「90」庭の隅の逃げ道

2026/02/20(金)
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アスファルトから立ち上る熱気のせいか、それともただ目的もなく歩きすぎたせいか、十七歳の指(ゆび)の視界は少しだけぼやけていた。進路希望調査票を白紙のまま提出してからというもの、放課後の町は妙に広く、そしてひどく退屈に感じられる。

「あー……どっかに一億円とか落ちてねえかな」

独り言をこぼしながら、指は住宅街の角にある電柱を曲がろうとした。その時、視界の端に白くて小さな「塊」が飛び込んできた。

電柱の影、コンクリートの冷たさに身を寄せるようにして、一匹の子犬が丸まっていた。毛並みはまだ新しく、よく手入れされている。何より、その首には真新しい革の首輪がしっかりと巻き付けられていた。

「おい、お前……」

指が声をかけると、子犬はびくっと肩を揺らし、濡れた鼻先を震わせながら見上げてきた。その瞳には、世界のすべてに怯えるような色が浮かんでいる。明らかに、ついさっきまで温かい家の中にいたはずの風体だ。

指は周囲を見渡したが、飼い主らしき人物の姿はない。あるのは、夕暮れに染まり始めた静かな路地だけだった。

「迷子かよ。俺と一緒だな」

自嘲気味に笑い、指は膝をついた。手を伸ばすと、子犬は最初こそ身をすくめたが、指の指先に鼻を近づけ、クンクンと匂いを嗅いだ。やがて、諦めたように小さなため息をついて、指の手のひらにあごを乗せる。

その震えが、ダイレクトに伝わってきた。見捨てて帰るには、この体温はあまりに脆すぎる。

「しゃあねえな。行くぞ」

指はぎこちない手つきで子犬を抱き上げた。腕の中に収まる命は驚くほど軽く、そして熱かった。彼はそのまま、足早に交番のある大通りへと向かって歩き出した。

「……え、落とし物?」

交番の狭いカウンター越しに、指(ゆび)は思わず聞き返した。腕の中では、子犬が不安そうにクンクンと鼻を鳴らしている。

年配の警察官は、手慣れた様子で書類を広げながら頷いた。
「そうなんだよ。法律的には『遺失物』、つまり落とし物扱いになる。君がこの子の『拾い主』ってわけだ」

指は、自分よりずっと体温の高い「落とし物」を見つめた。命があるものを物として扱う事務的な響きに、なんだか落ち着かない気分になる。

「これ、俺がずっとここで持ってなきゃいけないんですか?」

「いや、基本的には保健所や動物愛護センターに連絡して、そこで保護してもらうことになる。ただ、飼い主が見つかるまで君が自宅で預かるという選択肢もあるけど……どうする?」

「……いや、うちはペット禁止のアパートなんで」

指は少し寂しそうに子犬の頭を撫でた。自分が童貞を卒業するより先に、この犬を家に帰してやるのが先決だ。警察官は「分かった」と短く答えると、無線で連絡を取り始めた。

「じゃあ、発見場所と時間を詳しく教えてくれるかな。あと、もし飼い主が現れなかった場合、この子の所有権を主張するかどうかも決めてもらうよ」

所有権。つまり、もしもの時は自分の犬にできるということだ。指は、さっきまで電柱の陰で震えていたこの小さな命の重みを思い出し、少しだけ言葉に詰まった。

「すみません! ここに、白い子犬が届いてませんか!?」

交番の自動ドアが勢いよく開き、息を切らした女性が飛び込んできた。

指(ゆび)は思わず息を呑んだ。そこに立っていたのは、この辺りの住宅街ではまず見かけないような、凛とした美しさを持つお姉さんだった。緩く波打つ栗色の髪が肩に掛かり、薄手のブラウスは走ってきたせいか少し乱れている。何より、潤んだ瞳が真っ直ぐに指の腕の中を射抜いた。

「ああ、シロ……! よかった……!」

彼女の視線が子犬と重なった瞬間、張り詰めていた緊張が解けたのか、その場にへたり込みそうになる。腕の中の子犬も、彼女の声を聞いた途端に狂ったように尻尾を振り、指の腕から飛び出さんばかりの勢いで身を乗り出した。

「お、落ち着けって、危ないから……」

指が慌てて抱き直そうとすると、彼女は膝をついたまま、祈るように両手を差し出してきた。

「ありがとうございます。その子、うちの子なんです。庭の掃除をしてる隙に、勝手に門をすり抜けちゃって……。必死で探したんですけど見つからなくて、生きた心地がしませんでした」

