終点、それから。 🔞

2026/01/12(月)


 山あいを縫うように走る路線のバスは、いつも湿った熱気に満ちている。一時間に一本しかない貴重な足に、高校生からお年寄りまでがしがみつくように乗り込むからだ。

 高1の僕は、いつものように進行方向左側、一人掛けの座席の横に立っていた。  左手で吊革を掴み、右手は所在なげにスクールバッグのストラップを握る。座席の背もたれの上部にある、プラスチックの持ち手に腰を預けるのが僕の定位置だ。

(……今日も、座れなかったな)

 一時間以上の長旅。立ちっぱなしの足がじわりと重い。  バスが急カーブを曲がるたび、乗客の体が大きな波のようにうねる。その拍子だった。

「あ……」

 ガタン、とタイヤが大きな轍(わだち)を拾った。  僕の体が前方に投げ出され、持ち手に預けていた股間が、すぐ下に座っている女性の肩に、吸い付くように押し当てられた。

 分厚い制服のズボン越しでもわかる、自分自身の体温。そして、彼女の肩の、驚くほどの柔らかさと細さ。  女性の髪から、微かに石鹸のような、清潔で甘い匂いが鼻腔をくすぐる。

(やばい、離れなきゃ……。でも、逃げ場がない)

 満員電車の理屈と同じだ。一度密着してしまった体を引き剥がそうにも、背後からは他人の背中が、左右からは吊革に掴まる腕が僕を逃がさない。

 バスが揺れるたび、彼女の肩の曲線が、僕の「そこ」をなぞるように擦れる。  女性に指一本触れたことのない僕にとって、それはあまりにも毒が強すぎる刺激だった。

心臓の音が、耳のすぐ奥でドラムのように鳴り響いている。 (やばい、やばいやばいやばい……!)  僕は必死に目を剥き、窓の外を流れる暗い山道を凝視した。頭の中で「九九」を逆から唱える。だが、感覚はすべて一点に集中していた。

 彼女が動いた。  避けてくれる。そう思って少しだけ安堵した僕の視界の端で、彼女がわずかに顔を上げた。  窓ガラスに映る彼女の瞳が、一瞬だけ僕の顔を捉えた。冷たいようでいて、どこか値踏みするような鋭い視線。  怒鳴られる――。そう覚悟して目を閉じた瞬間、腰に伝わったのは離れていく感覚ではなく、「めり込むような」感触だった。

 彼女は窓際に寄るどころか、わざと僕の股間に合わせるように、背筋を伸ばして肩を張ったのだ。 (え……?)  混乱する僕に追い打ちをかけるように、バスが大きく左右に揺れる。  路面の凹凸を拾うたび、彼女の肩が僕の最深部をじりじりと圧迫する。

「っ……」  声にならない吐息が漏れた。  その時、バスが急停車した。立ち客全員が前のめりになる中、僕は彼女の背中に覆いかぶさるように押し付けられた。    咄嗟に支えを求めた僕の右手が、座席のフレームを掴もうとして、彼女の細い二の腕を掠める。  初めて触れる、女性の体。  熱い。制服の生地越しでもわかる、僕とは違う、圧倒的な雌の体温。  彼女は顔を伏せたまま、逃げようともせず、ただ僕の重みを受け入れていた。

心臓の鼓動が、耳の奥で早鐘のように打ち鳴らされている。高1の僕は、女子はおろか、家族以外の異性とまともに手を繋いだことさえない「指童貞」だ。そんな僕にとって、今この瞬間に起きている事態は、もはや脳の処理能力を遥かに超えていた。

 山道を抜けるバスの遠心力に抗うこともできず、僕の股間は、座っている女性の左肩にぴったりと押し当てられている。分厚いスラックスの生地を突き抜けてくるのは、彼女の肩の肉感と、微かに伝わる体温だ。僕は必死に吊革を握りしめ、腰を引き、物理法則を無視してでも空間を作ろうと試みた。しかし、帰宅ラッシュの車内は文字通りのすし詰め状態で、背後からは見知らぬ会社員の背中が、容赦なく僕を彼女の方へと押し戻してくる。

 その時だった。彼女がふと、手元のスマホを消して顔を上げた。窓ガラスの反射越しに、彼女の視線が僕の顔をじっと値踏みするように捉える。怒られる、そう直感して全身の血の気が引いた。痴漢だと思われたら、僕の高校生活はここで終わる。謝るべきか、それとも不自然に目を逸らすべきか。パニックで思考が千々に乱れる中、彼女は意外な行動に出た。

 彼女は窓側に避けるどころか、むしろ深く腰を掛け直し、僕の「そこ」を迎え入れるようにぐっと肩を張ったのだ。それは偶然の動きではない。僕の容姿を確認した上で、あえて接触の面積を広げようとする明確な意思を感じる動きだった。

 追い打ちをかけるように、バスが急カーブで車体を大きく傾かせた。タイヤが路面の段差を跳ねる衝撃とともに、僕の体重がすべて彼女の肩にのしかかる。逃げ場のない密着。彼女の肩の曲線が、僕の最も敏感な部分をなぞるように深く沈み込んだ。

