『「56」指先から、熱。 〜狂犬先輩と僕の共犯関係〜』
2026/01/18(日)
放課後の旧校舎。体育館の裏手にある備品倉庫は、カビ臭い埃と、使い古されたマットの匂いが充満していた。
「……まじかよ。おい、指。これ、開かねえぞ」
背後から突き刺さるような低い声に、指(ゆび)は背筋を凍らせた。 名前の通り、すらりと細い指先を震わせながら、彼は壊れたドアノブを見つめる。
目の前にいるのは、三年生の「狂犬」こと、聖(ひじり)先輩だ。金髪をラフにまとめ、短いスカートから伸びる生足には、どこでつけたか分からない小さな痣がある。学校中の男子が恐れるヤンキーギャルと、よりによって二人きり。
「あ、あの、聖先輩……僕、わざとじゃないんです。ただ、掃除をサボる場所を探してて……」 「私だって昼寝の邪魔されたくねえよ。チッ、スマホも圏外かよ」
聖は苛立ちを隠さず、狭い部屋の壁を思い切り蹴飛ばした。その振動で、古いスチール棚が激しく揺れる。 「あ、危ない!」 指は無意識に叫び、聖の肩を突き飛ばした。
次の瞬間、棚の上から重いバレーボールの籠が雪崩のように落ちてくる。 「きゃっ……!?」 聖の短い悲鳴。指は彼女を庇うように押し倒す形になり、二人は埃っぽいマットの上に倒れ込んだ。
沈黙。 指の掌(てのひら)に、柔らかく、それでいて弾力のある感触が伝わってくる。 (……あ) 右手が、聖の薄いブラウス越しに、その豊かな胸をまともに掴んでいた。左手は、彼女の太ももの、熱い肌に直接触れている。
「て、てめぇ……どこ触ってんだ……」
聖の声が震えている。怒られる、殺される。指は真っ青になりながら、慌てて手を離そうとした。しかし、狭い空間で絡まった足が邪魔をして、逆に密着度が増してしまう。
「すみません! すみません! 僕、女の人に慣れてなくて……あの、その、童貞なんで! 許してください!」
必死すぎる叫びが、狭い倉庫に虚しく響いた。 聖は呆気にとられたように目を見開いていたが、やがて、その赤い唇がニヤリと吊り上がった。
「……ふーん。童貞? 16歳の高1だっけ、お前」
聖の顔が近づく。タバコと、それ以上に甘いバニラのような香りが鼻腔をくすぐった。彼女は逃げようとする指の細い手首を、力強くマットに押しつけた。
「指っていう名前のわりに、全然使えてねえじゃん。その指」
彼女の指先が、指の耳たぶをなぞり、首筋へと降りてくる。 恐怖は一瞬で、経験したことのない熱へと塗り替えられた。聖の瞳には、獲物を見つけたような妖艶な光が宿っている。
「……外、誰も来ねえよ。ここ、明日まで開かねえもん。なあ、卒業させてやろうか? 先輩の特別授業」
指の喉が、こくりと鳴った。16歳の夏、カビ臭い倉庫。 窓から差し込む夕陽が、聖の金髪を黄金色に輝かせていた。
「……何よ、その顔。お姉さんに任せときゃいーんだよ」
聖は余裕を崩さず、指のシャツのボタンに手をかけた。けれど、その指先がわずかに震えていることに、パニック寸前の指は気づかない。
「聖先輩、あの、本当にいいんですか……? 僕、何していいか全然……」 「うるせー。黙って見てろ」
聖は勢いよく自分のブラウスを脱ぎ捨てた。夕闇に染まり始めた倉庫の中で、白い肌がぼんやりと浮かび上がる。指は息を呑み、あまりの眩しさに目を逸らした。そんな彼の反応を見て、聖はさらに強気な笑みを浮かべる。
「ははっ、マジでチェリーなんだな。可愛すぎ」
彼女は指の上に跨ると、その細い首筋に顔を寄せた。 けれど、重なった体温を通じて、指はある違和感を覚える。聖の心臓の音が、まるでドラムの連打みたいに、指の胸にまで響いてくるのだ。
