『「55」不器用な指に、三つの愛を』
2026/01/18(日)
三月の終わり、湿った春の風が吹き抜ける地方都市。指(ゆび)は、色あせたアパートの「二〇一号室」の鍵を開けた。
「指(ゆび)っていうのか。変わった名前だな」
不動産屋の男にそう言われたのは一時間前のことだ。十八年間、この奇妙な名前のせいで、指先一本で世界に触れるのを躊躇うような内向的な性格になってしまった。大学進学を機に始めた一人暮らし。期待よりも、古い畳の匂いと、一人で生きていくことへの重圧が胸を締め付ける。
段ボールを一つ運び入れた時、その「違和感」は現れた。
カーテンのない窓際、逆光の中に、ふわりと白いワンピースの裾が揺れたのだ。空き家のはずの部屋に、先客がいた。
「……あ。やっと来た。ねえ、君が新しい住人?」
鈴を転がすような声に心臓が跳ね上がる。そこにいたのは、自分とさほど歳の変わらなそうな、透き通るような肌をした少女だった。あまりの美しさに息を呑むが、次の瞬間、指は自分の目を疑った。彼女の背後の壁が、彼女の体を透過してはっきりと見えていたからだ。
「幽霊……?」
声が震える。逃げ出そうとした指の足が、入り口に置いていた段ボールに引っかかった。無様に前のめりに倒れ込む。床に叩きつけられると思った瞬間、驚くほど柔らかく、そして温かい感触が全身を包んだ。
「おっと。危ないよ、指くん」
彼女が、倒れ込んできた指を正面から抱きとめていた。
おかしい。幽霊なら、体はすり抜けるはずだ。だというのに、指の頬には彼女の鎖骨の感触があり、鼻先には春の陽だまりのような甘い匂いが漂ってくる。腕の中に感じるその体温は、生身の人間よりもずっと鮮烈で、指先を痺れさせる。
「え、あ、ちょっ……!」
十八年間、女性の体にまともに触れたことのない指にとって、それはあまりに刺激が強すぎた。密着した胸の柔らかさ。細い腰のライン。パニックになった指が彼女を突き飛ばそうと手を伸ばすと、その手は虚空を掴んだ。
「あはは、ごめん。私が『触れたい』って思わないと、すり抜けちゃうんだよね」
彼女は悪戯っぽく笑い、今度は指の頬にそっと指先を添えた。その瞬間だけ、彼女の指は冷たい空気ではなく、確かな熱を持った皮膚として指の感覚を支配する。世界で自分だけが、この死者に「触れられている」。その異常な特別感に、指の顔は一気に赤くなった。
そんな時、廊下にカツカツと小気味よい靴音が響き、不意に玄関の扉が開いた。
「指くん! 大丈夫? 鍵開いてたから入っちゃったわよ」
現れたのは、義母の真希だった。三十歳になったばかりの彼女は、タイトなデニムに薄手のニットを合わせ、若々しい快活さを振りまいている。指の父と再婚してまだ数年。一回りしか歳の違わない「母親」の登場に、指は慌てて幽霊の少女から飛び退いた。
「ま、真希さん!? なんでここに」
「心配で決まってるじゃない。一人でちゃんと荷解きできてるかと思って。……あら、どうかしたの? 部屋の真ん中で真っ赤になって」
真希はクスクス笑いながら、指のすぐ隣まで歩み寄る。そして、彼女の体は、そこに立っているはずの幽霊の少女を、何事もないかのように通り過ぎた。
「……見えて、ないの?」
「何が?」
真希は不思議そうに首をかしげ、指の乱れた襟元を整えるために手を伸ばす。至近距離で漂う、真希の大人びた香水の匂い。一方で、その真希の背後では、幽霊の少女が「お母さん、綺麗な人だね」と囁きながら、指の耳元に唇を寄せている。
見えないはずの幽霊の、生々しい吐息。 見えているはずの義母の、触れてはいけない体温。
指の一人暮らしは、平穏とは程遠い、あまりにももどかしい温度の中で幕を開けた。
「はい、これ。お父さんから預かってきた、指くんの好物のハンバーグ。温かいうちに食べちゃって」
真希は手際よくタッパーの蓋を開け、小さな折り畳みテーブルの上に並べていく。狭いワンルームに、肉汁とソースの芳醇な香りが広がった。指は「ありがとう」と短く返し、パイプ椅子に腰を下ろす。
しかし、その目の前には、椅子もないのにテーブルの端に腰掛け、細い足をぶらつかせているサキがいた。
「おいしそー! ねね、私にも一口ちょうだいよ、指くん」
サキは真希には見えないことをいいことに、身を乗り出して指の顔を覗き込んでくる。彼女の透き通った長い髪が、指の頬をかすめた。その瞬間だけ、羽毛で撫でられたような実体のある感触が走り、指は思わず身を固くする。
「……指くん? 箸が止まってるわよ。やっぱり、一人だと食欲出ない?」
真希が心配そうに身を乗り出した。彼女の胸元がニットの隙間からわずかに覗き、指は慌てて視線をハンバーグに落とす。
「い、いや、そんなことないです。いただきます」
震える手で箸を割り、ハンバーグを口に運ぶ。その時だった。テーブルの下で、何かが指の膝に触れた。
(え……?)
それは、真希の足ではなかった。サキが、自分の足を指の太ももの間に滑り込ませ、悪戯っぽく爪先でツンツンと突ついてきたのだ。指にしか触れることのできない、冷たくて、けれど柔らかな肌の感触。
「んっ……!?」
変な声が出そうになり、指は口に含んだ米を吹き出しそうになる。
「ちょっと、大丈夫!? 落ち着いて食べなさいよ」
真希が笑いながら、ハンカチを取り出して指の口元を拭こうとする。母親としての献身的な仕草。だが、その背後では、サキが指の耳元に唇を寄せ、「真希さんにバレないように、私と遊ぼうよ」と熱い吐息を吹きかけていた。
視界に入るのは、一生懸命に世話を焼いてくれる、血の繋がらない若き母の姿。 肌に感じるのは、この世のものではないはずの、情熱的な少女の愛撫。
「あ、あの、真希さん、もう大丈夫ですから! 自分で拭きます!」
指は慌てて真希の手を制したが、その拍子に彼女の手を強く握ってしまう。真希の、少し冷えていて、けれど確かな弾力のある生身の「手」。
「……指くん?」
真希が少し驚いたように目を見開いた。一回りしか歳の違わない彼女の、女性としての柔らかな眼差しが指を射抜く。
その瞬間、指の反対側の手——テーブルの下に隠していた左手を、サキがぎゅっと恋人繋ぎで握りしめた。サキの感触は、真希の手よりもずっと熱く、激しく指の神経を逆なでする。
「……あ、あはは。おいしいです。このハンバーグ」
指は、二人の女性の異なる「体温」に挟まれ、味が全く分からないまま、必死で箸を動かし続けた。額からは、冷や汗とも脂汗ともつかない液体がじわりと滲み出していた。
真希さんが帰った後の部屋は、急に静まり返り、少し前までそこにあった彼女の匂いだけが、微かな残響のように漂っていた。
指は、備え付けのクローゼットに押し込んだ布団を引き出し、フローリングの上に敷いた。慣れない引っ越し作業と、二人の女性に翻弄された精神的な疲労。体は鉛のように重いはずなのに、目を閉じても脳裏に焼き付いた光景が離れない。
(真希さん……あんなに近かったんだ……)
ニット越しに感じた柔らかな体のライン、首筋から漂った落ち着いた香水の匂い。そして、偶然触れてしまった手のひらの、吸い付くような肌の質感。一回りしか違わない「母」という存在への背徳感が、十八歳の未熟な下半身に容赦なく熱を集めていく。
「はぁ……っ……」
指は、自分の名前にふさわしい不器用な指先で、ズボンの上から硬くなった熱を握りしめた。一度意識してしまうと、もう止まらない。彼は、真希さんのあの笑顔や、屈み込んだ時に見えた肌の白さを必死に思い出しながら、行為に没頭しようとした。
その時だ。
「……ねえ。誰のこと思い出して、そんなことしてるの?」
ひんやりとした声が、すぐ耳元で響いた。
「っ、うわあああ!」
指は布団から飛び起きようとしたが、それよりも早く、冷たくて柔らかい重みが彼の上にのしかかった。サキだ。彼女は指の胸の上に跨り、暗闇の中で瞳だけを怪しく光らせている。
「な、なんだよ……寝てたんじゃないのかよ」
「幽霊が寝るわけないじゃん。……指くん、ひどいね。私というものがありながら、お母さんのこと考えてエッチなことしてたでしょ?」
サキの指先が、指が握っていた場所の上から、そっと自分の手を重ねてきた。
「ひっ……!」
その瞬間、頭が真っ白になるような衝撃が走った。自分の指と、彼女の透き通るような指が重なる。サキが「実体」として触れてくる時の温度は、真希さんのそれよりもずっと熱く、まるで魂を直接焼き焦がすような感覚だった。
「だめだよ。この部屋にいる間は、指くんの指は、私だけのものなんだから」
サキはそう囁くと、指の右手を自分の胸元へと導いた。薄いワンピース越しに、彼女の心臓の鼓動が指先にダイレクトに伝わってくる。ドク、ドク、と、死者のはずの彼女が、誰よりも激しく生きていることを主張している。
「……っ、サキ……」
「いいよ、指くん。目、閉じて。私が、真希さんよりもずっと気持ちいいこと、教えてあげる」
指は、自分の指先が彼女の柔らかな膨らみに沈み込んでいく感触に、抗うことができなかった。真希さんへの罪悪感と、目の前の「触れてはいけない」少女への渇望。
春の嵐のような動悸の中で、指の十八歳の夜は、深い深い混沌へと沈んでいった。
思考のスイッチが、音を立てて完全に切れた。
もう、幽霊だとか義母だとか、倫理だとか理屈だとか、そんなものはどうでもよかった。指(ゆび)の指先は、今や彼自身の獣じみた本能を解き放つための道具と化していた。
サキが跨り、彼女の「実体」が重なり合っているというこの異常な状況。指はそれを、贅沢すぎる妄想の燃料へと変換する。
(……これ、は……真希さん、なんだ……っ!)