彼女の瞳から、一筋の涙が頬を伝う。指は、女性の涙をこれほど間近で見たことがなかった。しかも、とんでもない美人だ。十七歳の童貞にとって、その光景は刺激が強すぎる。

「あ、いや、えっと……。俺はただ、電柱の陰で震えてるのを見つけただけで……」

指は顔が熱くなるのを感じながら、子犬を彼女の腕に託した。彼女は愛おしそうに子犬を抱きしめ、何度もその頭に頬を寄せる。

「本当に、本当にありがとうございます……。あ、私、近くに住んでいる瀬戸(せと)といいます。あ……君、お名前は?」

彼女は涙を拭い、少し照れたように微笑みながら指を見上げた。その上目遣いに、指の心臓はアスファルトの照り返しよりも激しく熱を帯び始めた。

彼女は、腕の中の子犬を ぎゅっと抱きしめた。指(ゆび)はその様子を見ながら、少しだけ緊張が解けるのを感じた。

「いえ、無事に見つかってよかったっす。俺も、まさかこんな綺麗な人が飼い主だとは思わなくて……あ、いや、なんでもないです」

口を滑らせた指は、慌てて視線を逸らした。十七歳の童貞にとって、今の失言は致命傷に近い恥ずかしさだ。

「……ふふ、嬉しい。ありがとう」

彼女は少しだけいたずらっぽく笑うと、改めて背筋を伸ばした。

「あの、もしよかったらお礼をさせてほしいんです。この子の命の恩人ですから。今から……お時間、大丈夫ですか?」

夕暮れの交番の前。警察官が事務的に書類を片付ける音が響く中、指の心臓は再び、今度はもっと激しく脈打ち始めた。

「あの、すぐそこなんです。本当にお礼をさせてください」

瀬戸さんと名乗った彼女は、まだ少し名残惜しそうに子犬を抱きしめたまま、交番の角を指差した。指(ゆび)は断る理由を探そうとしたが、彼女の潤んだ瞳に見つめられると、言葉は喉の奥に引っ込んでしまった。

「あ……はい。じゃあ、お言葉に甘えて」

十七歳の語彙力では、それが精一杯だった。

歩いて数分。住宅街の奥まった場所に、その家はあった。高い生垣に囲まれた、落ち着いた雰囲気の木造建築だ。門をくぐると、手入れの行き届いた芝生の庭が広がっている。

「ここです。さっき、この隙間から抜け出しちゃったみたいで……」

彼女は庭の片隅にある小さな隙間を指差して、困ったように笑った。

「さあ、入ってください。散らかってますけど」

玄関の鍵を開ける彼女の後ろ姿を、指は適度な距離を保って追いかける。ブラウス越しに透ける肩のラインや、歩くたびに揺れる髪の香りに、鼻の奥がツンとする。これがいわゆる「お姉さんの匂い」というやつだろうか。

リビングに通されると、そこには木の温もりが感じられる広々とした空間が広がっていた。

「冷たいものでも飲みますか? それとも、何か食べたいものある? 高校生なら、お腹空いてるよね」

彼女は子犬をリビングのケージに入れ、キッチンに立ちながら振り返った。その自然な仕草に、指はソファの端っこに硬直したまま座り込む。

「あ、いや、水で大丈夫です。……というか、本当に気にしないでください。ただ見つけただけなんで」

「そんなわけにいかないわよ。私にとっては、この子がすべてなんだから」

彼女は冷蔵庫から麦茶を取り出し、グラスに注いで指の前に置いた。そして、自分も対面のソファに腰を下ろす。

「改めて……。私は瀬戸 麗奈(せと れいな)。君の名前、まだ聞いてなかったよね?」

至近距離で結ばれた視線。指は自分の心臓の音が、静かなリビングに響いているんじゃないかと気が気ではなかった。

麦茶の冷たさが喉を通る。少しだけ落ち着きを取り戻した指(ゆび)だったが、やはりどうしても気になることがあった。

リビングの大きな窓から見える、あの庭の隅だ。

「……あの、瀬戸さん。さっきの穴、そのままにしとくとまたあいつ逃げ出しちゃいますよね」

指はグラスを置き、膝に手を置いて立ち上がった。

「ええ、そうね。明日、業者さんにでも頼もうかと思ってたんだけど……」

「いや、とりあえず応急処置だけでもしときますよ。そこら辺に落ちてる枝とか、使わせてもらってもいいですか?」

瀬戸さんは驚いたように目を丸くしたが、すぐに「助かるわ」と顔をほころばせた。

外に出ると、夕暮れの湿った空気と草の匂いが混じり合っている。指は庭の隅へ向かった。生垣の根元、ちょうど子犬の体がすっぽり通り抜けそうな隙間がぽっかりと口を開けている。

指は生垣の剪定で出たらしい枯れ枝や、庭の隅に積まれていた手頃な太さの枝を拾い集めた。

「よし……これでどうだ」

地面に深く枝を突き立て、格子状に組み合わせていく。十七歳の不器用な手つきではあったが、少なくとも子犬の力で押し通れるような隙間ではなくなったはずだ。

泥で汚れるのも構わず作業に没頭していると、背後から柔らかな気配が近づいてきた。

「……すごい。手際がいいのね」

振り返ると、瀬戸さんが感心したように、そしてどこか眩しそうな表情で指を見つめていた。西日に照らされた彼女のシルエットが、影を長く伸ばして指の足元まで届いている。

「あ、いや、適当っすよ。こんなんで良ければ」

指は照れ隠しに、汚れた手をズボンで拭こうとした。

「ダメよ、服が汚れちゃう。……ねえ、指くん。手、洗っていって。あと、お礼に夕飯も食べていかない? まだ帰りたくないでしょ?」

彼女の言葉に、指の心臓がドクンと跳ねた。ただの「お礼」以上の響きが、その声には混じっているような気がして。

「えっ……お風呂、ですか?」

洗面台の蛇口から流れる水の音に、指(ゆび)の声が小さくかき消されそうになった。石鹸の泡で泥を落としていると、背後に立った瀬戸さんの気配が、石鹸の香料よりもずっと甘く漂ってくる。