「……先輩、心臓、すごいです」 「あ? 当たり前だろ、動いてんだから」 「でも、僕より速い……」
指がふと顔を上げると、そこには「狂犬」と呼ばれた面影のない、真っ赤になった聖の顔があった。彼女は唇を噛み、視線を泳がせている。
「……っせーな。……お前が、モタモタしてるからだろ」
聖は指の胸元に顔を埋めたまま、止まっていた手を恐る恐る動かし、指のズボンのベルトに手をかけた。だが、その手つきは驚くほどぎこちない。金具を外そうとして、何度も指を滑らせている。
「……ねえ、先輩」 「なんだよ」 「もしかして、先輩も……初めて、なんですか?」
図星だった。聖の体がびくんと跳ねる。 「……んなわけねーだろ! 私を誰だと思ってんの!? 経験なんて、それなりに……っ」 「嘘だ。手が、僕より震えてます」
指は、自分の名前に導かれるように、震える右手で聖の小さな手をそっと包み込んだ。 ヤンキーギャルの皮を被った、ただの18歳の女の子。自分と同じように、未知の領域を前にして怯えている少女の温度。
「……あ」
聖の目から、強気がスッと消えた。彼女は観念したように指の胸に額を押し当て、消え入りそうな声で白状した。
「……悪ぃかよ。こんな格好してて、一回もしたことないなんて、格好つかねーじゃん」
その瞬間、指の中の恐怖が消えた。代わりに、守ってあげたいという、男としての本能が芽生える。
「……僕も初めてです。だから、一緒でよかったです」
指は、今度は自分から、彼女の柔らかい頬に手を伸ばした。 「指」という名に恥じないよう、優しく、丁寧に。 聖は一瞬驚いたように目を見開いたが、やがて諦めたように目を閉じ、指の首に細い腕を絡ませた。
「……優しくしろよ。……指」
埃っぽいマットの上。 二人の、不器用で、けれど特別な「卒業試験」が始まった。
「好きでもない、か……」
聖は自嘲気味に鼻で笑うと、指のシャツの襟ぐりをぐいっと自分の方へ引き寄せた。至近距離で見つめ合う。彼女の瞳は、夕闇のせいで少し潤んでいるように見えた。
「あんたさ、さっきから『指』だの『童貞』だの……自分のことばっかじゃん。私のこと、ちゃんと見てんの?」
聖の吐息が唇にかかる。指は心臓が止まるかと思った。
「……怖いよ。正直、卒業なんて誰でもいいと思ってた。適当に遊んでる奴捕まえて、サクッと終わらせりゃいいって。でもさ……」
聖は、指の胸元をぎゅっと握りしめた。
「あんた、私がわざと壁蹴って、棚が倒れてきたとき……真っ先に私を庇ったじゃん。自分の手が震えてるくせに、私のことだけ見て、バカみたいに飛び込んできたでしょ」
指は言葉を失った。自分では必死すぎて無意識だった行動を、彼女はしっかり見ていたのだ。
「そんなことされたら……。ただの後輩だなんて、思えなくなるじゃん」
聖の顔が、さらに数センチ近づく。彼女の頬は、夕焼けよりもずっと深い赤色に染まっていた。
「……好きじゃなきゃ、こんな恥ずかしい姿、見せねーよ」
蚊の鳴くような、でも確かな熱を持った告白。 それを聞いた瞬間、指の指先に、今まで感じたことのないような力が宿った。
「聖先輩……」 「……呼び捨てでいい。今は、先輩じゃなくて……ただの女として、見てよ」
聖がそっと目を閉じる。 指は、もう迷わなかった。器用だと言われる自分の指を使い、彼女の震える背中を優しく、でも力強く抱き寄せた。
「……聖。僕も、あなたがいいです」
カビ臭かったはずの倉庫の空気が、今は甘く、熱い。 指は彼女の震える唇に、初めての、そして誓いのキスを落とした。
「聖。僕も、あなたがいいです」