ぎゅっと目を閉じれば、暗闇の中に真希さんの優しい、けれどどこか扇情的な笑顔が浮かぶ。 今、自分の上に乗っているこの重みは、あの昼間に見たタイトなニットの下にある、真希さんの豊かな肉体なのだと自分を騙し込んだ。サキが動くたびに伝わる柔らかな感触を、すべて「真希さんに愛撫されている」という幻覚に塗りつぶしていく。
「あ……まき、さん……っ」
禁断の名前が、熱い吐息とともに指の唇からこぼれ落ちた。
それを聞いたサキの体が、一瞬だけピクリと硬くなったのを指は気づかない。サキは悲しげな、それでいてどこか冷酷な笑みを浮かべ、さらに強く指の腰を自身の霊体で抑え込んだ。
「いいよ。誰だと思ってても……今、指くんに触れてるのは、私だけなんだから」
サキの指が、指の自慰を補助するように、外側から彼の手を包み込んで力強くしごき上げる。 指先から伝わる、自分の皮肉なまでの手先の器用さと、サキの「ありえないほどリアルな」肌の摩擦。その相乗効果は、童貞の彼が耐えられる限界をとうに超えていた。
真希さんの香水の匂いを思い出しながら、サキの冷たくて甘い吐息を吸い込む。 脳内では義母に抱かれ、現実では幽霊に抱かれている。
「はっ……、ぁ……っ!!」
視界の裏側で火花が散った。 指の指先が、シーツをむしり取るほど強く握り込まれる。 噴き出した熱い塊は、サキの透き通るようなお腹を汚し、同時に指の意識を真っ白な奈落へと突き落とした。
静寂が戻った部屋で、指は激しい動悸とともに、自分の指に残る「触れてはいけない二人の女」の残像に震えていた。サキは、指の胸元に顔を埋めたまま、満足げに、そして消え入りそうなほど小さく笑った。
ドクドクと波打っていた鼓動が、潮が引くように静まっていく。それと同時に、脳内を埋め尽くしていた真希さんの幻影も、霧のように消えてなくなった。
あとに残ったのは、安っぽいビニール畳の匂いと、暗闇の中で自分一人が横たわっているという冷徹な事実。そして、十八歳の春、地方の安アパートで何を血迷ったか、死んだ女を抱きながら、義母の名を呼んで果てたという、救いようのない絶望感だった。
(……俺、何やってんだ)
指は、天井を見上げたまま動けなかった。 賢者タイムというにはあまりに重すぎる、泥のような罪悪感が全身にまとわりつく。真希さんの献身的な優しさを、こんな卑猥な妄想の道具に貶めてしまった自分への嫌悪感で、吐き気がした。
ふと、重みが消えていることに気づく。
「……満足した?」
サキの声は、先ほどまでの熱を失い、どこか遠い場所から響いているようだった。彼女は少し離れたところで膝を抱えて座り、自分の腹部に飛散した、白く濁った精液の塊をじっと見つめている。
幽霊であるはずの彼女の肌に、それははっきりと付着していた。指が放出した「生(せい)」の証が、彼女の「死」を侵食しているかのような、悍ましくも美しい光景。
「……わりぃ。拭くよ」
指は、絞り出すような声で言った。 情けなくて、惨めで、けれど放置することもできない。彼は枕元に転がっていたティッシュの箱を引き寄せると、数枚を重ねて、おぼつかない手つきで彼女の体に触れた。
指先から伝わるサキの肌は、今はもう、氷のように冷たくなっていた。
「……っ」
ティッシュ越しでも、その感触は生々しい。指は自分の名が示す通り、その「指」を使って、彼女の平らな腹部から自分の罪の跡を丁寧に拭い取っていく。擦れるたびに、サキの肌がわずかに赤らむのが見えた。
「指くんの指、震えてるね。……そんなに、お母さんのこと思い出しちゃったのが怖いの?」
「うるさい……。黙ってろよ」
サキの言葉は鋭い棘となって、指の心臓を突き刺す。
すべてを拭き取り終えたとき、サキの体は、まるで何事もなかったかのように再び透き通り始めた。ティッシュに残った湿り気だけが、さっきまで起きていたことが現実だったと証明している。
指は丸めたティッシュをゴミ箱に投げ捨て、背を向けて布団を被った。 暗闇の中、自分の指先にはまだ、サキの冷たさと、真希さんの手のひらの柔らかさが、混ざり合ったまま残っていた。
この「最悪」で「最高」な一人暮らしの夜は、まだ始まったばかりだった。
春の陽光が容赦なく降り注ぐ翌朝、指は重い体を引きずるようにしてアパートを出た。
昨夜の醜態と、指先にこびりついたような奇妙な感触のせいで、眠りは浅かった。トイレットペーパー、洗剤、台所用品――生活感の欠片もない部屋を人間らしくするために、近くの大きなホームセンターへ向かう。
錆びついた中古の自転車に跨り、ペダルを漕ぎ出した瞬間、後ろの荷台が「ぐっ」と沈んだ。
「ちょっと、重いって」
「いいじゃん、退屈なんだもん。案内してよ、指くん」
サキだった。幽霊のくせに、彼女は真昼の太陽の下でも消えることなく、むしろ昨日より鮮明にそこにいた。白いワンピースが風にたなびき、自転車が段差を跳ねるたびに、彼女の細い腕が指の腰に回される。
「……見られてるだろ。一人で喋ってると不審者だ」
「大丈夫だって。誰も私のことなんて見てないから。ねえ、もっとスピード出して!」
サキは楽しげに笑い、指の背中にぴったりと胸を押し当ててきた。昼間の光の中で感じる彼女の体温は、昨夜の淫らな熱とは違い、どこか透き通った清涼感がある。けれど、その柔らかさだけは相変わらずで、ペダルを漕ぐ足に嫌でも力が入ってしまう。
ホームセンターに到着すると、店内は家族連れやカップルで賑わっていた。指はカートを押し、サキはその横をスキップするように付いてくる。
「ねえねえ、指くん! 見て、あのクッション、真希さんが好きそうな色じゃない?」
サキはわざとらしく、昨夜指が口にした「義母」の名前を出してくる。
「……やめろよ」
「あはは、怒った? ほら、これとかも。あ、待って」
人混みを縫うように歩いていた時、指が洗剤の棚の前で足を止めた。狭い通路で、向こうから大きなカートを押した主婦がやってくる。指は避けようとして横に動いたが、そこにはサキがいた。
「わっ……」
「きゃっ」
避ける場所がなく、指の体はサキを壁際に押し付けるような形になった。幽霊相手ならすり抜ければいいはずなのに、サキが「実体化」のスイッチを入れたせいで、指の全身に彼女の柔らかな肉体の感触がのしかかる。
「……っ」
目の前には、サキの白い首筋と、少し乱れた髪。彼女の胸が指の胸板に押し潰され、狭い通路で二人だけの密室のような熱が生まれる。カートを押した主婦が「あら、ごめんなさいね」と、誰もいない空間(サキのいる場所)を怪訝そうに見ながら通り過ぎていった。
「……わざとだろ、これ」
指が耳元で低く呟くと、サキは顔を上向かせ、長いまつ毛を揺らして微笑んだ。
「どうかな。でも、指くんの『指』、また震えてるよ?」
彼女の視線の先、カートのハンドルを握る指の指先は、確かに小刻みに震えていた。昨夜、彼女を汚した感触が、昼間の明るい店舗の中で鮮烈に蘇る。
その時、指のポケットの中でスマホが震えた。画面を見ると【真希さん】の文字。
「……げっ」
「あ、お母さんだ。出ないの?」
サキが覗き込む中、指はおそるおそる通話ボタンを押した。
『もしもし、指くん? 今どこ? 買い忘れがあったから、今アパートの前に着いちゃったんだけど』
真希さんの明るい声がスピーカーから漏れる。指は、今まさに幽霊を壁に押し付けている自分と、アパートで待っている義母の間で、頭が破裂しそうなほどのパニックに陥った。
「えっ、あ、ホームセンターにいます! 鍵なら玄関のガスメーターの中にあるので、勝手に入っててください!」
指はパニックになりながら、早口でそれだけを伝えて電話を切った。
「あーあ、入れちゃっていいの? 昨夜の『名残』、まだゴミ箱に捨てたままでしょ?」
サキが隣で、意地悪そうにクスクスと笑う。指は顔面蒼白になった。そうだ、昨夜サキの体を拭いたティッシュが、まだゴミ箱の一番上に鎮座しているはずだ。三十歳の、酸いも甘いも噛み分けた真希さんなら、それを見ただけで何が起きたか察してしまうかもしれない。
「……っ、帰るぞ!」
指はトイレットペーパーと洗剤を強引にカートに放り込み、レジへ急いだ。サキは荷台に飛び乗り、「急げ急げー!」と楽しそうに指の腰を叩く。
必死に自転車を漕いでアパートに戻ると、二〇一号室のドアが開いていた。心臓が口から飛び出しそうになりながら中へ入ると、そこにはエプロン姿の真希さんが、窓を開けて換気をしてくれていた。
「おかえり、指くん。早かったわね」
真希さんは振り返り、眩しいような笑顔を見せた。掃除のために少しまくられた袖から、白くしなやかな腕が伸びている。
「あ、はい……すみません、わざわざ」
指は、真希さんの視線がゴミ箱に向かないよう、買ってきた大きな荷物で必死に死角を作った。しかし、サキがそんな指を嘲笑うように、真希さんのすぐ真後ろに立った。
サキは、真希さんのうなじに自分の顔を近づけ、クンクンと匂いを嗅ぐような仕草をする。
「ねえ、お母さんのこの匂い、指くんの好きなやつでしょ?」
サキの指が、真希さんのエプロンの紐に触れる。もちろん、真希さんにはその感触はないはずだが、指の目には「幽霊の手が、義母の体を弄んでいる」という、倒錯した光景として映り込む。
「指くん、どうかしたの? ぼーっとして。……あ、もしかして、お腹空いた?」
真希さんが一歩近づいてきた。その瞬間、サキが真希さんの背中を「ドン」と押した。
「わっ!」
バランスを崩した真希さんが、指の胸に飛び込んでくる。慌てて支えようとした指の手は、真希さんの細い腰をしっかりと抱きとめてしまった。
「……あ、ごめんなさい」
真希さんの顔が、すぐ目の前にある。昨夜の妄想の対象だった、本物の、温かい、柔らかい体温。彼女の呼吸が指の首筋にかかり、脳がまた昨夜の記憶を呼び起こそうとする。