「そうよ。庭仕事して汗かいちゃったでしょ? ちょうど今、自動で沸いたところなの。気にしないで入ってきちゃって」

鏡越しに視線が合う。彼女はいたずらっぽく、それでいて慈しむような、大人の余裕に満ちた笑みを浮かべていた。

「いや、でも、さすがにそれは……。俺、ただの通りすがりの高校生ですし……」

「ただの通りすがりじゃないわ。シロを助けてくれた、大切な恩人くん。ね?」

彼女はそう言うと、脱衣所の棚からふかふかの新しいタオルを取り出し、指の手に握らせた。指先が触れ、その熱に指は思わず肩を跳ねさせた。

「……着替え、どうしようかしら。あ、弟が置いていったTシャツと短パンがあったはず。ちょっと待っててね」

彼女がパタパタと廊下へ消えていく。残された指は、手の中のタオルの柔らかさと、浴室から漏れ聞こえる微かなお湯の音に、頭がクラクラした。

十七歳の夏。目的もなくブラブラしていたはずが、気づけば見知らぬ美人の家で、彼女の入れたお風呂に入ろうとしている。

「……これ、夢じゃねえよな」

指は、鏡に映る自分の、少し上気した情けない顔を見つめた。心臓の鼓動が、脱衣所の狭い空間にうるさく響いている。

「ねえ 背中流してあげる。」


「……えっ!?」

浴室の曇りガラスの向こうから聞こえたその声に、指(ゆび)は湯船の中で危うく溺れそうになった。心臓が喉から飛び出しそうなほど跳ね上がる。

「い、いや! 大丈夫です! 自分、一人で洗えますから!」

必死で声を張り上げたが、脱衣所の戸が開く小さな音がした。続いて、浴室のドアがわずかに隙間を作る。温かな湯気と共に、瀬戸さんの柔らかな気配が滑り込んできた。

「遠慮しなくていいのに。さっき一生懸命、庭の穴を塞いでくれたでしょ? 泥だらけになっちゃったもの、男の子の背中は自分じゃ届かないでしょ?」

彼女は髪をアップにまとめ、薄手の部屋着の袖をまくり上げていた。露わになった白い腕が、浴室の淡い光を反射して眩しい。

指は、お湯の中に肩まで深く沈み込んだ。水面から上に出ている顔が、熱気とは別の理由で真っ赤に染まっていく。

「……座って」

彼女は小さなお風呂椅子を引き寄せると、指に背中を向けるよう促した。抗う術もなく、指はロボットのようなぎこちない動きで湯船から上がり、背中を向けた。

タオルの泡が、背中にふわりと乗せられる。

「……あ、あったかい……」

「ふふ、くすぐったい? 力加減、どうかな」

彼女の指先が、タオル越しに背中のラインをなぞる。十七歳の、まだ線が細くも引き締まった少年の背中。彼女の手のひらが動くたびに、指の全身に電流が走ったような衝撃が突き抜ける。

「指くん、すごくいい体してる。部活、何かやってるの?」

「い、いえ……帰宅部です。ブラブラしてるだけなんで……」

声が震える。背後にいる彼女の吐息が、耳たぶをかすめる。

「そうなんだ。でも、優しいのね。見ず知らずの犬のために、あんなに一生懸命になってくれて」

彼女の手が肩から首筋へと上がり、指の緊張はピークに達した。今、振り返ったらどうなってしまうのか。童貞の想像力では、この先の展開が甘美すぎて恐ろしかった。

浴室の蒸気が、甘い石鹸の香りをより濃密に引き立てていた。

「指くん、もっと力を抜いて。そんなに硬くなってたら、疲れが取れないわよ」

麗奈さんの声は、お湯の音に混じってとろけるように耳に届く。彼女の柔らかな掌が、泡に包まれたタオル越しに背中をゆっくりと円を描くように滑った。広背筋から腰のあたりへ、そしてまた肩甲骨へと、慈しむような手つきが繰り返される。

指(ゆび)は、目の前のタイルの一点を見つめるのが精一杯だった。背中から伝わってくるのは、タオルの感触だけじゃない。彼女が動くたびに、わずかに触れる指先の体温、そして彼女自身の吐息が、剥き出しの肌に熱を与えていく。