指の言葉と共に、唇が優しく重ねられた。聖の唇は、見た目とは裏腹に柔らかく、少ししょっぱいような味がした。初めての感触に、指の全身が痺れる。聖も最初は戸惑っていたが、すぐに指の首に腕を回し、ぎこちないながらも応えてくれた。
キスを終えると、聖は潤んだ瞳で指を見上げた。 「……なんか、緊張する」 「僕もです」
聖が、指のベルトに再び手をかけた。今度は先ほどよりも少しだけ落ち着いている。 「じゃあ、私がリードしてやるから。お前は黙って、私の言うこと聞いてろ」
そう言いながらも、聖の手つきはまだ不慣れだった。ベルトの金具を外し、ファスナーをゆっくりと下ろしていく。そのたびに、指の体が熱くなっていくのが分かった。
「……なんか、その……思ったよりデカいんだな」 聖がポツリと呟いた。視線が指の股間に向いている。照れ隠しのように顔を逸らす聖に、指は思わず笑ってしまった。 「聖の方が……すごいです」
指は、今度は自分から聖のブラウスを完全に脱がせた。露わになった白い肌に、指の視線が吸い寄せられる。聖は両腕で胸を隠そうとしたが、指はそれを許さなかった。 「見せてください」 強い意志を宿した指の瞳に、聖は小さく息を漏らした。
「……っ、馬鹿」
聖の体は熱く、少し汗ばんでいた。指は、ゆっくりと、自分の指を彼女の肌の上で滑らせる。鎖骨から、肩、そして胸の膨らみへ。聖の体は、指の触れる場所すべてで小さく震えた。
「ん……っ」
指が、聖の乳輪をそっと撫でた。刺激に、聖の体が大きく弓なりになる。 「ふ、くっ……そこ……」 聖は喘ぎながら、指の頭を掴み、自分の胸元へと引き寄せた。
「もっと……っ、もっと強く……指で……」
聖の懇願に、指は戸惑いつつも応えた。名前の通り、彼は驚くほど器用な指を持っていた。硬くなった聖の先端を優しく、しかし確実に刺激する。
「ああっ……! な、にこれ……変な感じ……っ」 聖の嬌声が、倉庫の中に響き渡った。彼女は背中を反らせ、指の頭を掴む手にさらに力を込める。 「すごい……お前の指……っ、マジかよ……」
その興奮が、指をさらに大胆にした。 指は聖のジーンズをゆっくりと下ろし、その太ももを撫でる。聖の足は、熱くて柔らかかった。そして、その指は、ついに聖の秘密の場所へとたどり着く。
「ひゃあっ!」 聖の体が、びくっと大きく跳ねた。 「そこは……っ、まだ……」 聖は恥ずかしさからか、指の手を掴んで止めようとする。しかし、指の探求心は止まらなかった。彼は優しく、しかし着実に、聖の秘部を指先でなぞる。
「……っ、だめ……っ、指……っ」 聖の声は、もうほとんど喘ぎ声になっていた。彼女の体は火照り、指の触れる場所すべてが熱を帯びている。
「聖、感じてますか?」 指は、聖の目を真っ直ぐに見つめた。その瞳には、もう臆病な少年の影はなかった。 「あんた……っ、本当に、初めてなのかよ……っ」
聖の唇から、甘く乱れた息が漏れた。 指は、優しく、しかし情熱的に、その指先で聖の秘部を奥まで探った。二人の体が、熱い汗で濡れていく。 初心者同士のぎこちなさなど、もはやどこにもなかった。 ただ、互いの熱だけが、この閉ざされた空間を支配している。
指の指先が、聖の最も柔らかく、熱い場所に触れた。
「あ……っ、や……!」
聖はのけぞり、指の肩に爪を立てた。初めて触れられる場所に、彼女の脳内は真っ白に染まっていく。指は、自分の指先から伝わってくる聖の「命」の鼓動に圧倒されていた。濡れた粘膜の熱さ、小刻みに震える筋肉の収縮。それは教科書にもネットの動画にもない、生身の、たった一人の女性の真実だった。
「聖、すごい……熱いよ」 「言わないで……っ、恥ずかしい……!」