だが、その真希さんの肩越しに、サキが冷ややかな目で指を射抜いていた。サキの手が、指の背中に回り、爪を立てるように強く握りしめる。
「お母さんに触れて、どんな気持ち? 昨夜の私とは、どっちが気持ちいい?」
サキの声が、脳内に直接響く。 腕の中にいる、守るべき、そして愛してはいけない義母。 背後にいる、自分だけにしか触れられない、嫉妬深い死者。
「あ、あの……真希さん、近いです……」
指の声は情けなく震え、彼の「指」は、真希さんの腰の曲線に吸い付いたまま、離れられなくなっていた。
「指くん、どうしたの……? 顔、真っ赤よ」
真希さんは、抱きしめられたまま驚いたように顔を上げ、指の顔を覗き込んできました。彼女の瞳には、都会での一人暮らしに戸惑う息子を心配する、純粋な「母親」としての光栄が宿っています。
けれど、至近距離で見つめ合うと、彼女の潤んだ瞳や、わずかに開いた唇が、どうしても昨日見た卑猥な幻影と重なってしまいます。腕の中に感じる真希さんの腰のくびれは、想像していたよりもずっと細く、そして生々しい。
「い、いえ……その……」
指が言葉に詰まっていると、背後からサキの冷たい指先が、指の首筋をゆっくりと這い上がってきました。
「ほら、指くん。ちゃんと言わなきゃ。お母さんの体が柔らかくて、離したくないって」
サキは指の耳元で残酷に囁きながら、同時に彼を突き動かします。サキの力が加わったのか、あるいは指自身の抑えきれない本能か、指の指先は無意識に真希さんの腰をぐっと引き寄せてしまいました。
「あら……っ」
真希さんの小さな体から、かすかな吐息が漏れます。
「指くん、あなた……。そんなに寂しかったの?」
真希さんは、指のこの異常な執着を「一人暮らしの不安」だと解釈したようでした。彼女は困ったように微笑むと、指の背中に優しく腕を回し、ポンポンとあやすように叩きました。
「大丈夫よ。お母さんはどこにも行かないから。ね?」
その優しさが、今の指には一番の毒でした。 真希さんの胸の柔らかな弾力が、指の胸板に押し付けられます。それはサキの時の「冷たい熱」とは違う、血の通った、本物の、温かな鼓動。
けれど、指の視界の端では、サキが真希さんの肩越しに顔を出し、意地悪く笑いながら指のズボンのベルトに手をかけていました。
「ねえ、指くん。このままお母さんに甘えちゃえば? 私、見ててあげるから」
サキの手が、指の「指」が一番反応してしまっている場所へと伸びていきます。
「や、やめてくれ……っ」
「え? 何をやめてほしいの?」
真希さんが不思議そうに顔を離しました。その瞬間、彼女の視線がふっと、部屋の隅にあるゴミ箱へと向いたのです。
そこには、昨夜の「汚れ」を拭き取ったティッシュが、隠しきれずに散乱していました。
「あら、指くん。ゴミ箱、溢れそうじゃない。片付けてあげるわね」
真希さんが、指の腕をすり抜けてゴミ箱の方へ歩き出します。
「あ、真希さん! それは、いいんです! 自分でやりますから!」
指はパニックになりながら、彼女を止めようと手を伸ばしました。しかし、その足首を、サキの霊的な触手が冷たく絡め取り、彼をその場に縫い止めました。
「だめだよ、指くん。お母さんに、全部見てもらいなよ。君がどんな『指』の使い方をしたのかをさ」
真希さんの手が、ゴミ箱の中の「証拠」に触れようとしていました。指は絶望に目を閉じ、自分の名前を恨むように、拳を強く握りしめることしかできませんでした。
真希さんの指先が、白く丸まったティッシュの山に触れました。
「あら、鼻炎かしら? こんなにたくさん……」
そう言いながら、彼女は何気なくその一つを拾い上げました。しかし、指が止まります。ティッシュに含まれた、独特の重みと、わずかに乾ききっていない粘り気。そして、部屋の空気に混じる、あの特有の生臭い匂い。
真希さんの背中が、目に見えて強張りました。
「……指くん。これ」
振り返った真希さんの顔は、朱を差したように赤くなっていました。それは怒りというよりも、直視してはいけないものを見てしまった戸惑いと、女性としての羞恥が入り混じった表情でした。十八歳の男子が、一人暮らしの初日の夜に何をしたのか。察しのいい彼女に、分からないはずがありません。
「あ、いや……それは、その、風邪っぽくて、鼻水が……!」
指は必死に言い訳を絞り出しましたが、声は情けなく裏返りました。
「鼻水、ねえ……? 指くん、嘘つくとき、右手の指が動く癖、治ってないわよ」
真希さんは、紅潮した顔を伏せながらも、逃げようとする指を逃しませんでした。彼女の視線が、指の「動いている指先」に注がれます。その視線だけで、指は全身を裸にされたような感覚に陥りました。
その時、指の背後に回っていたサキが、クスクスと不気味に笑いました。
「ねえ、もっと面白いこと教えてあげようか」
サキは指の体を操るように、彼の背中を真希さんの方へ押し出します。それだけではありません。サキは指の耳元で囁きながら、彼の「指」を、真希さんの目の前で自分の股間のあたりへ誘導しようとしました。
「やめろ……サキ、やめろ……っ」
「指くん? 誰と喋ってるの……?」
真希さんの声に、明らかな困惑と恐怖が混じり始めます。彼女の目には、指が何もない空間に向かって怯え、一方で、自分(真希)に向かって卑猥な熱を帯びた視線を向け続けているように映っています。
「指くん、あなた……本当に大丈夫? ちょっと様子がおかしいわよ。もしかして、昨夜からずっと、私のこと……」
真希さんは、手に持っていたティッシュをゴミ箱に落とし、震える手で指の肩を掴みました。
「……私のこと、そんな目で見てたの?」
悲しみと、抗いようのない色気が混ざった真希さんの問いかけ。
指の視界では、サキが真希さんの首筋に腕を回し、指に向かって「ほら、お母さんが聞いてるよ? 本当のことを言っちゃいなよ」と、舌を出して笑っています。
「違っ……違うんです、真希さん、俺は……!」
否定したいのに、昨夜サキの体を通じて感じた「真希さんへの欲望」が、指先から熱となって溢れ出そうになっていました。
「指くん、落ち着きなさい。……お母さんの目を見て」
真希さんは、震える指の肩をさらに強く掴み、自分の方へと引き寄せました。彼女の顔はまだ赤く染まったままでしたが、その瞳には「母親」として一線を越えさせまいとする強い意志が宿っています。
「多感な時期なのはわかるわ。一人暮らしを始めて、不安なのも。でも……私をそんな対象にするのは、いけないことよ」
真希さんは諭すように言いながら、指の右手をそっと両手で包み込みました。 彼女の掌は温かく、しっとりと吸い付くようです。指にとって、その「教育的」な接触は、どんな愛撫よりも刺激的で、同時に残酷な罰のように感じられました。
「この指を、そんなことに使っちゃダメ。わかった?」
真希さんが指を一本ずつ包み込むように握りしめるたび、指の頭の中は真っ白になっていきます。 しかし、そんな「聖域」のような空気を、サキが嘲笑うように切り裂きました。
「あはは! お説教だって。指くん、お母さんに怒られちゃって、かわいそう」
サキは真希さんの背中にぴったりと張り付くと、真希さんの脇から腕を伸ばし、彼女が握っている指のその上から、自分の冷たい手を重ねてきました。
「ねえ、指くん。お母さん、こんなに真面目な顔して、実は指先が震えてるよ? 怒ってるんじゃなくて、怖がってる……それとも、興奮してるのかもね」
サキが真希さんの耳元で何かを吹き込むような仕草をすると、真希さんの体がビクッと跳ねました。もちろん真希さんにはサキは見えませんが、突然襲った原因不明の寒気と、指の指先から伝わる異常な熱に、防衛本能が働いたのです。
「あ……っ、指くん、離して……」
「え、真希さんが握ってるんじゃ……」
実際は、サキの霊的な力が、二人を磁石のように引き合わせていました。 指が離そうとしても、サキが二人の手を「実体化」させて接着させているため、離れるどころか、指の指先は真希さんの柔らかい掌に深く食い込んでいきます。
「っ、ダメよ、こんなの……っ」
真希さんはバランスを崩し、指の胸元に倒れ込みました。 サキの悪戯によって、二人の体はエプロン越しに激しく密着します。指は、真希さんの豊かな胸の重みを正面から受け止め、その拍子に、彼の指は真希さんの手首を通り越し、ニットの袖口の中へと滑り込んでしまいました。
「指くん、どこ触って……!」
真希さんの悲鳴に近い声。 けれど、指の指先には、サキが故意に作り出した「超感覚」が伝わってきます。真希さんの腕の、滑らかで柔らかい産毛の感触。そして、その奥にあるドクドクという激しい脈動。
「指くんの指、お母さんの服の中に入っちゃったね」
サキは指の首筋を甘噛みしながら、さらに指の右手を奥へと押し込んでいきます。 真希さんは顔を真っ赤にして、逃げようともがきますが、狭いワンルームの、ゴミ箱のすぐ横という密室で、二人の体はぐちゃぐちゃに絡まり合っていきました。
母親としての理性で指を正そうとする真希さんと、 死者の執念で二人を堕落させようとするサキ。
「あ……まき、さん……ごめんなさい、でも……っ」
指は、自分の名前にふさわしい「指先」の感触だけで、意識が遠のいていくのを感じていました。
「指くん、落ち着いて……。わかった、わかったから……っ」
真希さんの声は、もう震えを隠しきれていませんでした。母親として彼を突き放すべきだと理性は叫んでいるはずなのに、指の指先から伝わるあまりに必死で、不器用な熱に、彼女の中の何かが決壊してしまったのです。
「これで我慢してね。……これ以上は、ダメよ?」