「……気持ちいい、です」

絞り出すように答えると、背後でクスクスと小さく笑う気配がした。

「よかった。一生懸命頑張ってくれたお礼だもん。もっと甘えていいんだよ?」

彼女の手が、首筋からうなじのあたりをそっとなぞった。指の体は、電気を流されたようにピクリと跳ねる。その反応を楽しむかのように、彼女の指先は髪の生え際を優しくマッサージし始めた。

「指くんの背中、意外と大きいのね。……なんだか、守ってくれそうな気がしちゃう」

その言葉に、指の心臓は爆発しそうなほど高鳴った。十七年生きてきて、これほどまでに全細胞が沸き立つような瞬間はなかった。

「……俺、そんな……守るなんて……」

「うふふ、無自覚なのが一番困るわね」

麗奈さんはタオルを置くと、今度は素手のまま、指の両肩にそっと手を置いた。滑らかな肌の感触がダイレクトに伝わり、指の脳内は真っ白に塗りつぶされる。

「ねえ、指くん。……こっち、向いて?」

熱い湯気に包まれた密室で、彼女の囁きが鼓膜を震わせる。指は、心臓の鼓動を全身で感じながら、ゆっくりと、恐る恐る振り返った。

そこには、上気した頬で微笑む麗奈さんの姿があった。

麗奈さんの瞳が、指(ゆび)の動揺をすべて見透かすようにじっと見つめてくる。

「……あら」

ついさっきまで、未知の空間への緊張と羞恥心で情けなく縮こまっていた指の「そこ」は、彼女と正面から向き合った瞬間に豹変していた。至近距離から漂う甘い肌の匂いと、濡れた部屋着越しに透ける彼女の柔らかな曲線。それらが十七歳の野生を呼び覚まし、制御不能な勢いで熱を帯び、ぐんぐんとその存在を主張し始める。

「指くん……正直なのね」

麗奈さんは逃げようとする指の膝を、そっと自分の膝でブロックした。逃げ場のない洗い場の隅。彼女は指先で、自分の唇をなぞりながら、いたずらっぽく、それでいて熱を帯びた吐息を漏らす。

「さっきまであんなに震えてたのに。……シロ(子犬)と一緒に、私が温めてあげなきゃいけないかしら」

彼女の手が、ゆっくりと、ためらうことなく 股間へと伸びてくる。指は声を出すこともできず、ただバクバクと波打つ心臓の音を全身で聞きながら、背後の壁に背中を押し付けた。

「……っ、瀬戸、さん……!」

「いいよ、声出しても。ここには私と、君と、シロしかいないんだから」

彼女の指先が、熱く脈打つ「それ」の先端に微かに触れた。指の背筋に、今まで味わったことのないような強烈な電流が駆け抜ける。

「すごい……こんなに熱くなっちゃって。ねえ、指くん。……もっと、お礼させて?」

潤んだ瞳が、獲物を捕らえた肉食獣のような、それでいて慈愛に満ちた聖母のような不思議な光を湛えて指を見上げている。十七歳の童貞にとって、その一歩踏み込んだ誘惑は、抗うことのできない甘い泥沼のようだった。

麗奈さんは、洗い場の椅子に座る指の前に、膝をつくようにして寄り添っています。

シャワーの温かなお湯を指の体に浴びせました。流れる水滴が、たくましく脈打ち始めた「それ」をなぞり、床へと滴り落ちていきます。

「……ねえ、指くん。こんなに一生懸命になってるのに、放っておくなんて意地悪よね」

麗奈さんの白い指先が、まるで壊れ物を扱うような優しさで、熱を帯びた先端をそっと包み込みました。

「っ……あ……!」

指は思わずのけぞり、背後のタイルに後頭部を軽くぶつけました。冷たいタイルの感触と、彼女の手のひらの驚くほどの熱さ。そのギャップが、十七歳の脳内をかき乱します。

「いいのよ、力を抜いて。……私が、もっと楽にしてあげる」

彼女は上気した顔をさらに近づけ、指の太ももに自分の体を預けるようにして密着してきました。濡れた部屋着が肌に吸い付き、彼女の柔らかな胸の感触が、指の膝にダイレクトに伝わってきます。

指の視界は、湯気と、目の前の美しすぎるお姉さんの姿で、ぐにゃりと歪んでいきました。

麗奈さんの指先が、熱を帯びた「それ」の根元から先端へと、這い上がるようにゆっくりと滑った。

「……っ!」

指(ゆび)の口から、情けないほど高い吐息が漏れる。人生で一度も経験したことのない、脳が痺れるような刺激。彼女の手のひらは吸い付くように柔らかく、それでいて驚くほど熱い。

「ふふ、指くん、身体中がビクビクしてる。可愛い……」

麗奈さんは、上気した顔を指の股の間へと近づけた。湿った吐息がダイレクトにかかり、指は思わず太ももを固く閉じそうになる。

「ダメよ、閉じちゃ。もっと、私に見せて?」

彼女は片手で指の膝を優しく割り、もう片方の手で、溢れんばかりに膨らんだ「そこ」を優しく、しかし確実な力加減で握り込んだ。指先で先端を弄りながら、彼女の唇が指の太ももの内側をそっとなぞる。

