんの理性は「離れろ」と叫んでいるのに、脳のどこかが痺れて、体がその熱を求めてしまっていた。

(……っ、もう、どうにでもなれ)

彼は小さく息を呑むと、彼女の生足の圧力に抗うように、自分の膝をじわりと外側へ開いた。 彼女の太ももの内側、その一番柔らかい部分に、自分の膝の骨がめり込んでいく。

混雑した車内、隣のおばさんが「あ、次の駅だわ」とガサゴソと荷物をまとめ始めた。その騒がしい現実の中で、二人の膝だけが、密林のように深く絡み合っている。

指くんが勇気を出して押し返した瞬間、絵里さんの体がビクッと小さく跳ねた。 逃げられるかと思った。 だが、彼女は逃げなかった。 逆に、彼女はさらに力を込め、指くんの膝を壊さんばかりに強く、強く挟み込んできた。

視線を上げると、絵里さんは唇を噛み締め、真っ赤な顔で窓の外を凝視している。その潤んだ瞳と、膝から伝わる強烈な意志。 「童貞」という殻が、彼女の肌の熱によって、音を立てて溶けていくのを指くんは感じていた。

ホームに降り立った瞬間、冷たい空気が指くんの火照った顔を撫でた。 けれど、ジーンズの膝に残る「絵里さんの生足の感触」だけが、いつまでも消えない。

喧騒の中に放り出され、二人の間に流れるのは、電車の中とは質の違う「沈黙」だ。 膝を押し合っていたなんて信じられないほど、今の二人は少し離れて歩いている。

指くんは、自分の心臓の音がホームのアナウンスよりも大きく聞こえていた。 18歳の彼にとって、今の出来事は「事故」では済まされない。

階段の手前で、それまで前を歩いていた絵里さんが、不意に足を止めた。 彼女がゆっくりと振り返る。 さっきまで膝を真っ赤にして僕を挟んでいた彼女の、今は少しだけ震えている肩。

「……くん」

混雑する駅のホームで、彼女がようやく口を開いた。

「……え?」

指くんの喉が、引き攣った音を立てた。 先ほどまで膝の熱を共有していた絵里さんの手が、今は僕のシャツの袖を、逃がさないという強い意志で掴んでいる。

「やめてください……! 触らないで!」

彼女の悲鳴のような鋭い声が、駅のホームに響き渡った。 周囲の歩みが止まる。突き刺さるような何十もの視線。 さっきまで隣に座っていたおばさんの一人が、「まあ、あの子!」と軽蔑の声を上げるのが聞こえた。

「絵里さん、何を……だって、さっきは君から……」

指くんが震える声で弁明しようとした瞬間、彼女の瞳が冷たく細められた。その瞳の奥には、車内で見せた赤ら顔とは似ても似つかない、底冷えするような計算が透けて見えた。

「警察……呼んでください!」

彼女の叫びで、駅員がこちらに駆け寄ってくるのが見える。 指くんの視界がぐにゃりと歪んだ。膝に残るあの生足の感触が、今は自分を縛り上げる鎖のように感じられた。

「静かにして。騒いだら、本当に警察に突き出すから」

彼女の声は、電車の中の可憐な女子高生のものとは別人のように低く、冷ややかだった。 腕を強く引かれ、指くんは吸い込まれるように薄暗い一室へと連れ込まれた。

埃の匂いと、カビの混じった古い紙の匂い。 窓にはベニヤ板が打ち付けられ、わずかな隙間から差し込む光が、床に転がる錆びたパイプ椅子を照らしている。

バタン、と重いドアが閉まり、鍵がかけられた。

「絵里さん……どうして……」

指くんの声は情けなく震えていた。 彼女はゆっくりと振り返り、短いスカートを翻して、ガタつく事務机の上に腰を下ろした。 剥き出しになった彼女の膝。 さっきまで自分の膝を力強く挟み込んでいた、あの白くて熱い肌が、今は指くんを追い詰める凶器のように見えた。