聖は顔を真っ赤にして腕で目を覆ったが、指がゆっくりと、確かめるように中へ指を沈めると、逃げるどころか自分から腰を浮かせて指を迎え入れた。
「ねえ、指……もっと……。お前の、指だけじゃなくて……全部、ちょうだい」
探求心の塊と化した聖が、震える手で指のズボンを完全に脱がせた。 そこに現れた、自分と同じように熱く、硬く昂ぶった「男」の象徴。聖は一瞬、怯えるように息を呑んだが、すぐにその好奇心旺盛な瞳に、ある種の覚悟を宿した。
「……痛いのは、お互い様だよね」
聖は指の胸に手を置き、ゆっくりとその身を預けてきた。 重なる体温。指は、聖の体に自分が受け入れられていく感覚に、意識が遠のきそうになる。
「いっ……っ、く……!」
貫かれた瞬間、聖の顔が苦痛に歪んだ。指もまた、経験したことのない狭窄感と圧迫感に、喉の奥で短い声を上げた。二人とも、動きを止めて互いの顔を見合わせる。鼻先が触れ合う距離で、混じり合う二人の荒い吐息。
「……だいじょうぶ?」 「……馬鹿。お前、ほんと……デカすぎんだよ……。でも……っ」
聖の目に、じんわりと涙が浮かんだ。それは痛みだけではない、誰とも繋がったことのない場所を、初めて好きな相手に明け渡した充足感の涙だった。
「……でも、お前で良かった。指……っ、動いて」
聖の言葉に促されるように、指はぎこちなく腰を動かし始めた。 最初は痛みが勝っていたはずなのに、一歩ずつ奥へ進むたびに、それが得体の知れない快感へと溶けていく。狭い備品倉庫、使い古されたマットの硬さ、そして鼻をつく埃の匂い。そのすべてが、二人の熱気によって特別な儀式の舞台へと変わっていく。
「あ、っ、聖……! 聖……っ!」 「んっ……ふあ……っ! 指……いい、そこ……っ!」
聖は指の首を折れそうなほど強く抱きしめ、指の背中に何度も自分の指を走らせた。 ヤンキーギャルの余裕など、もう欠片もない。ただ、自分を愛してくれる年下の少年の名前を呼び続け、その熱を受け止めることに必死だった。
指は、聖の体の中で、自分の境界線が溶けていくのを感じた。 16歳の夏。 まだ何者でもない自分と、強がってばかりいた彼女。 二人の孤独が、この閉じ込められた空間で、初めて一つに溶け合っていった。
「っ……出る……聖っ!」 「……出して。……私の中に、全部っ!」
一際強い衝撃と共に、二人の体は激しく重なり合い、そのまま崩れるようにマットへと沈み込んだ。 倉庫の中には、ただ二人の重い呼吸音だけが、いつまでも反響していた。
静寂が戻った倉庫の中、二人の荒い吐息だけが重なり合っていた。
指は、自分の体から力が抜けていくのを感じながら、ぼんやりと天井を見つめた。初めての経験。頭の中は真っ白で、ただただ聖の熱さだけが残像のように焼き付いている。
「……っ、ちょ……指、見てよこれ」
聖の声に我に返り、指は視線を下ろした。 マットの上には、鮮やかな赤が点々と散っている。そして、自分自身のあそこにも、聖の「初めて」の証である血が滲んでいた。
「あ……すみません、聖。僕、汚しちゃって……」 「……謝んなよ。私が自分で選んだことなんだから」
聖は顔を背けながらも、乱れた制服のポケットから、くしゃくしゃになったポケットティッシュを取り出した。彼女は膝立ちになり、指の股間に顔を近づける。
「待ってください、自分でやります!」 「動くな。……お前は、私が庇った『お姫様』なんだから、じっとしてろ」
聖はそう強がって見せたが、ティッシュを持つ指先はまだ小刻みに震えている。彼女は丁寧に、慈しむように、指のあそこに付着した血を拭き取っていった。
その光景は、どこか神聖で、それでいてひどくエロティックだった。 自分をリードしていた強気な先輩が、今は無防備な姿で、自分の一番恥ずかしい場所を甲斐甲斐しく手入れしている。