「あ、あ……瀬戸さん……もう、俺……」

「まだ始まったばかりよ。シロを助けてくれた、本当のお礼……たっぷりしてあげるから」

彼女は視線を上げた。濡れて束になった前髪の隙間から、欲情と慈しみが混ざり合った瞳が指を射抜く。

そのまま、彼女はゆっくりと唇を開き、熱を帯びた「それ」の最先端を、熱い口内へと招き入れた。

「――っ!!?」

指の背中に、雷が落ちたような衝撃が走る。
狭い浴室、降り注ぐシャワーの音、そして目の前で自分の「男」を慈しむ絶世の美女。
十七歳の童貞は、その圧倒的な快楽の濁流に、ただただ翻弄されるしかなかった。

シャワーの激しい音さえ、耳の奥で遠のいていく。指(ゆび)の意識は、ただ一点、彼女の熱い口内に完全に支配されていた。

「ん……っ、んん……」

麗奈さんの喉が小さく鳴り、彼女の舌が「それ」の形をなぞるように、執拗に、そして慈しむように絡みつく。口腔内の粘膜の熱さは、お風呂の温度よりもずっと高く、指の腰は抗いようのない快楽にガクガクと震え出した。

「せ、瀬戸さん……っ! もう、無理……出ちゃう、出ちゃいます……!」

必死で訴えるが、彼女は離れるどころか、さらに深く、喉の奥まで指の「男」を迎え入れた。上気した彼女の瞳が、下から指を見上げる。その瞳には「全部出していいのよ」という、抗いがたい抱擁のような色が浮かんでいた。

指の手が、無意識に彼女の柔らかな肩を掴む。爪が食い込むほどの力が入った瞬間、脳内の回路が真っ白な光に焼き切られた。

「あ……ああああっ!!」

指の全身が弓なりに弾け、十七年分の溜まった熱が、濁流となって彼女の中に解き放たれる。ドクンドクンと脈打つたびに、視界がチカチカと明滅し、指はそのまま崩れ落ちるように彼女の肩に額を預けた。

……静まり返った浴室。

シャワーの音だけが虚しく響く中、麗奈さんはゆっくりと顔を上げると、口元を指先で拭い、満足そうに微笑んだ。

「……ふふ。お疲れ様、指くん。すっごく、熱かったわよ」

彼女は、呆然自失としている指の頬をそっと撫でた。

「さあ、よく温まって。……続きは、ベッドでゆっくり教えてあげるから」

十七歳の夏。迷子の子犬を拾ったはずの指は、いつの間にか自分自身が、美しすぎる「飼い主」の迷宮へと迷い込んでいた。

お風呂から上がった指(ゆび)の体は、まだ芯のほうがじわじわと熱かった。

借りた大きめのTシャツからは、麗奈さんと同じ、あの甘い柔軟剤の香りがする。リビングに戻ると、キッチンからは香ばしい醤油とバターの香りが漂っていた。

「あ、指くん、お疲れ様。すっきりした?」

カウンター越しに振り返った麗奈さんは、エプロンを締めていた。お風呂上がりの少し乱れた髪が、家庭的な姿と相まって、先ほどまでの「情熱的な彼女」とはまた違う、破壊的な魅力を放っている。

テーブルに並べられたのは、食欲をそそる厚切りのポークソテーに、山盛りのサラダ、そして炊き立ての白米。

「本当はもっと凝ったものにしたかったんだけど……お腹、ペコペコでしょ?」

「……はい。めちゃくちゃ旨そうです」

指が椅子に座ると、足元で「クゥ」と甘えた声がした。ケージから出してもらったシロが、指の足首に鼻先をこすりつけている。

「シロも、指くんにお礼が言いたいみたいね。……さあ、食べましょう」

二人で向き合って食べる夕食。
指は夢中で箸を動かした。極限まで昂ぶった後の食事は、驚くほど体に染み渡る。

「指くん……さっき、あんなにすごかったのに、食べてる姿はやっぱり高校生ね。なんだか、見てると安心しちゃう」

麗奈さんは自分の分にはほとんど手をつけず、頬杖をついて指の食べっぷりを眺めている。その瞳は、先ほど浴室で見せた熱をまだ微かに孕んでいて、時折指と視線が合うたびに、彼女は意味深に口角を上げた。