真希さんは顔を背け、耳まで真っ赤に染めながら、おずおずと手を伸ばしました。 彼女の細い指先が、ジーンズの上から、指のパンパンに張り詰めた下半身を、円を描くようにゆっくりとさすり始めます。
「……っ!!」
指の口から、声にならない悲鳴が漏れました。 昨夜、サキを通じて感じた感覚とは違います。そこにあるのは、間違いなくこの世に存在する、生身の女性の柔らかな掌の厚み。そして、エプロン越しに漂う石鹸の香りと、真希さんの体から放たれる、生命感に満ちた熱い匂い。
「指くん、あなた……こんなに……」
真希さんの手が、布地越しに彼の形をなぞるたび、指の脳内は火花が散るような快感に支配されます。 十八年間の童貞人生で、一度も経験したことのない「他者の手による愛撫」。それが、あろうことか一回りしか違わない義母の手によるものだという背徳感が、彼の理性を粉微塵に砕いていきます。
「あはは! 見てよ指くん。お母さん、口ではダメって言いながら、すごく丁寧に動かしてる」
サキが指の耳元でケラケラと笑いました。 彼女は真希さんの背後から、真希さんの手首に自分の冷たい手を重ね、その動きをさらに大胆に、執拗に誘導していきます。
「ほら、もっと。お母さんの指先で、指くんを壊してあげてよ」
サキの霊的な力が加わったのか、真希さんの手つきは次第に、単なる「なだめ」を超えて、男を悦ばせるための深い愛撫へと変貌していきました。
真希さんの掌を伝わる熱量は、もはや布一枚を隔てて制御できるレベルを超えていました。指の荒い呼吸と、ジーンズの合わせ目を押し戻そうとする激しい脈動に、彼女自身の理性もまた、焼け落ちようとしていたのです。
「指くん、ごめんなさい……こんなこと、本当は……」
真希さんは震える手で、指のジーンズのボタンに指をかけました。 金属が弾ける小さな音が、静まり返った部屋にやけに大きく響きます。
彼女がゆっくりとジッパーを下ろすと、そこから溢れ出したのは、十八歳の指が溜め込んできた、爆発寸前の剥き出しの熱情でした。
「っ……、あ……」
真希さんは、初めて目にする「息子」の荒々しい現実に、一瞬だけ動きを止めました。しかし、サキが彼女の背後から冷たい腕を回し、真希さんの手首を優しく、けれど抗えない力で前方へと導きます。
ついに、真希さんの柔らかな、けれど少しひんやりとした掌が、指の「それ」に直接触れました。
「ひっ……!!」
指の体がいきなり跳ね上がりました。 頭が真っ白になるような衝撃。サキの「実体化」させる力が加わっているせいか、真希さんの掌のしわの一つ一つ、指の腹の柔らかな起伏、さらには彼女の指先にある小さなささくれの感触までが、まるで神経が直接繋がったかのように鮮烈に脳に流れ込んできます。
「指くん、熱い……。こんなに、硬くなって……」
真希さんはもう、指と目を合わせることができませんでした。彼女は顔を伏せ、けれどその「指」は、本能に導かれるように動き始めます。
彼女の細い五本の指が、指の熱を根元からゆっくりとしごき上げ、先端を掌のくぼみで包み込むように転がします。生身の女性の、吸い付くような肌の摩擦。時折、真希さんの長い爪がかすかに触れるたび、指は電撃が走ったように腰を震わせました。
「あ……まき、さん、直接……は、だめ、だ……っ!」
「ダメって言われても……もう、止まれないわよ」
真希さんの声は、いつの間にか湿り気を帯びた、妖艶な響きに変わっていました。彼女は自分の指先を少しだけ口に含んで湿らせると、それを指の最も敏感な場所に滑り込ませました。
「あ……あああああ……っ!!」
サキが指の首筋に顔を埋め、歓喜の声を上げます。 「見て、指くん。お母さんの指先、すごくエロい動きをしてる。君を壊そうとしてるよ」
真希さんの愛撫は、次第にリズムを早めていきました。掌全体で熱を包み込み、引き絞るようにしごき上げる。そのたびに、指は真希さんの豊かな胸に何度も顔を埋め、彼女のブラウスに鼻先を押し付けて、その匂いを狂ったように吸い込みました。
限界は、すぐにやってきました。 真希さんの掌の中で、指の「指」が、限界まで膨れ上がり、激しく波打ちます。
「まきさん! まきさん、まきさんっ!!」
「いいわよ、指くん……全部、お母さんに出して……っ」
真希さんが最後に、指の熱を掌で強く握りしめた瞬間でした。 指の背筋を、巨大な稲妻が貫きました。
「っ……!!」
激しい痙攣とともに、指の十八年間のすべてが、真希さんの掌の中へと解き放たれました。 溢れ出し、指の間からこぼれ落ちるほどの熱い塊。 真希さんは、その衝撃に驚きながらも、自分の手が白く汚れていくのを、逃げることなく、恍惚とした表情で見つめていました。
静寂。 ただ、真希さんの掌に残る熱い液体が、畳の上に滴り落ちる「ポタッ」という音だけが、部屋の隅に響いていました。
ドクドクと脈打つ鼓動だけが、静まり返った六畳間に響いていました。
真希さんの掌は、白く濁った熱い液体で濡れそぼり、彼女は自分の手と、指の剥き出しの現実を交互に見つめたまま、金縛りにあったように固まっていました。
「……あ」
真希さんが小さく声を漏らし、我に返ったように傍らにあったティッシュの箱を手に取りました。彼女は膝をついたまま、震える指先で数枚のティッシュを重ねると、指の体に付着した汚れを、壊れ物を扱うような手つきで拭い始めます。
けれど、おかしいのです。 すべてを出し切ったはずなのに、指のそこは、真希さんの指先が触れるたびに、さらに硬く、熱く、天を突くように反り上がっていきました。十八歳の若すぎる血潮と、憧れの女性に直接触れられているという狂おしい現実が、生理的な限界を無視して、彼の本能を昂ぶらせ続けていたのです。
「……指くん、これ……まだ、おさまらないのね」
真希さんの声は、先ほどまでの情欲の熱を孕んだまま、どこか途方に暮れたように微かに震えていました。彼女がティッシュで汚れを拭き取るたび、指は「ひっ」と短い呼吸を漏らし、腰を震わせます。
拭えば拭うほど、刺激が指を直撃する。 真希さんの指先が、自分の最も敏感な場所を何度もなぞる。 その不慣れで、けれど献身的な「掃除」は、指にとって拷問に近い快楽でした。
「すみません……真希さん、すみません……」
指は顔を覆い、情けなさに涙を浮かべながら謝りました。しかし、下半身は正直すぎるほどに猛り狂っています。
その時、指の背後に座っていたサキが、彼の肩に顎を乗せ、真希さんの手元を覗き込みながら、意地悪く囁きました。
「見てよ、指くん。お母さん、拭いてあげてるふりして、じっくり観察してるよ。……ねえ、真希さん。そんなにこすったら、指くん、またすぐしたくなっちゃうよ?」
サキが真希さんの手首に自分の冷たい手を添えた瞬間、真希さんの手の動きが、単なる清掃から、執拗な愛撫へと無意識にスライドしました。
「あ……っ、指くん、ごめんなさい。私、ちゃんと拭かなきゃって思ってるのに……なんだか、指が勝手に……」
真希さんの顔は、もはや湯気が立ちそうなほど赤くなっていました。彼女はティッシュを捨て、今度は素手で、指の収まらない熱を根元からぎゅっと握りしめました。
「どうしよう、指くん。……お母さん、どうしてあげたらいいの?」
潤んだ瞳で下から見つめてくる真希さんの表情は、もはや母親のそれではありませんでした。 指は、自分の名が示す通り、自分の十本の指をシーツに深く突き立て、目の前の「聖母」であり「魔女」である女性の、さらなる抱擁を渇望して止まなくなっていました。
サキは、そんな二人を冷ややかに、けれどどこか羨ましそうに見つめながら、指の耳元を優しく甘噛みしました。
真希さんは、自分の掌の中でいつまでも静まらない指の猛りを見つめ、絶望的なほどに潤んだ瞳を揺らしました。
「これじゃ……ちっとも、楽にしてあげられないわね……」
彼女の声は、もはや理性の岸辺をとうに離れ、熱を帯びた吐息となって指の肌を撫でました。真希さんは意を決したように、膝をついたまま、その顔を指の股間へとゆっくりと近づけていきました。
「真希さん……? まさか、それは、ダメです……っ!」
指が震える声で制止しようとしましたが、真希さんは顔を上げ、濡れた瞳で彼を射抜きました。
「指くん……お母さんに、全部任せて」
彼女の甘い石鹸の香りと、吐息の熱が、指の最も敏感な場所に直接降りかかります。 そして、真希さんはおずおずと、けれど吸い込まれるように、その唇を指の熱へと寄せました。
「は……っ!!」
指の背筋に、今まで経験したことのない衝撃が走りました。 真希さんの、温かくて柔らかな唇が、彼の「それ」を優しく包み込んだのです。
口腔内の圧倒的な湿度、そして舌の裏側のとろけるような粘膜の感触。それは手による愛撫とは比較にならないほど、全細胞を狂わせるような背徳的な快楽でした。
「っ、あ……ああ……真希、さん……っ!」
指は自分の頭を抱え、のけぞりました。真希さんは、不慣れながらも懸命に、指の熱を口の中で転がし、喉の奥まで迎え入れようとします。彼女が吸い上げるたびに、指の意識は肉体の檻を突き抜け、真っ白な虚空へと飛ばされていきました。
その時、サキが指の耳元で、嘲笑うように、けれど情欲を煽るように囁きました。
「ねえ、見て。お母さんの頬が、君のせいでこんなに膨らんでる。……指くんの汚いところ、お母さんが全部、綺麗にしてくれてるよ」
サキは真希さんの頭を後ろから優しく抑え込み、その動きをさらに深く、激しく、一定のリズムで強制し始めました。
「んむ……っ、ふ、ん……っ」
真希さんの鼻から漏れる、苦しげで、けれどどこか悦びに震える吐息。 彼女の細い喉が、指を飲み込もうとするたびに上下に動く。 十八歳の指にとって、それは神への冒涜であり、同時にこの世で最も甘美な救済でした。