「指くん、怖かった? ……でも、あんなに嬉しそうに押し返してきたのは、どこの誰だっけ?」

彼女はふっと口角を上げると、机から足をぶらつかせ、指くんの目の前でわざとらしくその膝を組んで見せた。

「ねえ、どうしてそんなに震えてるの? 痴漢呼ばわりされたのが怖かった? それとも……」

絵里さんは机の上で組み替えた足を、ゆっくりと指くんのほうへ向けた。 埃の舞う光の中で、彼女の膝は残酷なほど白く、そして滑らかに輝いている。

「さっき電車で、私の膝、気持ちよかったんでしょ?」

その言葉は、指くんが一番奥底に隠していたはずの、あの「期待してしまった自分」を鋭く抉り出した。18歳の童貞という未熟な自意識が、彼女の言葉ひとつでバラバラに解体されていく。

彼女は机から降り、ゆっくりと指くんに歩み寄った。 古い事務所の床が、ギィ、と嫌な音を立てる。 指くんは後ずさりしたが、すぐに冷たい壁に背中が当たった。

「あ……っ」

逃げ場を失った指くんの足の間に、彼女は迷いなく自分の膝を割り込ませた。 電車の中と同じ、いや、遮るもののない直接的な熱量。

「さっきみたいに、押し返してみてよ。ほら、もっと強く」

彼女は指くんの首に細い腕を回し、耳元で熱い吐息を吹きかける。 「できないなら、私がもっとめちゃくちゃにしてあげようか? 指くん」

震える指くんの視界の中で、彼女の瞳が愉悦に歪んだ。それは、純粋な好意などではなく、獲物を完全に捕らえた捕食者の輝きだった。

「ほら、どうしたの? 自分でやってみて。私がここで、じっくり見ててあげるから」

絵里さんの言葉は、この廃事務所の空気よりも冷たく、それでいて指くんの耳裏を焼くほどに甘かった。 指くんは、耳まで真っ赤にして俯くことしかできない。18年間、誰にも見られず、暗い部屋で隠れるようにしてきた行為を、今、この美しい「加害者」の前で晒せというのか。

「できないの? ……じゃあ、今すぐここで大声出そうか。駅員さん、まだ近くにいるよね?」

彼女は楽しそうに首を傾げると、机に座り直し、短いスカートの裾を少しだけ持ち上げた。露わになった太ももが、薄暗い部屋で白く発光している。

「指くんが頑張るなら、私も『いいこと』してあげてもいいよ?」

指くんの手が、震えながら自分のベルトへと伸びた。 屈辱。羞恥。そして、それらを上回る、暴力的なまでの興奮。

彼女の視線が、指くんの指先に注がれる。それはまるで、顕微鏡で虫を観察するような、残酷なほど無機質で、それでいて熱を帯びた好奇心だった。

ガタガタと膝が震える。 埃っぽい沈黙の中、指くんの荒い呼吸と、衣服が擦れる情けない音だけが響き始めた。

指くんの震える手が、ついに隠されていた「それ」を露わにした。

初めは、恥ずかしさと恐怖に縮こまっていた。しかし、絵里さんの冷たく、それでいて獲物を品定めするような視線が注がれるたび、指くんの体内の血液が激流となって一箇所に集中し始めた。

「……っ、あ……」

驚いたのは指くん自身だった。 ドクン、ドクンと、事務所の静寂を打ち消すような脈動。 彼の持ち物は、彼女の嘲笑をねじ伏せるかのように、みるみるうちに太く、猛々しくその姿を変えていく。

「え……嘘……っ」

余裕たっぷりに机に腰掛けていた絵里さんの顔から、色が引いていった。 彼女の想定を遥かに超えた「とんでもないもの」が、そこにはあった。 指くんの華奢な体格からは想像もつかない、暴力的なまでの質量。それは、彼女が弄ぼうとしていた「弱々しい獲物」が、実は自分を飲み込みかねない「野獣」だったことを突きつけていた。