「……あの、瀬戸さん。さっきの、その……」

「『お礼』のこと? ……ふふ、あれはまだ『前菜』よ」

彼女はグラスのワインを一口含み、潤んだ唇で微笑んだ。

「しっかり食べて、体力つけておいてね? 夜は、これからなんだから」

窓の外は、もうすっかり夜の闇に包まれている。
指の心臓は、再びギアを上げるようにドクドクと鼓動を速め始めた。

「あ、俺も手伝います」

指(ゆび)は空になった皿を重ねて立ち上がった。欲望のままに食べ尽くした後の、少しだけ気恥ずかしい沈黙を埋めたかった。

「いいのに。君は今日、うちのシロを助けてくれた大切なお客様なんだから」

麗奈さんはそう言ったが、指が頑なにシンクへ皿を運ぶのを見て、「じゃあ、甘えちゃおうかな」と隣に並んだ。

狭いキッチン。
二人の肩が触れ合うか触れ合わないかの距離で、指がスポンジを動かし、麗奈さんがそれを水で流していく。

「指くん、家でも手伝いしてるの? 手際がいいね」

「……母さんに仕込まれただけっす。ブラブラしてるくらいなら動けって」

「ふふ、素敵なお母様ね」

麗奈さんが洗った皿を受け取るとき、濡れた指先が何度も重なった。先ほどまでの熱い記憶がフラッシュバックして、指の手元が少し狂う。

「……っ」

「どうしたの? 緊張してる?」

麗奈さんは蛇口を止めると、濡れた手のまま指の腕をそっと掴んだ。彼女の体温は、お風呂上がりのせいか、それとも別の理由か、さらに高まっているように感じる。

「あ、いや……なんでもないです」

「嘘。指くん、さっきから私のこと見ないようにしてるでしょ。……お皿、もういいよ。あとは私がやっておくから」

彼女は指の手からスポンジを取り上げると、そのまま彼を壁の方へと、ゆっくりと追い詰めるように一歩踏み出した。

「お腹いっぱいになった? ……それとも、まだ何かが足りない?」

キッチンの照明の下、彼女の瞳には夜の深淵のような熱が宿っていた。

「ちょっと シロと遊んでて お風呂入ってくる。」

「あ……はい。わかりました」

指(ゆび)は少し拍子抜けしたような、それでいてどこかホッとしたような気持ちで頷いた。

麗奈さんは「すぐ戻るから、待っててね」と微笑み、薄手の着替えを持って再び浴室へと向かった。廊下からパタンとドアが閉まる音が聞こえ、続いて微かにお湯の流れる音がリビングまで届いてくる。

「……ふぅ」

一人残された指は、ソファに深く腰を下ろした。さっきまでの出来事が、まるで真夏の夜の白昼夢のように感じられる。でも、手のひらに残る皿洗いの水の冷たさと、鼻をくすぐる彼女の香りが、それが現実であることを静かに主張していた。

「クゥ……」

足元で、シロが指の膝に前足をかけてきた。丸い瞳でじっと指を見つめている。

「お前……いい飼い主さんでよかったな」

指はシロを抱き上げ、自分の膝に乗せた。もふもふとした柔らかな毛並みに指を沈めると、子犬のドクドクという小さな鼓動が伝わってくる。

「俺、何やってんだろうな。迷子の犬を交番に届けただけなのに、なんで今、こんな綺麗な人の家で飯食って、お礼なんて……」

シロは指の言葉に答える代わりに、ペロリと彼の指先を舐めた。その小さな舌の温かさに、指の強張っていた肩の力が少しだけ抜けていく。

おもちゃのロープを投げてやると、シロは短い足を必死に動かして追いかけ、それを誇らしげにくわえて戻ってきた。十七歳の少年と一匹の子犬。嵐の前の静けさのような、穏やかで無邪気な時間が流れる。

しかし、浴室から聞こえる水音が止まった瞬間、指の体は再びビクンと強張った。

カチャリ、とドアが開く音がする。

「お待たせ。指くん、シロと仲良くしてくれた?」

廊下の暗がりに、湯上がりの火照った肌を露わにした麗奈さんが立っていた。

麗奈さんは、さっきまでの部屋着ではなく、薄いシルクのガウンを羽織っただけの姿で現れた。濡れた髪をタオルで拭きながら、彼女は吸い寄せられるように指(ゆび)の隣へと腰を下ろした。

ソファが沈み、彼女の太ももの熱が指の足にぴたりと密着する。

「ふふ、シロ、すっかり指くんに懐いちゃったね」

彼女は指の膝の上で丸くなっているシロの頭を、指の手の上から重ねるようにして撫でた。彼女の手のひらの柔らかさと、お風呂上がり特有の、石鹸の香りをより濃厚にしたような甘い匂いが鼻腔を突き抜ける。