「あ……っ」

 声にならない吐息が漏れた。必死に般若心経を唱えようとしても、鼻腔をくすぐる彼女のシャンプーの甘い香りと、スラックス越しに伝わる柔らかな弾力が、僕の理性を容赦なく削り取っていく。指一本触れたことのない僕の指先は、バランスを保とうとして座席の背もたれを掴み、すぐそばにある彼女の細い首筋の白さに、ただ圧倒されるしかなかった。

 バスのエンジンの低い振動が、彼女の体を伝って僕の芯まで響いてくる。彼女は伏せ目がちに、だが確実に、僕が与える圧力を受け止めていた。一時間以上続くこの路線バスの旅が、永遠に続いてほしいような、今すぐ逃げ出したいような、熱い麻痺が僕を支配し始めていた。

停留所を知らせる無機質な電子音が車内に響き、プシューという音とともに前後の扉が開いた。すでに限界だと思われた車内に、部活動終わりの男子生徒たちの集団が、湿った熱気とともに雪崩れ込んでくる。彼らが奥へ奥へと詰め寄るたび、僕の背中に強い圧力がかかり、いよいよ逃げ場は完全に消失した。

僕の体は、座っている彼女の肩に完全に覆いかぶさるような形になった。右足と左足の間に彼女の肩が挟まり、股間は逃げ場を失って彼女の鎖骨に近い部分まで深く沈み込む。もはや「当たっている」というレベルではない。僕の一部が、彼女の体温と輪郭を克明に書き込んでいるような状態だ。

「……っ、すいません」

喉の奥で消え入りそうな謝罪を絞り出したが、彼女からの返事はない。ただ、彼女がふっと鼻先で息を吐いたのがわかった。それは拒絶の溜息ではなく、僕の重みを楽しんでいるような、あるいは挑発しているような、熱を帯びた吐息だった。

バスが発車し、加速のGがかかる。その衝撃で僕の腰がさらに彼女へ押し付けられたとき、彼女は膝の上に置いていた鞄を抱え直すふりをして、わずかに上体を反らせた。その動きに合わせて、彼女の肩の尖った部分が、僕の最も過敏な場所をじりじりと、えぐるように刺激する。

指一本触れたことのない僕の指先は、今や限界まで震えていた。吊革を掴む左手には嫌な汗がにじみ、右手は行き場を失って、彼女の座席のヘッドレストを強く指が白くなるまで握りしめている。目の前にある彼女のうなじからは、後れ毛がひと房こぼれ、僕の吐息が届くほどの距離で揺れている。

車内がさらに混み合い、隣の生徒のリュックが僕の肩を叩く。そのたびに僕はバランスを崩し、そのたびに従順な振り子のように彼女の肩へと何度も何度も、より深く、より執拗に、自分の熱を叩きつけてしまう。彼女は相変わらず前を見つめたままだが、その首筋が微かに赤らんでいることに気づき、僕の理性の糸は、今にも音を立てて千切れそうだった。

バスが大きく揺れ、エンジンが重低音を響かせて加速する。その振動に合わせ、彼女の肩と僕の股間は、もはや一つの生き物のように密着し、擦れ合っていた。頭の中が熱に浮かされ、目の前がチカチカとするような快感と恐怖の濁流に呑み込まれそうになっていた、その時だ。

彼女がおもむろに、膝の上に置いていたトートバッグのチャックを開けた。何かを探すような仕草をしながら、彼女は「あっ」と小さく声を漏らす。それはわざとらしいほどに自然な、演技じみた感嘆だった。

「ごめんなさい、ちょっといいですか?」

彼女が顔を上げた。至近距離で見つめられた彼女の瞳は、潤んでいるようにも、獲物を狙う肉食獣のようにも見えた。彼女は僕の謝罪を待たず、探し物をするフリをして、僕の腰のすぐ横に右手を伸ばした。

そして、信じられないことが起きた。

彼女の手は、僕のズボンのポケットのあたりをまさぐるような軌道を描き、そのままあからさまに、密着している「そこ」のすぐ横を、這い上がるように指先でなぞったのだ。それは荷物を取り出すための不可抗力などでは断じてなかった。彼女の細い指が、スラックス越しに僕の熱の形を確かめるように、ゆっくりと、執拗に動く。

心臓が跳ね上がり、呼吸が止まる。指一本触れたことのない僕にとって、それは雷に打たれたような衝撃だった。彼女は僕が硬直しているのを知ってか知らずか、指先に力を込め、僕と彼女の境界線をなぞるようにして、さらに深く僕の体へと指を食い込ませてきた。


 彼女の指は、今や僕の股間と彼女の肩の間に割り込むように入り込み、布越しに直接、僕の震えを掌で包み込もうとしていた。満員バスの喧騒、男子生徒たちの話し声、すべてが遠のいていく。世界には、彼女の指先の熱と、激しく脈打つ僕の欲望だけが残されていた。