「まきさん……もう、出る、出ちゃいます……っ!」
指は真希さんの柔らかな髪を指で掴み、自分の方へと引き寄せました。 彼女の舌が、最後の仕上げのように激しく脈動する場所を這い上がります。
「ふ……っ、んんんっ!!」
指の腰が激しく跳ねました。 真希さんの口内という、この上ない聖域の中に、指の今日二度目の、そして一度目よりもずっと濃い熱情が、音を立てて溢れ出しました。
真希さんは、その衝撃にむせ返りそうになりながらも、決して口を離しませんでした。彼女は指のすべてを、その小さな喉で受け止め、飲み下していく。
すべてが終わったあと、真希さんは口元を手の甲で拭い、涙を浮かべた瞳で指を見上げました。
「……指くん、おさまった?」
その顔には、母親としての慈愛と、一人の男を屈服させた女としての、恐ろしいほどに美しい色が混ざり合っていました。
指は、ただ呆然と、自分の名前にふさわしい不器用な指先で、彼女の濡れた唇にそっと触れることしかできませんでした。
「……うそ、でしょ?」
真希さんは口元を拭った手の甲を止めたまま、信じられないものを見るように目を見開きました。
二度も絶頂を迎え、そのすべてを彼女の喉の奥に注ぎ込んだはずでした。だというのに、指のそれは萎えるどころか、真希さんの唇が残した熱と湿り気を糧にするように、さらに赤黒く、凶暴なまでの硬さを増して反り上がっていたのです。
「指くん……あなた、どうしちゃったの……?」
真希さんの声に、明らかな恐怖と、それを上回るような戸惑いが混じります。 彼女の口腔内は、今も指の熱い余韻で満たされているはずなのに、目の前の現実はさらなる「補給」を求めて彼女を威嚇していました。
十八歳の若さゆえの暴走か、あるいは、隣で薄笑いを浮かべているサキの仕業なのか。
「あはは! すごいね指くん。お母さんに食べられちゃったのが、そんなに嬉しかったんだ?」
サキは歓喜に肩を震わせ、指の背中にのしかかりました。彼女の透き通った指先が、指の熱くなった胸板をなぞり、そのまま真希さんの顔のすぐ近くまで、指の体をぐいと押し出します。
「ねえ、お母さん。指くん、まだ足りないんだって。口だけじゃ、この『怪物』は眠ってくれないみたいだよ?」
サキの囁きが指の脳内をかき乱し、彼の理性は完全に焼き切れました。
「まき、さん……ごめんなさい。俺、おかしくなりそうで……」
指は、自分をコントロールできない恐怖に震えながらも、その手は無意識に、真希さんの細い肩を掴んでいました。真希さんのエプロンが、指の荒い鼻息で小さく揺れます。
「っ……、指、くん……」
真希さんは、自分の目の前で脈打つ、収まることを知らない「男」の象徴を前にして、逃げ出すこともできませんでした。彼女の掌は、畳についたまま、力なく指先を丸めています。
彼女もまた、気づいてしまったのです。 口で受け止めたあとの、あの痺れるような達成感と背徳感が、自分の体の奥底に眠っていた「女」を完全に目覚めさせてしまったことに。
真希さんの首筋には、じっとりと汗が滲み、ブラウスの胸元が激しい鼓動に合わせて上下しています。
「指くん……私、どうなっちゃっても、知らないわよ……?」
「指くん、待って……! もう、無理よ、そんなに出したら……っ!」
真希さんの悲鳴に近い制止の声も、今の指の耳には届きませんでした。 指(ゆび)はその名の通り、自分の指先を真希さんの細い手首に回し、逃がさないよう強く固定しました。そして、彼女の掌を無理やり自分の熱へと押し当て、激しく、執拗に動かさせました。
一回、二回と繰り返すごとに、指の意識は混濁し、快感の向こう側にある「痛み」に近い刺激へと変貌していきます。けれど、サキが背後から指の神経に直接干渉し、強制的に熱を再燃させました。
「あはは! 見てよ、お母さんの手がもう真っ白。指くん、止まらないね!」
サキの嘲笑に煽られるように、指は獣のような吐息を漏らし、真希さんを酷使しました。
三回目には真希さんの瞳から涙が溢れ、四回目には彼女の腕は疲労でガクガクと震え始めました。それでも指は許しません。真希さんの掌が、摩擦で熱を持ち、指の皮膜がヒリヒリと焼けるような感覚。その痛みが、逆に逃れられない背徳的な悦びとなって、五度目の爆発を呼び込みました。
「っ、あああああ……っ!!」
指の体が大きく仰け反り、五度目の、そして最後の一滴までを絞り出すような激痛を伴う絶頂が訪れました。
真希さんの掌は、もはや自分のものとは思えないほど汚れ、重たくなっていました。彼女は力なくその場に座り込み、肩で息をしながら、目の前の光景に呆然としていました。
「……五回……」
真希さんは掠れた声で呟きました。 一人の男を、これほどまでに徹底的に、そして無残に暴き立ててしまった自分。掌に残る、熱を失いかけた液体のぬるま湯のような感覚が、彼女の母親としてのプライドを粉々に粉砕していました。
指は、もはや指一本動かす力も残っていませんでした。 荒い呼吸の合間に、真希さんのエプロンの裾が視界に入ります。彼女は震える手で、自分の顔を覆い、小さく肩を震わせ始めました。
「私……なんてことを……」
その涙が、後悔なのか、それとも抗えない快楽への恐怖なのか、今の指には判断できませんでした。
ただ、背後でサキだけが、満足げに指の髪を撫でていました。 「お疲れ様、指くん。これで、お母さんの手は一生、君の匂いを忘れないよ」
夕暮れに近い陽光が、ゴミ箱の散乱したワンルームに、残酷なほど静かに差し込んでいました。指の一人暮らしの初日は、一人の女性の心を壊し、一人の幽霊と契約を結ぶという、取り返しのつかない形で幕を閉じようとしていました。
五度目の奔流が止まり、部屋を支配したのは、耳が痛くなるほどの静寂でした。
真希さんは、しばらくの間、自分の白く汚れた掌をじっと見つめたまま動けずにいました。その瞳からは、先ほどまでの情欲の熱がすっかり消え失せ、代わりに、取り返しのつかないことをしてしまったという虚無感が広がっていました。
彼女はおもむろに立ち上がると、よろめく足取りでキッチンへ向かい、ハンドソープを何度も何度も泡立てて手を洗いました。水の音だけが、無機質に響きます。
部屋に戻ってきた真希さんは、一言も発しませんでした。 彼女は、散乱したティッシュを、昨日指が放り出したものも含めてすべて丁寧に拾い上げ、新しいゴミ袋にまとめました。指のジーンズのボタンを留め、乱れたシーツを整える手つきは、まるで何事もなかったかのように機械的で、それがかえって指の胸を締め付けました。
「……真希さん」
指が掠れた声で呼びかけましたが、彼女は反応しませんでした。 真希さんはバッグを肩にかけると、ドアのところでようやく一度だけ立ち止まり、背中を向けたまま、消え入りそうな声で言いました。
「……あとは、自分でやりなさいね」
バタン、と乾いた音を立ててドアが閉まりました。 彼女の足音が廊下を遠ざかっていく。指は、力が入らない体で、ただ天井を見つめることしかできませんでした。
「行っちゃったね。……お母さん、泣いてたよ」
サキがいつの間にか指の横に寝転び、彼の頬を冷たい指でなぞりました。 真希さんの温もりが消えた部屋で、サキの冷たさだけが、妙に現実味を持って指の肌を刺しました。
その夜。 一睡もできずに、暗闇の中でスマホの画面を見つめていた指の元に、一通の通知が届きました。
【真希さん:今日はごめんなさい。しばらく、会うのは控えましょう。お父さんには、あなたが元気にやってるって伝えておくわ。……ご飯、ちゃんと食べるのよ。】
それは、母親としての義務感と、一人の女性としての拒絶が入り混じった、あまりにも冷たくて優しい絶縁状でした。
指は、スマホを握りしめたまま、自分の指先を見つめました。 この指は今日、最愛の義母を壊し、その代わりに、目に見えない幽霊との、逃れられない共犯関係を手に入れてしまったのです。
窓の外では、春の夜風が死者の溜息のように、ガタガタと窓枠を揺らし続けていました。
真希さんが去ったあの日から、部屋の空気はどこか澱んだまま、季節だけが機械的に進んでいった。
大学の入学式を終え、指(ゆび)の新しい生活が本格的に始まった。講義に出席し、学食で一人静かに食事を摂り、図書館で時間を潰す。周囲の学生たちが新しい友人と笑い合う中で、指だけが透明な膜に包まれているような疎外感を感じていた。
その理由は、背後にぴったりと張り付いている「彼女」の存在だ。
「ねえ、今の教授の話、全然わかんなかったね。指くん、あとで私に教えてよ」
キャンパスの中、隣を歩くサキが楽しげに囁く。もちろん、彼女の姿は他の誰にも見えない。指は不審者に思われないよう、ワイヤレスイヤホンを耳につけ、独り言を言っているふりをして短く応えるのが日課になっていた。
「……黙ってろ。今は講義の復習をしてるんだ」
「冷たいなあ。家ではあんなに私を求めてくるくせに」
サキは悪戯っぽく笑い、指の耳たぶを冷たい指先でピンとはじいた。
家での生活は、あの日を境に奇妙な均衡を保っていた。 毎夜、布団に入るとサキが潜り込んでくる。彼女は真希さんの代わりを務めるかのように、指の「指」を巧みに操り、彼を快楽の絶頂へと誘う。指もまた、真希さんへの届かぬ想いと罪悪感を、サキの冷たい肌にぶつけるようにして発散していた。
けれど、二人の関係には明確な「一線」があった。
サキは指の自慰を執拗に手伝い、時には自らの口や体を使って彼をいかせるが、決して「本番」……すなわち、結合には至らせなかった。指が我慢できずに彼女を求めようとすると、サキの体は霧のように形を失い、彼の腕をすり抜けてしまうのだ。