「……あの、瀬戸さん。髪、まだ濡れてますよ」

「本当だわ。……ねえ、拭いてくれる?」

彼女は指にタオルを預けると、くるりと背中を向けた。
指は戸惑いながらも、その白く細い首筋にかかる濡れた髪にタオルを当てる。

「指くんの手……さっきより、もっと熱くなってる気がする」

麗奈さんは首を少し傾け、肩越しに指を見上げた。
潤んだ瞳と、少しだけ開かれた唇。その距離は、指が少し顔を近づければ触れてしまうほどに近い。

「指くん……私、シロがいなくなって本当に怖かったの。この子がいない世界なんて、想像もできなくて……」

彼女の声が、少しだけ震えた。指はタオルを動かす手を止め、彼女の細い背中を見つめた。

「だから……この子を連れてきてくれた君が、天使か何かに見えたのよ」

彼女はゆっくりと体を翻し、今度は指と正面から向き合った。彼女の手が指の頬に添えられ、親指で彼の唇をなぞる。

「……ねえ。今日は、帰したくないな」

静かなリビングに、時計の針の音だけが響く。指は、自分の心臓の音がシロの鼓動よりもずっと激しく、騒がしく打ち鳴らされているのを感じていた。

指(ゆび)は、もう限界だった。頭で考えるよりも先に、身体が突き動かされるようにして腕を伸ばした。

「……っ」

細い肩を、壊れ物を扱うように、けれど力強く引き寄せる。腕の中に収まった麗奈さんの身体は、驚くほど柔らかく、そして指の想像を絶するほど熱かった。

シルクのガウン越しに伝わる彼女の肌の質感に、指の指先が震える。十七歳の彼にとって、女性を、しかもこれほどまでに美しい大人の女性を正面から抱きしめるなんてことは、教科書にも進路希望調査票にも載っていない未知の体験だった。

「指くん……」

麗奈さんは拒むどころか、その細い腕を指の首筋に回し、自分からも身体を預けてきた。彼女の豊かな胸の感触が、指の胸板にダイレクトに押し付けられる。

「心臓、すごい音。……私に聞こえるくらい、激しく鳴ってる」

彼女は指の胸元に顔を埋め、くぐもった声で囁いた。その吐息がシャツを通り越して肌を焼き、指の理性を一気に溶かしていく。

「……瀬戸さん……。俺、もう、どうなっても知りませんよ」

「いいよ。どうにでもして……」

彼女が顔を上げると、二人の視線が火花を散らすように絡み合った。もう、言葉はいらなかった。指は吸い寄せられるように顔を近づけ、震える唇を彼女の熱い唇に重ねた。

重なり合った瞬間、先ほどまでの穏やかな空気は一変し、激しい情熱の渦へと飲み込まれていく。

「……ねえ、指くん。ここはシロが見てるから……ベッドに行こう?」

麗奈さんは潤んだ瞳でそう囁くと、指(ゆび)の耳たぶを甘く食むように噛んだ。耳元に吹きかけられた熱い吐息に、指は全身を貫くような衝撃を感じ、膝の力が抜けそうになる。

彼女は指の手を握り、ゆっくりとソファから立ち上がった。その拍子にシルクのガウンが少しだけはだけ、指は思わず息を呑む。

「シロ、おやすみ。いい子にしててね」

彼女は足元で不思議そうに首を傾げる子犬に優しく言い聞かせると、指を誘うように廊下へと導いた。暗い廊下を歩く間も、握られた彼女の手のひらは驚くほど熱く、指の緊張をさらに煽る。

寝室のドアが開くと、そこには月明かりがうっすらと差し込む、落ち着いた空間が広がっていた。大きなベッドが、まるですべてを飲み込む深淵のように指を待っている。

「さあ……こっちへ」

麗奈さんはベッドの端に腰掛け、自分を迎え入れるように両手を広げた。ガウンの隙間から覗く白い素肌が、闇の中で発光しているかのように美しい。

「指くん、初めてなんでしょ? 私に……全部、委ねて?」

彼女の優しい、けれど抗いがたい誘い文句に、指は覚悟を決めた。十七歳の夏、迷子の子犬が引き合わせた奇跡のような夜。指は震える足で一歩、その甘美な誘惑の中へと踏み出した。

月の光が窓から差し込み、白銀のカーテンが夜風にそっと揺れている。

指(ゆび)は、麗奈さんに促されるまま、吸い込まれるように彼女の隣へ体を沈めた。シーツの冷たさが一瞬肌を刺したが、すぐに彼女の圧倒的な熱量に上書きされる。

「そんなに怖がらなくていいのよ」

彼女は指の上に覆いかぶさるようにして、彼の胸元に指先を走らせた。Tシャツの裾から滑り込んできた彼女の手は、まるで生き物のように滑らかに指の肌を這い、十七歳の硬く引き締まった腹筋をなぞり、さらに上へと昇っていく。

「っ……あ……」

指が声を漏らすと、麗奈さんは優しく唇を塞いだ。今度のキスは、先ほどよりもずっと深く、情熱的だった。彼女の舌が指の口内を探索し、支配し、溶かしていく。

彼女はそのまま、指のシャツをゆっくりと脱がせた。露わになった彼の肩に、彼女は何度も熱い口づけを落とす。

「指くん、すごく綺麗な体……」

麗奈さんのガウンが、音もなく床に落ちた。月光に照らし出された彼女の裸身は、この世のものとは思えないほど神々しく、指の目は釘付けになった。柔らかな曲線、弾力のある膨らみ、そして、熱を帯びた秘密の場所。