彼女は僕を見上げ、唇の端をわずかに吊り上げた。その表情は、僕が「指童貞」であることを見抜き、弄ぶことを決めた残酷な年上の余裕に満ちていた。

彼女の指先が、スラックスの縫い目に沿ってゆっくりと這い上がる。その指が僕の最も熱を帯びた一点に触れ、確かな力で押し潰すように圧をかけてきた瞬間、僕は膝の力が抜けそうになり、思わず彼女の座席の背もたれに両手をついて彼女を閉じ込めるような格好になった。

周囲の乗客は、僕たちがただ満員バスの揺れに耐えているだけだと思っているだろう。だが、この極小の密室の中で、僕の処女な自意識は完膚なきまでに蹂躙されていた。彼女は僕の狼狽ぶりを楽しむように、顔をさらに近づけてくる。

「ねえ、すごく熱いよ?」

湿った声が耳腔に直接流し込まれる。彼女の唇が僕の耳たぶに触れそうなほど近く、その吐息が鼓膜を震わせた。指一本触れたことのない僕にとって、それは劇薬のような刺激だった。彼女の指は、今や僕の股間の脈動を完全に捉え、布越しにその形を弄んでいる。

「これ、バスが揺れてるせい……だけじゃないよね?」

彼女の指にぐっと力がこもる。僕はもう、否定する言葉すら見つけられない。喉はカラカラに乾き、ただ荒い呼吸を繰り返すことしかできなかった。彼女は僕の顔を覗き込み、獲物を追い詰めた愉悦をその瞳に宿しながら、さらに声を潜めた。

「次の停留所、私と一緒に降りる? それとも……このまま終点まで、もっとひどいことされたい?」

その提案は、僕のこれまでの平穏な高校生活を根底から壊してしまうような、甘く危険な招待状だった。彼女の指先が、スラックスのジッパーの金具を、カチリと音を立てないように、だが確実に指先で弾いた。

バスのブレーキが軋む音を立て、次の停留所が近づいていることを告げる。彼女は僕の目を見つめたまま、指先を離そうとはしない。降りるのか、残るのか。彼女の肩越しに伝わる圧倒的な「女」の熱に、僕は抗う術を失っていた。

停留所を告げるアナウンスが流れ、プシューという音とともに扉が開く。数人の乗客が降りていき、車内にわずかな隙間が生まれた。今なら彼女の肩から体を離し、何食わぬ顔で別の吊革へ移動することもできる。

だが、僕の体は一歩も動けなかった。それどころか、彼女の指先がジッパーの金具に触れた瞬間の、あの痺れるような熱から逃げ出すことなんて、到底できそうになかった。

「……残るんだ」

彼女は小さく、満足そうに口角を上げた。扉が閉まり、バスが再び走り出す。停留所を過ぎるたびに客はまばらになり、僕たちの周りには誰もいなくなった。それでも僕は、一人がけの座席に座る彼女に覆いかぶさるように、立ったままその肩に股間を押し当て続けていた。

彼女は周囲に人がいないことを確認すると、さらに大胆な行動に出た。彼女は自分のトートバッグを膝の上で広げ、僕の腰と彼女の肩の境界線を隠すように置いた。その目隠しの下で、彼女の手はスラックスのウエスト部分に滑り込み、直接、僕の肌の熱を感じようとしてきた。

「指一本も、触ったことないんでしょ?」

見透かしたような彼女の言葉に、僕は心臓が止まるかと思った。彼女の手のひらが、僕の腹筋のあたりからゆっくりと下へ、硬く熱り立った「そこ」へと向かっていく。布越しではない、彼女の指先の柔らかな感触が、下着の境界線を越えて僕の奥深くに突き刺さる。

「ひっ……あ、っ」

情けない声が漏れた。バスのエンジンが唸りを上げ、終点へと続く最後の上り坂を駆けていく。車内灯がチカチカと揺れる中、彼女の指は、まるで楽器を奏でるように僕を翻弄し始めた。

彼女は僕を見上げたまま、わざとゆっくりと指を動かし、僕が経験したことのない快楽の渦へと引きずり込んでいく。窓の外を流れる街灯の光が、交互に彼女の顔を照らし出す。そのたびに露わになる彼女の表情は、慈しむようでもあり、壊れやすい玩具を愛でるようでもあった。

終点まであと数分。乗客はもう、僕たち二人以外には誰もいない。バスが大きく揺れるたび、彼女の指先と僕の熱が激しくぶつかり合い、僕はただ、座席の背もたれを白くなるまで握りしめ、終わりのない熱病に浮かされるように、彼女のなすがままになっていた。

バスが大きく身を震わせ、ついに終点の回転場へと滑り込んだ。プシューという排気音とともに扉が開くと、夜の静寂が車内に流れ込んでくる。運転手が「終点ですよ」と眠たげな声を上げる中、僕は麻痺したような足取りで、彼女に導かれるようにバスを降りた。