「……あ」
聖の指先が、汚れを拭い去ろうとして、敏感な亀頭の裏側にそっと触れた。 その瞬間、指の体内に再び熱い電流が走った。一度放出したはずのエネルギーが、彼女の献身的な仕草によって、急速に再充填されていく。
「……っ、ちょっ……お前、嘘だろ……!?」
聖が驚愕の声を上げた。 彼女の手の中で、先ほどまで大人しくなっていた指の「それ」が、脈打ちながら再び硬く、猛々しく反り上がったのだ。
「す、すみません……自分でも、どうしてか……」 「……信じらんねー。16歳って、こんな怪物なの……?」
聖は呆れたように息を吐いたが、その瞳にはどこか楽しげな、そしてさらに深い探求心が宿っていた。彼女は拭くのをやめ、再び硬くなった指の熱を、今度は掌全体で包み込んだ。
「ねえ、指。……ティッシュ、もう無くなっちゃった」
聖は濡れた瞳で指を見上げ、いたずらっぽく、そして最高に色っぽく微笑んだ。
「次は……口で綺麗にしてあげようか?」
指の喉が、再び大きく鳴った。 外はもう完全に日が落ち、倉庫の隙間から差し込む月光が、二人の二度目の情事の始まりを静かに照らしていた。
二度目の熱は、先ほどよりもずっと深く、そして濃密なものだった。
「さっきは……痛がらせて、ごめん。……聖」 「……いいって。それより、もっとちゃんと見せてよ。さっきは暗くて、よく分かんなかったから」
聖はそう言うと、自分から指の腰の上に跨った。月明かりに照らされた彼女の裸身は、彫刻のように美しく、そして指の触れる場所すべてが吸い付くように熱い。
「……あ、入った……。ねえ、指……さっきより、ずっと奥まで来てる……っ」
聖は指の胸に両手をつき、ゆっくりと腰を上下させ始めた。自分から快楽を探しに行くような、探求心に溢れた動き。指は下から突き上げる衝撃に耐えながら、彼女の揺れる胸や、快感に歪む表情を食い入るように見つめた。
「聖、すごい……。……きれいだ」 「っ、馬鹿……っ、こんな時まで……お前は……っ!」
聖は毒づきながらも、指の首を抱きしめて激しく腰を振る。自分たちの肉体がぶつかり合う湿った音だけが、静まり返った倉庫に響く。
「……ねえ、次は、あっち向いて……」 「えっ?」
聖の要望に従い、指は彼女を四つん這いにさせた。後ろから見る彼女の腰のラインは驚くほど細く、それでいて女性らしい丸みを帯びている。指は、自分の本能に従って、再び彼女の奥深くへと突き立てた。
「ひゃあ……っ、そこ……! 指、そこ……すごい……っ!」
背後からの衝撃に、聖はマットに顔を埋め、声を押し殺しながら喘いだ。指は彼女の腰を掴み、夢中で腰を動かす。初心者同士、手探りの動きではあったが、互いの体温を確認し合うたびに、快感の深度が増していく。
「聖……! 聖……っ!」 「ああっ……! 指……お前の名前……反則……っ、指先だけじゃ、なくて……中まで、全部……かき回されてる……っ!」
聖の言葉に、指の頭はさらに真っ白になった。 正常位、騎乗位、そして背後から。 不器用で、ちぐはぐで、けれど誰よりもお互いを求めた、狂おしいほどの探求。 二人はまるで、失われた時間を取り戻すかのように、何度も何度も、互いの体を貪り合った。
やがて、二人は同時に大きな絶頂を迎え、重なり合うようにマットに倒れ込んだ。
「……はぁ、はぁ……。お前……マジで、体力ありすぎ」 聖が、指の腕の中でぐったりとしながら、満足げな溜息をついた。その顔には、先ほどまでのヤンキーのトゲは一切なく、ただ愛しい男に抱かれた一人の少女の柔らかな表情があった。