彼女は指を自分の方へと引き寄せ、優しく、けれど確実に彼をリードした。

「ここ、触れてみて……?」

指の震える手が、彼女の柔らかな肌に吸い込まれる。その感触、その熱、その匂い。すべてが指にとっての「初めて」であり、世界がひっくり返るような衝撃だった。

彼女の導きに従い、二人の体はゆっくりと、一つの生き物のように重なり合っていく。

「指くん……あ、あぁ……っ」

彼女の甘い呻き声が耳元で弾ける。指は、自分の内側から突き上げてくる激しい衝動と、彼女が与えてくれる極上の快感に身を任せ、夢中で腰を動かした。

狭い浴室での「お礼」とは比べものにならない、深くて、濃密で、熱い結合。指は、自分が自分ではなくなっていくような感覚の中で、ただひたすらに、目の前の美しい女性を抱きしめ続けた。

月の光を背負った麗奈さんの身体が、波打つように指(ゆび)の上で揺れている。

「指くん、すごい……っ、そんなに……奥まで……あぁっ!」

彼女の甘い悲鳴が、静まり返った寝室に木霊する。指は、自分の内側で暴れ狂う本能を制御することができなかった。彼女の柔らかな腰を掴む指先に力がこもり、爪が白く浮き上がる。

結合部から伝わってくるのは、粘膜が絡み合う熱い音と、火傷しそうなほどの密度。彼女の身体が小刻みに震え、内側の壁が指の「男」を絞り上げるように、執拗に脈打った。

「っ……瀬戸、さん! 俺、もう……っ!」

「いいよ、指くん……全部、私の中に、出して……っ!」

麗奈さんは指の首に強くしがみつき、彼の耳元で激しく喘いだ。彼女の身体が大きく反り返り、極限まで引き絞られた弦のように緊張する。

その瞬間、指の脳内で何かが音を立てて弾け飛んだ。

「――っ、あああああぁぁぁっ!!」

視界が真っ白な閃光に包まれる。
十七年間、行き場を失っていた熱い情動が、ダムが決壊したかのような勢いで麗奈さんの深奥へと解き放たれた。ドクンドクンと波打つ衝撃が、背筋を駆け抜け、指の意識をどこか遠くへ連れ去っていく。

「んぅ……っ、あぁ……」

麗奈さんも同時に、深い絶頂の淵へと沈んでいった。彼女の身体が指の上に力なく崩れ落ち、二人の重なり合った肌の間に、汗と、そして混じり合った二人の証が熱く伝わっていく。

時計の針の音だけが、やけに大きく聞こえる。
激しく上下する二人の胸の鼓動が、ゆっくりと同調していく。

指は、腕の中に残る麗奈さんの重みと、鼻をくすぐる彼女の髪の香りを感じながら、自分がたった今、後戻りできない一線を越えたことを確信していた。

十七歳の夏。路地裏で拾った「落とし物」は、彼から「童貞」という名の過去を奪い、代わりに狂おしいほど甘い「現実」を与えたのだった。

カーテンの隙間から差し込む朝の光が、まぶたをチクチクと刺激した。

指(ゆび)が目を覚ますと、そこは自分の部屋ではない、見覚えのない天井だった。一瞬の混乱の後、昨夜の出来事が奔流のように脳裏に蘇る。浴室での衝撃、キッチンの匂い、そしてこのベッドで重なり合った、熱く、甘美な記憶。

「……うわっ」

思わず声が漏れた。隣を見ると、麗奈さんはまだ深い眠りの中にいた。シーツから覗く白い肩、乱れた髪。昨夜、あんなにも大胆に自分を求めていた女性が、今は無防備に寝息を立てている。

その神々しささえ感じる姿に、指は自分の裸の体が急に恥ずかしくなり、そっとシーツを胸まで引き上げた。

(俺……本当に、しちゃったんだな……)

昨夜の自分は、まるで自分じゃないみたいだった。必死で、がっついて。そんな姿を思い返すと、顔から火が出るほど熱くなる。

その時、ベッドの端で丸まっていたシロが「ワン!」と短く吠えた。

「――っ! 静かにしろ、シロ!」

慌ててシロを抱き寄せようとしたが、その声で麗奈さんのまつげが震え、ゆっくりと瞳が開いた。

「……ん、おはよう。指くん……」

寝起きの掠れた声が、あまりにも艶っぽくて、指は呼吸を止めた。麗奈さんは少しだけ体を起こすと、シーツがずり落ちるのも構わずに、隣で固まっている指を覗き込んだ。

「あ、おはよう……ございます」

「ふふ、何そんなに緊張してるの? 昨夜は、あんなにすごかったのに」

「それは……その……」

昨夜の「男」の顔はどこへやら、指は赤面して視線を泳がせる。そんな彼がたまらなく愛おしいというように、麗奈さんは彼の頬にそっとキスをした。

「指くんのおかげで、最高の朝だわ」

そう言って彼女が再び腕を回してくると、指の体は朝の生理的な現象も手伝って、再び素直すぎる反応を見せてしまう。

「……あら、指くん。また、お礼が必要かしら?」

悪戯っぽく微笑む彼女の瞳に見つめられ、指は「もう、どうにでもなれ」と、今度は自分から彼女の柔らかな体へと手を伸ばした。

十七歳の夏休みは、まだ始まったばかりだった。


                  完


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