街灯がひとつ、心細そうにアスファルトを照らしているだけの、深い闇に包まれたバス停。あたりには民家もなく、ただ虫の声と風に揺れる木々の音だけが響いている。

「ねえ、まだ震えてる」

彼女は振り返ると、僕の制服の裾を小さく掴んだ。バスの車内ではあれほど大胆だった彼女の瞳が、暗闇の中ではどこか湿った光を湛えている。彼女は僕の胸元に一歩踏み込み、逃げ場のない距離で僕を見上げた。街灯の光が彼女の長い睫毛を揺らし、その影が頬に落ちる。

僕は、指一本触れたことのないその手を、どう動かせばいいのか分からず、ただ棒立ちのまま彼女の体温に圧倒されていた。彼女の指先が、今度は外の冷気にさらされた僕の指に、そっと絡みつく。

「指童貞くん。バスの中、あんなにすごかったのに、ここでは触ってもくれないんだ?」

彼女は僕の右手を引き寄せ、自分の柔らかな頬へと導いた。初めて触れる女性の肌は、バスの熱気とは対照的に、驚くほどひんやりとしていて、それでいて奥底に生命の脈動を感じさせる弾力があった。

僕は吸い寄せられるように、ぎこちない手つきで彼女の髪、そして耳の後ろへと指を滑らせる。彼女は小さく吐息を漏らし、猫のように目を細めて僕の手に顔を寄せた。

「……もう、逃がしてあげないから」

暗いバス停の待合室。その影に隠れるようにして、彼女は僕の首に腕を回した。バスの中での「不可抗力の密着」は終わり、ここからは逃げようのない、僕たちの意志による時間が始まろうとしていた。僕は初めて、誰かを抱きしめたいという暴力的なまでの衝動に突き動かされ、彼女の細い腰へと手を伸ばした。

街灯の光も届かない待合室の隅、古びたベンチの影で、僕たちは溶け合うように重なり合った。バスの中での焦らし抜かれた時間が嘘のように、彼女の吐息は荒く、僕を求める熱量は増していく。

「ここ、誰も来ないから。……いいよ、もっと触って」

彼女の囁きに背中を押されるように、僕は震える手で彼女の背中に手を回した。初めて触れる、女性の腰の曲線。制服の薄い生地越しに伝わる体温は、僕の指先を、そして理性をじりじりと焼き尽くしていく。指一本触れることさえ恐れていたはずの僕の手は、彼女の柔らかな導きによって、未知の領域へと足を踏み入れていった。

彼女が僕の肩に顔を埋め、言葉にならない声を漏らす。その振動が僕の胸に直接伝わり、頭の中は真っ白な閃光に包まれた。バスの揺れによる「偶然」は、今、この暗闇の中で明確な「背徳」へと変わる。彼女の指が僕の髪を乱暴にかき上げ、僕の視界には彼女の潤んだ瞳と、微かに開かれた唇だけが映っていた。

「……初めてが私で、光栄に思ってね」

彼女が僕の耳朶を甘く噛む。その瞬間、僕の中に溜まっていた熱が、堰を切ったように溢れ出した。不器用で、ひどく無骨な僕の手つきを、彼女は優しく、時に強引に受け止めていく。草むらで鳴く虫の声も、遠くで走り去る車の音も、今の僕たちには遠い世界の出来事のようだった。

闇に包まれたバス停で、互いの体温を確かめ合うように貪り合った時間は、僕の中にあった「童貞」という名の臆病な殻を無惨に引き裂いていった。彼女の柔らかな肌、服越しに伝わる艶めかしい曲線、そして僕の指を包み込む湿った熱。初めて知る女性の体は、想像していたよりもずっと甘く、そして暴力的だった。

僕が彼女の細い肩に顔を埋め、荒い呼吸を整えようとしていたその時、彼女がふっと僕の体を引き離した。街灯の逆光を浴びて、彼女の表情は読み取れない。ただ、いたずらを思いついた子供のような、危うい声が闇に響いた。

「ねえ、続き……バスの中でやらない?」

予想もしなかった言葉に、僕は一瞬、自分の耳を疑った。 まだ夕方の余韻が残る時間だ。終点の回転場でアイドリングを続けているあのバスは、数分後には再び山を下り、市街地へと向かう復路の便になる。

「もう一回往復しても、そんなに遅くならないでしょ? 今度は、一番後ろの席に座ってさ」

彼女は僕のネクタイを指先に絡め、ぐいと自分の方へ引き寄せた。彼女の瞳には、暗闇の中でもはっきりと分かるほどの、獲物を追い詰めるような光が宿っている。

「帰り道は、さっきよりも人が少なくて暗いよ。……誰にも見られずに、もっと深いところまで触らせてあげる」

その提案は、僕にとって甘い毒薬そのものだった。さっきまでの密着は、あくまで「満員バスという不可抗力」という言い訳が立っていた。けれど、自らの意志で再びあの密室に乗り込み、彼女と重なり合うことは、もう言い逃れのできない決定的な一線を越えることを意味している。

けれど、僕の体はすでに彼女の指先に支配されていた。指一本触れられなかった数時間前の僕なら、恐怖で逃げ出していたかもしれない。しかし、今や僕の指先には彼女の肌の感触が、鼻腔には彼女の香りが、そして股間には彼女から与えられた熱烈な刺激が、消えない火種として残っている。