「指くん、あなた……それ……」

彼女の言葉が震える。 さっきまであんなに饒舌だった支配者の唇が、今はただ、戦慄と未知の興奮で小さく戦慄(わなな)いている。

彼女の視線が、もう「観察」ではなくなっていることに指くんは気づいた。 恐怖か、それとも抗いようのない本能的な引力か。 絵里さんの瞳が大きく見開かれ、そこには隠しきれない動揺と、湿った熱が混じり始めていた。

「……見てるって言ったのは、絵里さんだよね」

自分の口から出たとは思えないほど、低く、熱を帯びた声だった。 指くんは、自分でも制御しきれない衝動に突き動かされ、一歩、彼女のほうへ踏み出す。

「あ、っ……」

絵里さんの喉から、小さく乾いた声が漏れた。 さっきまでの冷徹な女王様のような面影は、もうどこにもない。彼女の視線は、指くんの顔と、その腰元にある「とんでもないもの」の間を何度も激しく往復している。

「ひ、指くん……待って……」

彼女は机の上で後ずさろうとしたが、背後は壁だった。 逃げ場を失ったのは、今度は彼女のほうだった。 指くんは、目の前の真っ白な膝、電車であんなに自分を翻弄したあの生足の間に、自らの意志で入り込んでいく。

彼の猛々しい「証」が、彼女の短いスカートの裾を押し上げる。 触れていないのに、その熱量だけで彼女の肌が粟立っていくのが分かった。

「……もっとよく見てよ。絵里さんが、こうさせたんだから」

俯いていた指くんが、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には、羞恥心を超えた、暗く深い欲望の火が灯っている。 絵里さんは、指くんの肩を押し返そうと手を伸ばしたが、彼の胸板に触れたその指先は、まるで熱い鉄に触れたかのように激しく震えていた。

指くんの大きな手が、自身の猛々しい塊を掴み、力強くしごきあげる。 密室に響く、生々しい皮膚の摩擦音。 指くんの腕には血管が浮き上がり、一突きごとにその「とんでもないもの」はさらに血流を飲み込み、限界まで膨張していく。

逃げ場のない至近距離で、絵里さんはその光景に釘付けになっていた。 彼女の鼻腔を、男の剥き出しの匂いが突き抜ける。

その時だった。

「あ……っ」

膨れ上がった先端から、透明な熱い雫が溢れ出した。 糸を引くように垂れ落ちたそれは、重力に従って、絵里さんの真っ白な膝にポタリと落ちた。

電車であんなに指くんを追い詰めた、彼女の滑らかな生足。 その膝の上で、指くんの熱い液が、彼女の肌の温度を奪うようにして広がっていく。

「汚しちゃった……ね、絵里さん」

指くんの声は、熱を帯びて低く震えている。 自分の膝に落ちた「証」を見つめる絵里さんの瞳は、もう完全に焦点が合っていなかった。 震える指先で、彼女は自分の膝に落ちたその液を、なぞるようにそっと拭う。

指くんの激しい上下の動きが、さらに速度を増していく。 彼女を支配していたはずの「痴漢」という言葉も、「事務所」という閉鎖空間も、今はこの圧倒的な熱量の前では何の意味も持たなくなっていた。

「はぁっ、はぁっ、……っ!」

激しい咆哮とともに、指くんの全てが爆発した。 廃事務所の静寂を切り裂くように、白い熱線が絵里さんの身体を、制服を、そして呆然と開かれた彼女の口元を汚していく。 18年間、彼の中に澱のように溜まっていたエネルギーが、濁流となって彼女を飲み込んだ。

絵里さんは、熱い飛沫を浴びたまま動けない。 自分の仕掛けた悪戯が、これほどまでに強烈な「暴力」となって返ってくるとは想像もしていなかったのだ。

だが、本当の衝撃はそこからだった。

全てを出し尽くしたはずの指くんの「それ」は、萎えるどころか、さらに血流を増してドクドクと拍動を続けていた。 吐き出された熱の余韻を纏いながら、それは獲物を狙う蛇のように、再び、いや、さっきよりも猛々しく天を向いて反り返っている。