「だめだよ。指くんの『初めて』は、もっと特別な時のためにとっておかなきゃ」
事後の静寂の中で、サキはいつもそう言って、指の額に冷たいキスを落とす。 それは彼女なりの優しさなのか、それとも、指を自分だけの「依存」の中に閉じ込めておくための計算なのか。
大学の帰りに寄るスーパーの惣菜コーナーで、指はふと足を止めた。 棚に並ぶハンバーグのパック。それを見るたびに、真希さんの掌の熱と、あの日彼女が流した涙がフラッシュバックする。
真希さんからは、あの日以来、業務連絡のような短いLINEが数回届いただけだった。
「指くん、またお母さんのこと考えてるでしょ」
背後からサキの声が響く。彼女の透き通った瞳が、指の心の奥底を見透かすように細められた。
「……関係ないだろ」
「あるよ。君の指先は、嘘をつくのが下手なんだから」
指は逃げるように買い物カゴを手に取り、レジへと急いだ。 大学生活という「日常」と、幽霊との「異常」な夜。そして、遠ざかってしまった「禁断」の義母。
三つの温度差に引き裂かれながら、指の不器用な生活は続いていく。
大学の講義棟は、新入生たちの熱気と独特の埃っぽさに満ちていました。
その日の「心理学概論」の講義中、指は最前列から数えて三列目、少し端寄りの席に座っていました。ノートを取る彼の視線の先に、一人の女子学生の姿がありました。
斜め前に座る彼女――瀬戸さんは、まとめ上げた黒髪のうなじの白さや、少し伏せ目がちにノートを取る横顔が、驚くほど真希さんに似ていました。彼女がペンを動かすたびに揺れる控えめなピアスや、清潔感のあるブラウスの襟元を見るたび、指の心臓はあの日ホームセンターで感じたような、痛みを伴う鼓動を刻みます。
(……似てる。でも、違うんだ)
自分に言い聞かせ、必死に黒板に目を戻そうとしたその時。 指の耳元に、氷のような冷たい吐息が吹きかけられました。
「ふーん。指くん、ああいうのがタイプなんだ? お母さんにそっくりだもんね」
サキでした。彼女は実体化のレベルを絶妙に調整し、指の隣の空席に座り込んでいました。他の学生には見えない彼女の姿ですが、指にはその軽蔑を含んだような笑みが、はっきりと見えてしまいます。
「……よせよ。ただのクラスメイトだ」
「嘘。指くんの『指』、また震えてるよ」
サキは机の下で、指の膝の上に冷たい手を置きました。 そして、周囲の学生が熱心に教授の話を聞いている中、彼女の指先は迷うことなく指のジーンズの合わせ目へと伸びていきました。
「っ……!」
指の体がびくんと跳ねました。 公共の場、それも百人近い学生がいる大講義室。サキはそれを楽しむように、指の股間の熱を容赦なく刺激し始めます。
「サキ、やめろ……。誰かに見られる……っ」
「大丈夫。みんな真希さん……じゃなくて、瀬戸さんの方を見てるよ。ほら、指くんも彼女のこと見ながら、私に触られてどんな気分?」
サキの愛撫は、家でのそれよりもずっと執拗で、攻撃的でした。 ジーンズの布越しに、冷たい霊的な指先がピンポイントで急所を攻め立てます。指は顔を真っ赤にし、必死に声を押し殺して、左手で机の端を白くなるほど強く握りしめました。
視界の先では、何も知らない瀬戸さんが、真希さんと同じような仕草で耳の横の髪をかき上げています。
その清楚な姿と、机の下で行われている卑猥な行為のギャップに、指の理性が崩壊し始めます。サキは指の苦悶する顔を見て、さらに力を込めました。
「ねえ、いっちゃいそう? このままここで、みんなの前で、瀬戸さんの背中を見ながら?」
サキの手首が、一定のリズムで激しく動き始めます。 指はノートを隠れ蓑に、前のめりになって耐えようとしましたが、溢れ出す快感はすでに臨界点に達していました。
「……っ、ふ……ん、んっ……!!」
講義室に響く教授の声に紛れて、指は誰にも気づかれることなく、サキの手の中で一度目の限界を迎えました。 激しい脈動とともに、ジーンズがじわりと熱を帯びる感覚。
サキは満足げに手を離すと、濡れた指先を自分の唇に当て、指を挑発するように見つめました。
「お疲れ様。次は、あの子を真希さんの代わりにしてみる?」
その時、斜め前の瀬戸さんが、消しゴムを落としたのか不意にこちらを振り返りました。
「……あ、あの、大丈夫ですか? 顔色が、すごく赤いですけど……」
真希さんと瓜二つの声で心配そうに尋ねる瀬戸さん。指は、まだ熱を帯びたままの下半身を抱え、絶望的なパニックに陥りました。
「あ、いえ、大丈夫です。ちょっと……のぼせただけで」
指は震える声で何とか答え、瀬戸さんの直視できないほど澄んだ瞳から逃げるように視線を落としました。
講義が終わると、瀬戸さんは教科書をバッグに詰め、隣に座り直すようにして指に話しかけてきました。
「あの、もしよければ、この後の休み時間に学内のカフェで少し休みませんか? さっき、本当に辛そうだったので……。あ、私、瀬戸美咲(せと みさき)って言います」
「美咲……」
その名前に、指は背筋が凍るような感覚を覚えました。真希さんと一字違いの名前。 隣ではサキが、「あはは! 名前まで似てるなんて、運命だね指くん」と、彼の首筋をなぞりながら冷たく笑っています。
断る理由も見つからず、指は瀬戸さんに連れられるまま、キャンパス内のテラス席があるカフェへと向かいました。
「実は私、指くんのこと知ってるんです」
アイスコーヒーを一口飲んだ瀬戸さんが、唐突に切り出しました。
「え……?」
「私の叔母……、小鳥遊真希(たかなし まき)から聞いてたんです。今年から大学に通う親戚の子がいて、とっても優しくて不器用な子だから、もし見かけたら仲良くしてあげてねって」
指は、持っていたストローを噛み締めました。瀬戸さんは真希さんの姪だったのです。
「……真希さんが、そんなことを」
「はい。叔母、最近なんだか元気がないみたいで。でも、指くんの話をする時だけは、少しだけ……なんていうか、困ったような、でも愛おしそうな顔をするんですよ」
瀬戸さんはそう言って、真希さんそっくりの慈愛に満ちた笑みを指に向けました。その清らかな光景を汚すように、机の下ではサキの執拗な干渉が再開されていました。
サキは瀬戸さんの足元に潜り込むようにして、指の足首から太ももへと冷たい手を這わせます。
「ねえ、指くん。この子、お母さんのスパイだよ。君が大学で不純なことしてないか、見張りに来たんだよ。……だったら、見せつけてあげなきゃ」
サキの指先が、ジーンズの合わせ目を器用にこじ開けようとします。瀬戸さんが真希さんの思い出話を語る穏やかな午後の昼下がり、指の股間ではサキによる「死者の愛撫」が激しさを増していきます。
「指くん? また顔が赤くなって……、本当に大丈夫?」
瀬戸さんが心配そうに身を乗り出し、指の額に手を当てようとしました。その瞬間、サキが指の「そこ」をギュッと強く握りしめました。
「っ……あ……!」
「指くん!?」
瀬戸さんの掌が、指の熱い額に触れる。 同時に、サキの冷たい指先が、指を絶頂の淵へと突き落とす。
真希さんの血を引く少女の「善意」と、指を独占しようとする幽霊の「悪意」。 二つの相反する刺激に挟まれ、指の理性は人前であることも忘れ、崩壊寸前の悲鳴を上げようとしていました。
瀬戸美咲さんは、指の額に手を当てたまま、ピタリと動きを止めました。
指の全身から噴き出すような熱、そして小刻みに震える肩。あまりの異変に、彼女は視線を下へと落としました。そこには、テーブルの下で隠しきれないほど猛り、ジーンズを内側から突き破らんばかりに角張った「指の情動」がありました。
「あ……」
美咲さんは、小さく息を呑みました。 普通の女子大生なら、ここで悲鳴を上げて立ち去るか、軽蔑の眼差しを向ける場面です。しかし、彼女は真希さんの姪でした。真希さんから「この子は不器用で、危ういところがあるから」と何度も言い聞かされていた彼女の中に、叔母譲りの過剰なまでの「慈愛」が芽生えてしまったのです。
「指くん……あなた、こんなに……」
彼女の瞳に、軽蔑の色はありませんでした。あるのは、熱に浮かされる獲物を見つめるような、どこか湿り気を帯びた同情心。
「おばさまが言ってたわ。あなたは一人で抱え込みすぎて、時々自分を制御できなくなるって。……私、おばさまから頼まれているの。指くんを、独りにしないでねって」
美咲さんは周囲を気にするように素早くあたりを見渡すと、自分の膝に置いていたトートバッグを指の股間の上にそっと被せ、目隠しを作りました。
そして、そのバッグの下で、彼女の細い指先が指のジーンズのジッパーに触れたのです。
「……っ!? 瀬戸さん、何を……!」
「声を出さないで。……おばさまも、こうやってあなたを助けてあげたんでしょう?」
その言葉は、指にとって最大の毒でした。美咲さんの手つきは、真希さんのそれよりも若々しく、力強い。彼女はバッグの陰で、躊躇うことなく指の熱を剥き出しにすると、真希さんに教わったかのような丁寧な動作で、それを包み込みました。
「あはは! 傑作! 姪っ子までお母さんと同じことしてるよ!」
サキがテーブルの上で、腹を抱えて笑っています。サキは美咲さんの肩に腕を回し、まるで彼女の動きを操るかのように、その手首を激しく動かさせました。
「ん……指くん、すごい……。こんなに、熱いのね……」
美咲さんは顔を真っ赤にしながらも、指の目を見つめ続けました。その瞳の奥には、叔母である真希さんへの対抗心か、あるいは指を自分だけのものにしたいという独占欲か、危うい光が宿り始めています。
白昼堂々のテラス席。 真希さんの影を追う少女の掌の中で、指は再び、逃れられない快楽の渦へと叩き落とされていきました。
「……っ、ふ、ぅ……っ!!」