「……行くよ。バス」

僕が絞り出すように答えると、彼女は満足げに、そして妖艶に微笑んだ。 二人は手をつなぎ、再び回転場へと歩き出す。アイドリングの振動に震えるバスの車体は、今度は獲物を待つ巨大な檻のように見えた。

誰もいない車内。一番後ろの、暗がりに沈んだ長いシート。 一時間以上の往復という名の密会が、今、再び始まろうとしていた。

二人は並んで、バスの最後列にある長いシートの隅へと滑り込んだ。折り返し運転を待つ車内には、運転手以外に誰もいない。一番後ろの席は、運転席からもバックミラーからも死角になる、この巨大な鉄の箱の中で唯一許された密室だった。

やがてバスが静かに動き出し、街灯の少ない山道を下り始める。車内灯が消え、予備灯の薄暗いオレンジ色だけが二人を照らした。その瞬間、彼女は僕の膝の上にまたがるようにして、正面から僕を押し潰した。

「さっきは、私が攻められる側だったから……。今度は、君をめちゃくちゃにしてあげる」

彼女の瞳は、夜の闇を吸い込んだように深く、潤んでいた。彼女は僕の両手を掴むと、それを自分の腰ではなく、あえて僕自身の頭の後ろへと回させた。抵抗を許さない、という無言の圧力。指一本触れることさえ許されなかった数時間前とは対照的に、今は彼女の体温が、重みが、そして支配的な意志が、僕の全身を型取っていく。

彼女の指が、僕のシャツのボタンに掛けられた。一つ、また一つと、プラスチックが外れる小さな音が、エンジンの重低音に混じって僕の鼓膜に突き刺さる。

「声、出さないでね。運転手さんに聞こえちゃうから」

耳元で囁きながら、彼女は僕の胸元に指先を滑り込ませ、柔らかな肌の感触で僕を翻弄し始めた。バスが急カーブを曲がるたびに、遠心力で彼女の体が僕に強く押し付けられる。そのたびに、彼女の膝が、太ももが、僕の最も敏感な場所に食い込み、抗いようのない快楽の波が押し寄せてくる。

僕はただ、座席のシートを指が食い込むほど握りしめ、天を仰ぐことしかできなかった。彼女は僕の苦悶の表情を愉しむように、時折わざと激しく体を揺らし、僕の理性を粉々に砕いていく。

「ねえ、どんな気分? 指一本も使わせてもらえないで、私にいいようにされるの……」

彼女の手は、今や僕のベルトにまで届いていた。金属のバックルがカチリと音を立てる。窓の外を流れる月光が、一瞬だけ彼女の挑発的な微笑みを照らし出した。僕は、このまま終点まで彼女の掌の上で転がされ続ける運命を、歓喜とともに受け入れようとしていた。

バスが大きくバウンドし、深い闇の中を疾走する。予備灯の微かな光の下、最後列のシートは、外の世界から切り離された二人だけの聖域と化していた。

彼女の指先が、僕の理性の最後の一線を無造作に踏み越える。 「……んっ、あ……」 声を出してはいけないと言われれば言われるほど、喉の奥から熱い塊がせり上がってくる。彼女は僕の胸に手を突き、その重みのすべてを僕の熱りへと預けた。バスが揺れるたび、彼女の動きに合わせて、僕の視界は火花が散るように白く染まっていく。

「最後だよ、指童貞くん」

彼女の囁きがトリガーだった。激しい加速のGとともに、全身を貫くような衝撃が僕を襲う。指一本触れることさえ知らなかった僕の世界が、彼女という圧倒的な存在によって完全に塗り替えられた瞬間だった。僕は彼女の細い肩に顔を埋め、制御不能な震えが全身を駆け抜けるのをただ受け入れていた。余韻の中で、彼女の甘い石鹸の香りが、僕の鼻腔をいつまでも支配していた。

だが、現実は残酷なほど唐突に引き戻される。

『次は、〇〇……〇〇でございます』

無機質な車内アナウンスが流れ、バスが急減速を始めた。と同時に、前方の扉が開くプシューという音が、静まり返った車内に不吉に響く。

「やばっ……」

彼女が素早く僕の上から退き、スカートの乱れを整えながら隣の席へ滑り込んだ。僕もパニックになりながら、震える指先でシャツのボタンを掛け直し、ジッパーを上げる。金属が噛み合う音が、異様に大きく聞こえた。

前方のドアから、買い物袋を提げた一人の老人が、足音を忍ばせるようにして乗り込んできた。彼は空いている前方座席に腰を下ろし、深く帽子を被り直す。

車内の空気は一変した。数秒前まで二人を支配していた濃密な熱は、冷たい夜気にかき消され、そこには「ただの高校生の男女」が座っているだけの風景が残された。

僕は膝の上に置いたバッグを強く握りしめ、まだ激しく波打つ鼓動を鎮めようと必死に前を見つめた。隣に座る彼女は、何事もなかったかのように窓の外を眺めている。だが、ふと目を落とした彼女の耳たぶが、僕の視界の中で真っ赤に染まっているのが見えた。