「……16歳、なめないでください」 指が少し得意げに言うと、聖は「ふふっ」と楽しそうに笑い、彼の胸元に自分の鼻を擦り寄せた。
「……合格。……おめでとう、指。……卒業、できたな」
窓の外では、夜の風が倉庫の壁を優しく叩いていた。 誰にも言えない、二人だけの秘密の儀式。 指(ゆび)の16歳の夏は、一生消えない熱い記憶とともに、幕を閉じた。
翌朝、まだ校内が静まり返っている午前6時。 古びた備品倉庫のドアが、内側からわずかな隙間を開けて「ギィ……」と鳴った。
「……誰もいねーな。今のうちだ、行くぞ」
聖が慎重に周囲を見回し、指の手を引いて外へ躍り出る。 二人とも制服はシワだらけで、髪もボサボサ。それでも、朝日を浴びた二人の顔には、昨日の放課後にはなかった「共犯者」としての清々しさが宿っていた。
「……あ。聖、ネクタイ曲がってます」 「うっせ、お前だってボタン掛け違えてんじゃん。……ほら」
聖は慣れない手つきで指のシャツを直し、指もまた、聖の金髪についた埃を優しく払った。校門を出る直前、二人は一度だけ立ち止まり、視線を交わす。
「学校じゃ、今まで通りだからな。……変な目で見んなよ、指」 「分かってます。……でも、たまに、指先だけ触ってもいいですか?」
聖は一瞬、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたが、すぐに顔を真っ赤にして「……勝手にしろ」と吐き捨て、逃げるように走り去った。
数日後の放課後。 廊下は相変わらず生徒たちで賑わっていた。 指が友人と喋りながら階段を降りていると、前方から「狂犬」の取り巻きを連れた聖が歩いてくる。
「あ、聖先輩だ。……今日も怖えな」 友人が声を潜めて身をすくめる。聖はいつものように顎を上げ、周囲を威圧するようなオーラを纏って歩いている。指とすれ違うその瞬間、彼女は一度も視線を合わせなかった。
けれど。
すれ違いざま、指の右手に、熱い感触が走った。 聖の指先が、ほんの一瞬だけ、指の手のひらをなぞるように触れていったのだ。それは昨日、あの暗い倉庫で二人だけが知った、甘く深いリズム。
指が驚いて振り返ると、聖の長い金髪がふわりと揺れた。 彼女の耳たぶが、髪の間からほんのりと赤く染まっているのを、指は見逃さなかった。
(……卒業、できたんだな。僕も。……聖も)
ポケットの中で、触れられた場所がまだ熱い。 名前の通り、指先ひとつで伝え合える秘密の温度。 「恐怖のヤンキー先輩」と「平凡な16歳の1年生」の、誰にもバレてはいけない、けれど一生忘れられない恋が、そこには確かに続いていた。
倉庫での「事件」から数週間。 指にとって、放課後の旧校舎での時間は夢だったのではないかと思うほど、聖は学校では相変わらず「孤高の番長」として君臨していた。
そんなある日の下校途中。 指は運悪く、隣町のガラが悪い高校生三人組に絡まれていた。
「おい、一年。さっきからシカトしてんじゃねえぞ。その指、へし折られたいのか?」
狭い路地裏に追い詰められ、指は困ったように頬を掻いた。 実は、あの日以来、指の身体能力には変化が起きていた。聖との激しい「稽古」のせいか、あるいは男としての自信がついたせいか、目の前のヤンキーたちの動きが驚くほどスローに見えるのだ。本気を出せば、数秒で彼らを沈める自信があった。
しかし、無用な争いはしたくない。指が拳を握りかけた、その時だった。
「――おい。てめえら、うちの弟分に何やってんだ?」
路地の入り口に、夕陽を背負った影が立つ。 金髪をなびかせ、短ランのポケットに手を突っ込み、鋭い眼光を放つ聖だった。