カフェの喧騒と、すぐ横を通り過ぎる学生たちの気配に怯えながら、指は三度目(今日だけでいえば四度目)の絶頂を迎えました。美咲さんのトートバッグの下、彼女の若々しくもしなやかな指先が、指のすべてを絞り出すように強く、そして優しくしごき上げました。
「……んっ。指くん、お疲れ様」
美咲さんは顔を真っ赤にしながらも、勝利したような、どこか誇らしげな微笑みを浮かべました。彼女はバッグの中で手早くティッシュを使って後始末をすると、耳元まで顔を寄せ、熱い吐息とともに囁きました。
「おばさまには内緒よ。……これは、私と指くんだけの秘密」
指は、賢者タイムの虚脱感と、美咲さんの大胆な行動への恐怖で、ただ荒い息を吐くことしかできません。しかし、下半身の熱がようやく引きかけたその時、美咲さんの表情がふっと真面目なものに変わりました。
彼女は、指の背後に漂っている「何もない空間」を、真っ直ぐに見据えたのです。
「……ねえ、指くん。驚かないで聞いてね」
彼女の視線の先には、先ほどまでゲラゲラと笑っていたサキが、蛇に睨まれた蛙のように硬直して浮かんでいました。
「私……実は、霊感があるんです。……はっきり見えるの。あなたの後ろにいる、その『子』のこと」
「っ……え?」
指の背筋に、快感とは違う種類の戦慄が走りました。 サキが初めて、怯えたように指の背中に隠れるのが分かりました。
「ずっと、指くんを弄んでたわよね? さっきも、私の手を操ろうとしてた」
美咲さんの瞳には、先ほどまでの慈愛とは違う、冷徹な「守護者」としての光が宿っていました。彼女はテーブルを身を乗り出して詰め寄ると、サキがいるはずの空間に向かって、言い放ちました。
「おばさまから頼まれてるの。『指くんの周りに、悪い虫が憑かないように見ててあげて』って。……あなたは、指くんをダメにする悪い霊(ひと)ね。私が、指くんからあなたを引き離してあげる」
「……っ、指くん! この女、ヤバいよ! 逃げよう!」
サキの震える声が脳内に響きます。 美咲さんの指先が、今度は指の喉元に触れました。彼女の指は、真希さんよりもずっと強く、独占欲に満ちた熱を持っていました。
「おばさまも、その霊も……みんな指くんを甘やかしすぎ。私が、正しい『指』の使い方を教えてあげる。……ねえ、今日の放課後、私の家に来ない?」
真希さんの姪という聖域から、一気に「執着」の深淵へと引きずり込まれる感覚。 指は、目の前の美咲さんと、背後のサキ、二人の異能の女性に挟まれ、逃げ場を完全に失いました。
美咲さんの家は、大学から少し離れた静かな住宅街にある、真希さんのアパートより少し広めのワンルームでした。
「さあ、入って。……その『子』も、遠慮せずにどうぞ」
美咲さんは部屋に入るなり、不敵な笑みを浮かべてサキのいる空間を指差しました。 部屋の四隅には水晶のクラスターが置かれ、微かに香水の匂いと混ざって、お香のような独特の冷ややかな空気が流れています。
「指くん、そこに座って。……今から、あなたに憑いている悪いものを『お祓い』してあげる」
美咲さんは指をベッドに座らせると、彼の膝の間に割り込むようにして跪きました。
「やめて! 指くんに触らないで!」
サキが叫び、指を美咲さんから引き離そうと彼の腕を引っ張ります。しかし、美咲さんはサキの腕をまるで実体があるかのように掴み、冷徹な力で振り払いました。
「うるさいわね。……視えるだけじゃなくて、触れる(さわれる)のよ、私は」
美咲さんはそう言い放つと、指のシャツのボタンを一つずつ、儀式でも行うかのような手つきで外し始めました。
「お祓いっていうのはね、その霊が一番執着している『快楽』を、上書きして消し去ることなの。……指くんの身体に、私の感触を刻み込んで、その子が入る隙間を無くしてあげる」
美咲さんの手が、指の胸元から下腹部へと滑り落ちます。サキが指の身体を操って逃げようとしますが、美咲さんは素早く指の首筋にある「霊的な急所」を指先で突きました。
「っ……、あ……身体が、動かない……!」
「……えっ!? 嘘、指くん!? 離してよ、この女!」
サキがパニックになります。美咲さんの霊力によって、サキの姿が少しずつ、鏡のように鮮明に「実体化」し始めました。指の目にも、そして美咲さんの目にも、サキの白いワンピースと震える肩がはっきりと見えています。
「逃がさないわよ。……指くんの快楽を特等席で見せてあげる」
美咲さんは実体化したサキを、指の目の前の椅子に霊的な力で「縛り付け」ました。 そして、サキが泣き叫ぶ目の前で、美咲さんは指のジーンズを完全に脱がせ、猛り狂う彼の熱を剥き出しにしました。
「っ、美咲さん……だめだ、サキが見てる……っ!」
「見せておけばいいのよ。……ほら、私の方がずっと気持ちいいでしょ?」
美咲さんは、真希さんよりもずっと若く、力強い舌使いで、指の先端を執拗に攻め立てました。サキは椅子に縛り付けられたまま、自分の居場所を奪われていく光景に絶望し、激しく身悶えます。
「あ、あああああ……っ!!」
美咲さんの技巧的な愛撫に、指の身体はサキの時とは違う、魂を削られるような激しい快感に貫かれました。サキがいくら「指くん! 見ないで! 私のことだけ見て!」と叫んでも、美咲さんの圧倒的な「生(せい)」の熱量に、指の意識は混濁していきます。
「指くん……おばさまの代わりに、私が全部受け止めてあげる……」
美咲さんは指を突き上げるように激しく揺さぶり、サキへの見せつけるようにして、指のすべてを自分の口内へと搾り取りました。
「んんんっ……!!」
五度目の、いや、人生で最も濃密な絶頂。 指は美咲さんの髪を掴んだまま、彼女の喉の奥へと崩れ落ちました。
サキは、自分の目の前で指が自分以外の女に「完成」させられた光景を見て、力なく膝をつき、透き通った涙を流しながら、その形を崩して霧のように消えていきました。
「……これで、少しは綺麗になったかしら」
美咲さんは口元を拭い、美しく、そして底知れない暗さを湛えた瞳で、指を抱きしめました。
美咲さんの「お祓い」は、一度きりの儀式ではありませんでした。
あの日以来、指の生活は完全に美咲さんの掌の上で転がされるようになりました。大学の講義が終わると、彼女は当然のように指の腕を組み、自分のマンションへと連れて行きます。
「指くん、今日も『悪い気』が溜まってるみたい。……ちゃんとお掃除してあげなきゃね」
美咲さんの部屋のドアが閉まり、鍵がかけられる音。それが、指にとっての「日常」という名の監獄の合図でした。
彼女の支配は、真希さんのような戸惑いも、サキのような無邪気な悪戯もありません。そこにあるのは、圧倒的な**「所有権の行使」**でした。
「ほら、横になって。……今日は、昨日よりも感度が上がってるみたいよ?」
美咲さんは指をベッドに押し倒すと、霊力を込めた指先で、彼の身体にある「快感のツボ」を正確になぞっていきます。彼女の指が触れるたび、指の意思とは無関係に筋肉が跳ね、熱い血が下半身へと一気に流れ込みました。
サキは、あの日から実体化する力を失い、部屋の隅で消え入りそうな薄い影となって、震えながら二人を見つめることしかできません。
「サキちゃん、見てて。指くんが、私の指先だけでこんなに情けない声を出すところを」
美咲さんは嘲笑うように言いながら、指のジッパーをゆっくりと下ろしました。 彼女は自分のストッキングを脱ぎ捨てると、その柔らかな足先で、指の猛り狂う熱を挟み込みました。
「っ……、ぁ……美咲、さん……もう、勘弁して……」
「ダメよ。あなたの身体の中に、少しでもおばさまやサキちゃんの記憶が残っているうちは、何度でも上書きしてあげる」
美咲さんは、指が絶頂を迎える直前で動きを止め、彼が泣いて縋るまで放置し、再び狂ったようなリズムで追い詰める……という、残酷なまでの「快楽の調教」を繰り返しました。
指は、美咲さんの技巧的な愛撫に翻弄され、一晩に何度も、何度も限界を超えさせられました。彼の脳は、もはや美咲さんの指先が触れるだけで、パブロフの犬のように快楽の電気信号を垂れ流すよう作り変えられていきます。
「指くん、あなたは私のもの。……心も、身体も、その『指』の一本一本まで、全部私が管理してあげるから」
美咲さんは、ぐったりと横たわる指の胸元に顔を埋め、甘い毒のような囁きを残しました。 指は、天井を見上げながら、遠くなっていく真希さんの面影を思い出そうとしました。しかし、美咲さんの濃厚な肌の匂いと、繰り返される絶頂の余韻が、その記憶を黒く塗りつぶしていきます。
「……指くん、また意識が飛んじゃった? だめだよ、ちゃんと私のことだけ見てて」
美咲さんの熱い舌が、指の首筋から耳元へと這い上がります。指はもはや、自分の名前を呼ぶ彼女の声が、救いなのか呪いなのかも分からなくなっていました。一日中繰り返される「お祓い」によって、指の腰は砕け、思考は快楽の泥濘に沈みきっています。
部屋の隅、かつては無邪気に指を翻弄していたサキは、今や風前の灯火のような薄い霧と化していました。美咲さんの強力な霊力に当てられ、彼女の存在そのものが消滅の危機に瀕していたのです。
(……このままじゃ、指くんが壊れちゃう。あのおばさんに、壊されちゃう……!)
サキは、指への独占欲よりも強い、切実な「恐怖」を抱きました。このまま美咲の快楽に塗りつぶされれば、指は廃人のようになり、サキという存在を認識する心さえ失ってしまう。
サキは残された全ての霊力を振り絞りました。 彼女の姿はさらに透け、消える寸前の火花のようにパチパチと音を立てます。その執念が、床に投げ捨てられていた指のスマホを、物理的に数ミリだけ動かしました。
(お願い……届いて……!)