ふと我に返り、窓の外を流れる見覚えのある景色を見て、僕は血の気が引く思いがした。  このバスは今、僕の家がある停留所を通り過ぎ、学校があった市街地の方へと向かって坂を駆け下りている。

「あ……僕、帰らなきゃいけないのに……」

 本来なら一時間かけて帰宅し、今頃は夕食を食べているはずだった。しかし、僕は彼女の誘いに乗って、あろうことか「逆方向」のバスに揺られている。次に僕の家の方へ行くバスがいつ来るのか、あるいはもう最終バスが終わっているのではないか。そんな不安が頭をよぎる。

 しかし、隣に座る彼女は、僕のそんな狼狽など気にも留めない様子で、僕の制服の袖を指先で弄んでいる。

「いいじゃない、今日くらい。どうせなら、このまま夜の街まで行っちゃおうよ」

 彼女の言葉は、正規のルートを外れてしまった僕の罪悪感を、心地よい麻痺へと変えていく。家にはなんて言い訳をしようか。親には、先生には。そんな現実的な問題が、彼女の肩から伝わる熱によって、どんどん遠い世界の出来事のように思えてくる。

 バスが市街地の明るい光の中へと入っていく。  乗り込んできた数人の乗客たちは、一番後ろで「道を踏み外した」二人の高校生が、どんな情事を終えてきたばかりかなど知る由もない。

 僕は覚悟を決めた。もう、真っ当な帰り道なんてどこにもないのだ。  指一本触れられなかった臆病な僕は、あの山あいのバス停に置いてきた。僕は彼女の細い指を強く握り返し、家とは反対方向へ、夜の深淵へと向かうバスの振動に身を任せた。

物理的に「逆方向」へ行くという事実は、高1の僕にとって、単なる乗り間違い以上の意味を持っていた。

これまで僕は、親が敷いたレールの上を、時刻表通りに走るバスのように生きてきた。学校へ行き、部活をこなし、決まった時間のバスに揺られて、決まった時間に夕食の席につく。それが僕の全うすべき「正解」だったはずだ。

けれど今、僕を乗せた鉄の塊は、僕の居場所があるはずの平穏な日常を背にして、夜の深淵へと加速している。窓の外、反対車線を走り去っていく「下り」のバス。あちら側には、宿題や予習、明日の小テストといった、僕が守るべきはずだった「正当な高校生活」が乗っている。それを横目に見送る僕は、もうあちら側の住人ではないのだという実感が、胸の奥をじりじりと焼いた。

「どうしたの? 怖い顔して」

彼女が僕の腕に自分の細い腕を絡め、体重を預けてくる。その柔らかな感触は、僕が捨て去った「正解」の代償としては、あまりにも甘美で、あまりにも重い。

僕は確信していた。このバスが市街地の終点に着くとき、僕はもう、指一本触れることに怯えていたあの頃の自分には戻れない。家へ帰る手段を失い、真っ暗な夜の街に放り出される恐怖よりも、彼女の隣で道を踏み外していく高揚感が勝っていた。

大人たちが「正しい」と呼ぶ階段を、僕は一段飛ばしで駆け下りるのではなく、手すりを越えて真っ逆さまに飛び降りてしまったのだ。

バスが市街地の眩いネオンの中へと滑り込んでいく。整理券を握りしめる僕の指先は、まだ微かに震えていたけれど、その震えはもはや後悔によるものではなかった。僕は、僕を迷子にした張本人である彼女の肩に、今度は自分から深く頭を預けた。

市街地の光が車内に差し込み、現実に引き戻されそうになった僕を、彼女の鋭い直感が逃がさなかった。家とは逆方向へ向かっているという不安に押し潰され、俯き、寝込みそうになっていた僕の膝の上に、彼女の冷たく細い指が再び這う。

「ねえ、寝てる場合じゃないでしょ?」

彼女の囁きとともに、スラックスの上から確かな熱を捉えるように、彼女の手が僕の股間に深く食い込んだ。不意を突かれた衝撃に、僕の背筋に電流が走る。

「っ……あ」

声にならない悲鳴が漏れ、僕は跳ね起きるように姿勢を正した。彼女は僕の狼狽を愉しむように、握る手にぐっと力を込める。布越しに伝わるその力強い感触は、僕の中に澱んでいた不安を一瞬で消し飛ばし、代わりにどろりとした、より深い欲望の火を焚きつけた。

「不安になっちゃった? 大丈夫、夜はこれからだよ」

彼女は僕の耳元に唇を寄せ、周囲に聞こえないほどの密やかな声で告げた。彼女の手は、僕の体の反応を確かめるように、執拗に、そして容赦なく動き続ける。指一本触れられなかった僕を、彼女はこうして何度も「男」に引き戻そうとする。

バスが市街地の大きな交差点を曲がるたび、街灯の光が彼女の顔を明滅させた。その瞳に宿る魔性のような光に、僕は完全に魂を奪われていた。もう、帰る場所なんてどうでもいい。彼女の指先が僕に与える刺激こそが、今の僕にとっての唯一の現実であり、道しるべだった。