「あ、あぁ!? 誰だてめえ……って、まさか、『狂犬の聖』かよ!?」 「噂の……本物かよ! 逃げろ、殺されるぞ!」
聖がただ一歩、踏み出しただけだった。 さっきまで威勢の良かったヤンキーたちは、蜘蛛の子を散らすように脱兎の如く逃げ去っていった。
静まり返った路地裏。 聖は「チッ、シケてんな」と吐き捨てると、指の方へゆっくりと歩み寄ってきた。
「……指。あんたさ、何ボーッとしてんの」 「あ、聖……。助けてくれて、ありがとうございます」
指が苦笑いしながら頭を下げると、聖は彼の目の前で足を止め、周囲に誰もいないことを確認してから、ふっと表情を和らげた。
「……嘘つけ。あんた、本気出せばあんな雑魚、一人で片付けられただろ」
聖は知っていた。 あの日、倉庫のマットの上で、自分を何度も翻弄し、最後には力強く組み伏せた指の「本気の腕力」を。16歳の少年が秘めている、底知れないポテンシャルを、彼女は身をもって体験しているのだ。
「そんなことないですよ。僕はただの、聖の『弟分』ですから」 「ふん、口だけは達者だな」
聖は呆れたように言いながら、指の制服の襟元を直し、そのまま指先で彼の喉仏を軽く撫でた。
「いい? 喧嘩は私に任せときな。……お前のその『指』は、私を可愛がる時だけに使いなさいよ。分かった?」
番長としての命令。けれど、その声は甘く、とろけるような熱を帯びていた。 指は、聖の耳たぶが夕陽のせいではなく、真っ赤に染まっているのを見て、悪戯っぽく微笑んだ。
「はい。……今夜、空いてますか? 先輩」
「……旧校舎の鍵、私が持ってる。……遅れんなよ」
聖は再び番長の顔に戻ると、颯爽と歩き出した。 その後ろ姿を追いかけながら、指は自分の指先をそっと握りしめる。 最強の彼女に守られながら、その彼女を一番奥まで知っているのは自分だけ。 そんな優越感に浸りながら、16歳の夏はまだまだ終わる気配を見せなかった。
放課後の旧校舎は、薄暗い静寂に包まれていた。 一階の備品倉庫。あの日以来、二人の「秘密の聖域」となった場所だ。
「……んっ、指……っ。おま、今日……ちょっと、強引……っ」
埃っぽいマットの上、聖は指に組み伏せられていた。番長として学校を闊歩する彼女の面影はどこにもない。乱れた金髪が床に散り、潤んだ瞳が指を見上げている。
指の指先は、すでに聖の制服の奥へと侵入していた。一度その快感を知ってしまった彼女は、指が触れるだけで、まるで熱病に浮かされたように吐息を漏らす。
「聖が、今日もかっこよかったから……」 「……馬鹿。喧嘩の時なんて、見んなって……っ」
指は、聖の耳たぶを甘噛みしながら、器用な指使いで彼女のブラウスのボタンを次々と解いていく。聖の体温が急上昇し、倉庫内の空気が甘く煮詰まり始めた、その時だった。
『――あれ? ここ、鍵開いてね?』
廊下から響いた聞き覚えのある声に、二人の心臓が跳ね上がった。
(……体育教師の、鬼頭(きとう)先生!?)
指と聖は、弾かれたように動きを止めた。 鬼頭先生は、校内一厳しいことで有名な体育教師だ。もしここで、番長の聖と一年生の指が、こんな乱れた姿で重なっているところを見つかれば、停学どころの騒ぎでは済まない。
『おかしいな、さっき閉めたはずなんだが……。おい、誰かいるのか?』
ジャラジャラと鍵束を鳴らす音が近づいてくる。足音はドアのすぐ目の前で止まった。
「……っ!」
聖は咄嗟に指の口を自分の手で塞ぎ、自分も息を殺した。二人は一糸乱れぬ密着状態で、暗闇の中に凍りつく。 外から差し込む廊下の光が、ドアの隙間から細く伸び、聖の露わになった肩先をかすめた。
ガチャリ、とドアノブが回される。
(終わった……!)