「……う、嘘でしょ……?」

絵里さんの声が、震えながら漏れた。 彼女の視線の先で、指くんの塊は今や、鉄のような硬度を持って彼女を威圧している。 指くんの瞳からは、もう先ほどの気弱な面影は消えていた。

「まだ……終わってないよ、絵里さん」

指くんが、汚れを拭おうともせず、再び彼女の膝の間に一歩踏み込む。 二回戦。それはもはや言葉の脅しではない。 絵里さんは、その圧倒的な存在感に気圧され、自分からスカートの裾を握りしめると、膝をガタガタと震わせながらゆっくりと開いていった。

指くんが、跪く彼女の身体を強引に抱き上げ、再び事務机へと押しやった。

「あ、っ……指、くん……」

彼女の短い制服のスカートが捲れ上がり、あの白く滑らかな膝が大きく開かれる。 もはやそこに拒絶の意志はない。指くんの、天を突くほどに猛り狂った「とんでもないもの」が、ついに彼女の最も秘められた場所へと押し当てられた。

次の瞬間、絵里さんの世界が白く弾けた。

「んんっ……!? ぁ、ああああああっ!!」

経験したことのない質量と硬度が、彼女の身体の奥深くを、強引に、けれど容赦なく貫いていく。 それまで数人の男を知っていた絵里さんにとって、それは「性」という概念を根底から覆すほどの衝撃だった。 指くんのそれは、彼女の身体を内側から作り変えてしまうような、暴力的なまでの熱量と存在感を持っていた。

突かれるたびに、脳の芯が痺れるような電撃が走り、手足の先までが痙攣する。

「すごい……これ、すごすぎるよ……っ、指くん、壊れちゃう……っ!」

彼女は指くんの首にしがみつき、理性をかなぐり捨てて叫んだ。 事務所の古い机が、二人の激しい接触に悲鳴のような音を立てて揺れる。

指くんの動きは止まらない。二回戦目とは思えないほどの力強さで、彼女の最奥を執拗に抉り、刻みつけていく。 絵里さんは、自分がこれまで「快感」だと思っていたものが、いかに浅く、虚しいものだったかを思い知らされていた。

指くんの汗の匂い、獣のような荒い吐息、そして何より、自分を支配し、埋め尽くす圧倒的な太さ。

「あ、あああぁっ! い、いく……っ、いっちゃう!!」

何度目かもわからない絶頂が彼女を襲い、視界がチカチカと明滅する。 彼女はもう、自分が「痴漢」と呼んだ男の腕の中で、ただの蕩けた肉の塊と化していた。

最後に指くんが深く、最も深い場所まで突き入れたとき、絵里さんは白目を剥くほどの、雷に打たれたような快感の極致へと突き落とされた。

二人の結合部から溢れ出す熱い奔流。 彼女は、指くんから与えられる底なしの快楽に、心も身体も完全に「主従」という鎖で繋がれたことを、薄れゆく意識の中で確信していた。

その日を境に、二人の関係は「主従」として固定された。

学校では、相変わらず一学年上の大人しい先輩と、少し派手な後輩女子。 けれど、放課後、錆びた鍵を開けてこの事務所に足を踏み入れるとき、絵里さんは一介の女子高生から、指くんの欲望を静めるための「犬」へと変わる。

「今日は……電車で、ずっとこれのこと考えてたの……」

事務所の床に膝をつき、指くんの前に跪く絵里さん。 彼女の瞳には、かつて指くんを追い詰めた冷酷さは微塵もなく、ただ主人の「とんでもないもの」を待ちわびる、悦びに満ちた熱だけが宿っていた。

指くんは、自分を支配しようとした彼女を、今度は自分が永遠に支配し続ける。 窓の隙間から差し込む夕陽が、逆転した二人の影を、埃っぽい床に長く、濃く刻みつけていた。

                   完

COMMENT FORM

以下のフォームからコメントを投稿してください