僕は彼女の手の上に、自分の手を重ねた。指一本触れられなかった右手が、今は自ら彼女の欲望をなぞるように動く。バスは終着駅に向けて、最後の直線へと速度を上げていった。

バスの扉がプシューと音を立てて閉まり、夜の排気ガスを吐き出しながら走り去っていく。賑やかなはずの市街地の喧騒も、今の僕には薄い膜を隔てた遠い世界の音のようにしか聞こえなかった。

アスファルトの上に立っても、僕の体はまだバスの小刻みなエンジンの振動を覚えている。そして何より、制服のスラックスを内側から突き破らんばかりに硬く熱り立った「そこ」が、あまりにも無様に、僕がもう後戻りできないことを主張していた。

「……まだ、あんなに元気なんだ」

隣を歩く彼女が、僕の腰のあたりをチラリと見て、くすりと妖艶に笑った。 指一本触れたことのなかった一時間前の僕なら、恥ずかしさでその場にしゃがみ込んでいたかもしれない。でも今は、歩くたびに生地と擦れるその痛熱い感触が、僕をさらなる興奮の淵へと駆り立てていた。

「ねえ、どこで吐き出したい?」

彼女が僕の腕に自分の細い指を絡ませ、僕の顔を覗き込んだ。その問いかけは、僕の理性を粉々に砕くのに十分な破壊力を持っていた。

「公園の影? それとも……このまま、あそこまで歩ける?」

彼女が指差したのは、ネオンの光が不規則に点滅する、路地裏の雑居ビルに挟まれた小さなビジネスホテルの看板だった。

市街地の冷たい風が頬を打つ。でも、僕の全身を駆け巡る血潮は、沸騰したように熱いままだ。僕は、まだ脈打つ自分の本能を鎮めることなんて、もう考えていなかった。

「……どこでもいい。早く、全部出してしまいたい」

震える声でそう答えた僕を、彼女は満足そうに引き寄せた。僕は、まだ勃起したままの熱を隠すように猫背になりながら、彼女の導きに従って、夜の闇が最も濃い路地裏へと足を踏み入れた。
自動ドアが開いた瞬間に漂ってきた、芳香剤と微かなタバコの入り混じった独特の匂い。フロントでの短いやり取りの間、僕は自分がどこにいるのかも分からなくなるほどの緊張と、収まりきらない熱に支配されていた。

鍵を受け取った彼女に導かれ、狭いエレベーターを降りて部屋に入る。ドアが閉まり、錠がカチリと音を立てて掛かった瞬間、それまでの「バスの中」という不自由な制約がすべて取り払われた。

「……やっと二人きりだね」

彼女が壁のスイッチを入れ、部屋をオレンジ色の柔らかな間接照明が満たす。 僕は、まだスラックスを内側から突き破らんばかりに硬く熱り立ったまま、部屋の中央で立ち尽くしていた。指一本、女性に触れたことのなかった僕が、今、ベッドのある密室で彼女と向き合っている。

彼女は迷いのない手つきで、自分の制服のリボンを解き、ベッドの上に放り出した。そして僕の目の前に歩み寄ると、震える僕の手を自分の胸元へと導いた。

「指童貞くん、ここからはバスの揺れなんて関係ないよ。君の手で、私をめちゃくちゃにして」

初めて触れる、遮るもののない彼女の肌。バスの座席越しに感じていたものとは比較にならないほどの、圧倒的な柔らかさと熱量。僕は吸い寄せられるように彼女を抱き寄せた。彼女の細い腰、しなやかな背中、そして耳元で漏れる艶めかしい吐息。

「あ……っ、すごい、熱いよ……」

彼女の手が僕のベルトを外し、重く沈んでいた僕のすべてを解き放つ。空気の冷たさに触れた瞬間、僕は彼女を押し倒すようにベッドへと沈み込ませた。

真っ白なシーツの上で、彼女の髪が乱れ、露わになった肌が照明を反射して真珠のように光る。僕は、彼女の導きに従いながら、一つ一つ、未知の感覚を自分のものにしていった。指先が彼女の輪郭をなぞり、僕の熱が彼女の奥深くへと入り込んでいく。

エンジンの振動も、他人の視線も、何もない。 あるのは、僕の鼓動と彼女の喘ぎ声、そしてシーツが擦れる音だけ。

「……ねえ、目を開けて。ちゃんと見てて」

オレンジ色の照明が、彼女の白く透き通るような肌をなめらかに照らし出している。 バスの中ではあんなに大胆だった彼女が、服を脱ぎ捨ててベッドに横たわると、どこか儚げな美しさを纏って見えた。

「……ここ、触って?」

彼女が僕の手を引き、自身の脚の間へと導く。指一本触れることさえ恐れていた僕の指先が、初めて本物の女性の秘部に触れた。熱く、湿り、柔らかな花びらのような感触。指先から脳へ、強烈な電気が走る。僕は吸い寄せられるように、彼女の股間へと顔を近づけた。