サキの震える指先が、画面をスワイプし、LINEのアイコンを叩きます。 美咲が指の股間に顔を埋め、彼が「あ……あぁっ!」と声を上げたその瞬間、サキの執念は実を結びました。
指のスマホから、一通のメッセージが送信されました。 宛先は——『真希さん』。
内容は、たった一言。 「助けて。美咲さんに、殺される」
その頃、離れた街のアパートで、真希さんはあの日以来、指のことを思い出しては溜息をつく日々を送っていました。 掌に残る、あの一度では拭いきれなかった熱い感触。母親としてあるまじき行為をしたという罪悪感で、彼女の心はボロボロでした。
そこへ、スマホの着信音が鳴り響きました。
「指くんから……?」
画面を見た瞬間、真希さんの顔から血の気が引きました。 『助けて』 その三文字、そして自分の姪である『美咲』の名前。
「……っ、美咲ちゃん、あなた何を……!」
真希さんはエプロンも脱ぎ捨て、バッグを掴むと、全力で部屋を飛び出しました。 彼女の中の「母親」としての本能と、あの日芽生えた「女」としての執念が、かつてないほど激しく燃え上がっていました。
「待ってて、指くん……。今、お母さんが助けに行くから!」
バタン!! と、壊れんばかりの勢いで美咲のマンションのドアが蹴り開けられました。
「指くん!!」
真希さんは息を切らし、顔を蒼白にして部屋へと飛び込みました。しかし、そこで彼女が目にしたのは、想像を絶する凄惨で卑猥な光景でした。
カーテンが閉め切られた薄暗い部屋。お香の煙が立ち込める中、ベッドの上では、全裸で力なく横たわっている指の姿がありました。その上には、同じく下着を脱ぎ捨て、指の熱を自分の指先と口元で貪り尽くしている姪の美咲がいたのです。
指の股間は、美咲の度重なる「お祓い」によって赤く腫れ上がり、シーツは何度も繰り返された絶頂の跡で白く汚れきっていました。
「……あ、おばさま。意外と早かったわね」
美咲は、口元に白く濁った指の痕跡を残したまま、勝ち誇ったような笑みで真希さんを振り返りました。
「美咲ちゃん……あなた、正気なの!? 指くんに、なんてことを……!」
真希さんはその光景に激しい眩暈を起こし、壁に手を突きました。しかし、指の虚ろな瞳と、自分を見た瞬間にボロボロと溢れ出した涙を見た瞬間、彼女の中の何かが「プツン」と音を立てて切れました。
「お……かあさん……助けて……」
指の細い、震える声。 その言葉が、真希さんの理性を完全に焼き払いました。
「美咲ちゃん。……そこを退きなさい。その子は、私の……私の指くんなのよ!」
真希さんはバッグを投げ捨て、猛然とベッドへと詰め寄りました。 美咲は冷笑を浮かべ、指の熱をこれ見よがしにギュッと握りしめます。
「あら、おばさま。自分だって、指くんをこんな風にした癖に。この子を汚したのは、私じゃなくておばさまでしょう?」
「……っ、うるさい!!」
真希さんは美咲の肩を掴み、力任せにベッドから引きずり下ろしました。二人の女が、畳の上で取っ組み合いのような激しい諍いを始めます。その背後で、消えかかっていたサキが、真希さんの怒りに同調するように最後の輝きを放ちました。
「そうよ、真希さん! その女から指くんを取り返して!」
真希さんは美咲を突き飛ばすと、そのまま指の身体を覆い隠すように抱きしめました。 彼女の掌が、美咲に弄ばれて熱を失いかけていた指の身体に触れます。
「ごめんね、指くん。ごめんね……。もう大丈夫、お母さんが来たから……」
真希さんは泣きながら、指の汚れを自分のブラウスの袖で拭い始めました。しかし、指の身体は、真希さんの懐かしい匂いと掌の温もりに触れた瞬間、美咲の技巧的な愛撫では決して見せなかった、芯からの激しい拍動を再開したのです。
「あ……まき、さん……」
真希さんの掌の中で、指のそれは、彼女の涙を吸い込むように再び天を突きました。 真希さんは、そのあまりに正直な反応に、悲しみと、そして言葉にできないほどの悦びを感じてしまいました。
「……指くん、お母さんのことが、そんなに好きなのね」
美咲が見守り、サキが叫び、指の理性が限界を迎える中、真希さんは決意を秘めた瞳で、自分のスカートのホックに手をかけました。
「美咲ちゃん……見ていなさい。この子の『初めて』は、私がもらうわ」
真希さんの声は、もう震えていませんでした。あるのは、すべてを捨て去った女の、静かで狂気じみた決意だけです。彼女は指の上に跨ると、自分のスカートと下着を躊躇なく脱ぎ捨て、膝をつきました。
「おばさま、正気!? 母親が息子と……そんなこと、許されるはずが……!」
美咲が床から叫びますが、真希さんは一瞥もくれません。彼女は指の頬を優しく両手で包み込み、涙で濡れた彼の瞳を真っ直ぐに見つめました。
「指くん……ごめんね。お母さん、もう自分に嘘はつけない。……あなたを誰にも渡したくないの」
真希さんは、指の震える手を自分の豊かな胸へと導きました。あの日、手だけでいかされた時から、彼女の身体もまた、指という存在を渇望して止まなかったのです。
「ああ……まき、さん……っ!」
指が真希さんの腰を掴んだ瞬間、彼女はゆっくりと、腰を下ろしました。 美咲の技巧的な愛撫や、サキの霊的な刺激とは違う。そこにあるのは、この世で最も温かく、優しく、そして深い、真希さんという「一人の女」のすべてでした。
「っ……あ、あぁ……っ!!」
結合した瞬間、二人の口から同時に、魂を削り出すような熱い吐息が漏れました。 指の十八年間の純潔と、真希さんの積み上げてきた理性が、一つの熱となって溶け合っていきます。
真希さんは指の胸に顔を埋め、彼の肌に涙を落としながら、激しく、けれど愛おしそうに腰を振り始めました。
「あはは……あははは!!」
その光景を見て、サキが狂ったように笑い出しました。彼女の姿が、指と真希さんの結合から溢れ出す濃密な生命力によって、かつてないほど鮮明に実体化していきます。サキは指の背後から真希さんに重なるように抱きつき、三人の境界線が曖昧になっていきました。
「見てよ、美咲! 私たちの負けだよ。指くんは、やっぱりお母さんのものなんだ!」
美咲は、目の前で繰り広げられる叔母と指の、あまりにも美しく醜い交わりに、ただ言葉を失って立ち尽くすしかありませんでした。
「指くん……指くんっ! 大好きよ、ずっとこうしていたかった……!」
真希さんの愛撫は、技術などではない、剥き出しの情愛でした。指は真希さんの背中を爪が食い込むほど強く抱きしめ、彼女のすべてを体内に感じながら、今日、いや人生で最大の奔流を迎えようとしていました。
「まきさん……っ、いく……まきさんの中で、全部……っ!!」
「いいわよ、全部出して……私を、あなたの色で染めて……っ!!」
二人の絶叫が重なり、部屋の空気が震えました。 指のすべてが、真希さんの深淵へと解き放たれました。五度の絶頂を超えた先にある、最後の一滴までを絞り出すような、白濁した愛の証明。
真希さんは、指の熱を喉の奥で、そして身体の芯で、一滴も逃さず受け止めました。
嵐のような絶頂のあと。 真希さんは指の上に崩れ落ち、彼の首筋に顔を寄せて、安らかな、けれどどこか壊れたような微笑を浮かべました。
「……これで、あなたは私のもの。……ねえ、指くん?」
その瞳には、もう「母親」の面影はどこにもありませんでした。 そこにあるのは、愛する男を独占した、一人の「女」の顔だけでした。
あの日、美咲のマンションで繰り広げられた狂乱から一週間。
指の一人暮らしのために用意されたはずの狭いワンルームは、今やかつてない密度と熱気に包まれていました。
「指くん、お帰りなさい。ご飯にする? それとも……お風呂?」
エプロン姿で指を玄関まで出迎えたのは、真希さんでした。彼女はあの日以来、実家には戻らず、最低限の荷物を持ってこの部屋に転がり込んできました。彼女の表情からはかつての「母親」としての迷いは消え、指の隣にいることが当然であるという、穏やかで深い執着の色が滲んでいます。
「ちょっと、おばさま! 玄関でイチャイチャしないで。指くん、今日も大学でお祓いが必要な気がするんだけど?」
部屋の奥から、当然のように美咲が顔を出します。彼女もまた、「指くんを監視しなきゃいけないから」という名目で、授業が終わると毎日ここへ通い詰め、夜が更けるまで帰ろうとしませんでした。
「あはは! 指くん、今日も大変だね」
そして、テレビの上で脚を組み、ケラケラと笑っているのはサキです。真希さんと指が結ばれた際、二人の強烈な想いと生命力を吸い取った彼女は、今や完全に「実体」としてこの部屋に居座っていました。
狭い六畳間。 キッチンでは真希さんが鼻歌まじりに料理を作り、ソファでは美咲が指の腕に絡みつき、背後からはサキが冷たい指先で彼の首筋をなぞる。
「……みんな、狭くないの?」
指が困ったように呟くと、三人の女性は一斉に顔を上げ、それぞれに異なる、けれど同じくらい熱を帯びた瞳を向けました。
「狭い方が、指くんを近くに感じられるもの」と真希さんが微笑み。 「密着してたほうが、お祓いの効率がいいわ」と美咲が耳元で囁き。 「逃げられないように、私が捕まえててあげる」とサキが肩に手を置く。
指は、自分の不器用な「指先」を見つめました。 この指で、真希さんを求め、美咲に調教され、サキを現世に繋ぎ止めてしまった。もはや自分一人の身体ではないのだと、彼は改めて悟りました。
夜、三人の女たちに囲まれて眠る布団の中で、指はそっと真希さんの手を握りました。 「おやすみ、指くん」 「おやすみなさい、真希さん」
窓の外では、春の夜風が優しく吹き抜けていきます。 常識も、生死も、倫理も。 すべてを快楽と愛着の渦に飲み込んだ、指と三人の女たちの、異常で、濃密で、そして残酷なまでに幸福な共同生活は、まだ始まったばかりでした。
完