鼻腔を突く、彼女自身の、そして女性特有の甘く濃厚な匂い。僕は意を決して、そこに舌を這わせた。 「あっ、んんっ……!」 彼女の腰が大きく跳ね、僕の髪を指で強く掻きむしる。初めて味わう、鉄分を含んだような熱い蜜の味。舌先でその繊細な輪郭をなぞるたびに、彼女の喘ぎ声は高まり、僕の心臓は破裂しそうなほど脈打った。

「つぎ、は……わたしの番」

彼女は僕の肩を押し、仰向けにさせた。 視界が反転し、彼女が僕の上に覆いかぶさってくる。彼女の長い髪が僕の胸元にこぼれ、くすぐったい。やがて、彼女の唇が僕の硬く熱り立った先端を優しく包み込んだ。

「ひっ……!」 脳の芯まで痺れるような、未知の感覚。温かく、そしてどこまでも柔らかな口腔の粘膜が、僕のすべてを吸い上げるように締め付ける。彼女の舌が、僕の最も敏感な部分を執拗に転がし、追い詰めていく。バスの揺れとは比較にならない、逃げ場のない快楽。

僕はシーツを掴み、背中を反らせて耐えた。彼女の口の中で、僕の熱は限界まで膨れ上がり、脈打つ。 「だめ……もう、出る、っ……」 僕の言葉を聞いた彼女は、挑発するように瞳を潤ませて僕を見上げ、さらに深く、僕の熱を喉の奥へと迎え入れた。

爆発するような解放感とともに、僕のすべてが彼女の中に注ぎ込まれていく。 真っ白な感覚の中で、僕はただ彼女の頭を抱き寄せ、震える呼吸を繰り返した。


彼女は僕のすべてをその喉の奥で受け止めた後も、しばらくは顔を上げようとしなかった。やがて、わずかに眉をひそめ、口元を指で拭いながら僕を見上げる。

「……もう、いきなり出しすぎ。びっくりしたじゃない」

彼女は少しだけ不機嫌そうなフリをしてブツブツと文句を言ったが、それでも僕から離れようとはしなかった。それどころか、まだ余韻に震えている僕の胸元に顔を寄せ、上目遣いで僕を覗き込む。

「でも、これくらいで終わりじゃないよね? 若いんだから、すぐに次、できるでしょ」

彼女の言葉は、単なる挑発ではなく、僕を逃がさないという執着のようにも聞こえた。彼女は僕の腹筋のあたりを、爪を立てないように優しく、けれど執拗に指先でなぞり始める。その指先が、一度萎えかけた僕の熱を再び呼び覚まそうとする。

「ほら……もう、こんなに熱くなってきてる」

彼女は楽しそうに、そして慈しむように、再び脈打ち始めた僕の「そこ」に掌を当てた。指一本触れることさえできなかった僕を、彼女は何度も何度も、新しい悦びの渦へと引きずり戻していく。

「バスが往復したくらいじゃ、全然足りないんだから。朝まで、たっぷり教えてあげる」

彼女の指先が、今度は僕の太ももの内側をゆっくりと這い上がってくる。僕は、再び膨れ上がり始めた熱を感じながら、彼女の髪に手を伸ばした。

彼女は僕の身体が再び熱を帯びるのを待っていたかのように、満足げな笑みを浮かべて僕の腰の上に跨った。

「今度は、私の好きにさせてもらうから」

彼女のしなやかな肢体が、オレンジ色の照明の下で艶やかに揺れる。彼女がゆっくりと腰を沈めると、僕と彼女の境界線は完全に消失し、再び一つに溶け合った。バスの揺れに翻弄されていた時とは違う、彼女の意志による、力強く、そして情熱的な結合。

彼女は僕の胸に両手を突き、のけぞるようにして激しく腰を動かし始めた。乱れた髪が激しく揺れ、彼女の喉の奥から、甘く、切ない喘ぎ声が漏れ出す。僕はただ、彼女の圧倒的な生命力に圧倒され、その細い腰をしっかりと掴んで支えることしかできなかった。

「っ……あ、すごい……指童貞くんの、中、すごく熱い……っ」

彼女の瞳は潤み、頬は上気して、その表情には先ほどまでの余裕とは違う、純粋な快楽の色が混じり始めていた。彼女が動くたびに、ベッドのバネが軋む音が規則正しく響き、僕の理性をさらに奥深くへと引きずり込んでいく。

市街地を走るバスのエンジンの振動よりも、今の僕に伝わってくる彼女の鼓動の方が、何倍も激しく、何倍も僕の魂を揺さぶっていた。彼女は満足するまで、何度も、何度も、僕の上で波打ち続けた。

やがて、極限の瞬間が訪れた。彼女は僕の肩に顔を埋め、最後の一線を越えるように激しく僕を締め付ける。真っ白な感覚の中で、僕は彼女と一つになったまま、深い、深い眠りのような快楽の底へと落ちていった。

二人の夜は、こうして濃密な沈黙へと溶けていった。

                   完

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