指は目を閉じた。だが、聖は違った。彼女は恐怖に震えながらも、指を自分の体で隠すように抱き寄せ、壁際の古い跳び箱の影へと必死に身を沈める。
『……気のせいか。ったく、建付けが悪くなってやがる』
数秒の沈黙の後、鬼頭先生はドアを外から力任せに閉め、カチリと鍵をかけた。足音が遠ざかっていく。
「…………ぷはっ!」
指が聖の手をどけ、大きく息を吐き出した。全身から嫌な汗が吹き出している。 しかし、安堵したのも束の間。指は、自分の上に重なっている聖の震えが、止まっていないことに気づいた。
「聖……? 大丈夫です、行っちゃいましたよ」 「……っ、死ぬかと思った……。心臓、止まるかと……」
聖は指の胸に顔を埋め、ぎゅっとしがみついてきた。その体は小刻みに震えている。番長として恐れられる彼女も、今はただ、秘密を暴かれることを恐れる一人の少女だった。
だが、極限の緊張から解放された瞬間、脳内には強烈なアドレナリンが駆け巡る。
「……ねえ、指」
聖が顔を上げた。その瞳には、恐怖を塗りつぶすような、さらに深い熱が宿っていた。 彼女は自分の指先で、指の唇をなぞった。
「見つかってたら、私たち、今頃ニュースになってたね。……そう思ったら、なんか……さっきより、熱くなってきちゃった……」
聖は自ら指のシャツを掴み、彼を再びマットへと引き倒した。 鍵をかけられた、完全なる密室。 恐怖が最高のスパイスとなり、今までで最も激しく、そして狂おしいものとなった。
「……入れば。……誰もいねーから」
聖はぶっきらぼうに鍵を開けると、指を自分の部屋へと招き入れた。
夏休み。猛暑日の昼下がり、指は「宿題を教える」という建前で、ついに聖のマンションを訪れていた。学校で見せる番長の姿とは違い、家での彼女はゆるいTシャツに短い短パンという、驚くほど無防備な格好をしていた。
「聖、お邪魔します……。わ、クーラー効いてて天国だ」 「あんたが来るから、さっきから最強にしてたんだよ。ほら、座れ。麦茶でいいだろ?」
通された聖の部屋は、意外にも整頓されていた。棚には少女漫画や可愛い小物が少しだけ並んでいて、彼女が無理をして「番長」を演じていることが、こんなところからも伝わってくる。
二人は並んでローテーブルに座り、ノートを広げた。 「この数学の公式、ここを代入すれば……」 「……あー、もう無理。文字が踊って見える」
開始十分。聖はペンを放り出すと、指の肩に頭を預けてきた。彼女の体からは、いつものタバコの匂いではなく、風呂上がりを思わせる石鹸の清涼な香りが漂ってくる。
「……指」 「はい、聖」 「……宿題、後回しでいいじゃん。せっかく、二人きりなんだから」
聖は指の腕を掴み、自分の胸元へと引き寄せた。Tシャツの薄い生地越しに、彼女の柔らかな体温が直接伝わってくる。
「……家なら、誰にも見つかる心配ないし」
聖は指の耳元で囁くと、彼をベッドの方へと押し倒した。学校の倉庫の硬いマットとは違う、ふかふかのシーツの感触。指は、上から覗き込む聖の瞳の中に、抑えきれない探求心が燃えているのを見た。
「聖、今日は……僕がリードしてもいいですか?」 「……生意気。……いいよ、お前の好きなようにしな」
指は、聖のTシャツの裾に手をかけ、ゆっくりと捲り上げた。エアコンの風が、熱を帯びた彼女の肌を冷やしていく。
「あ……っ、指……。やっぱり、お前の指、すごい……」
指先が、聖の柔らかい場所をなぞるたびに、彼女はシーツを掴んで背中を反らせた。倉庫での情事とは違い、時間を気にせず、お互いの体の隅々まで確かめ合うことができる。
「ねえ、指……。もっと、奥まで……全部、私に教えて……っ」
聖は指の首筋に顔を埋め、熱い吐息を漏らした。 初心者のぎこちなさは、もうどこにもない。 二人は真夏の午後の光を浴びながら、エアコンの効いた静かな部屋で、何度も、何度も、互いの熱を溶け合わせていった。
真夏の午後の気だるい空気が漂う、8月後半。 聖の部屋で、二人は火照った体を休めながら、シーツの上で寄り添っていた。
「……なぁ、指。夏休み、終わらなきゃいいのにな」 聖が指の胸に指先で円を描きながら、寂しげに呟く。番長の仮面を脱ぎ捨てた彼女は、指の前では驚くほど甘えん坊になっていた。
「そうですね。でも、新学期になればまた学校で会えますよ」 「廊下で触るだけじゃ、もう足りねーよ」
聖がいたずらっぽく笑い、指の唇を奪おうとした、その時だった。 ――ピロリン、ピロリン。 静かな部屋に、聖のスマホの通知音が連続して鳴り響いた。
「……誰だよ、空気読めねーな」 聖が不機嫌そうに顔をしかめる。聖は苦笑しながらスマホを手に取ったが、画面を見た瞬間、血の気が引くのが分かった。
それは、差出人不明のメール。添付されていたのは、数枚の写真だった。 そこには、夕暮れの路地裏で聖が指の襟元を直し、二人が見つめ合っている姿や、聖のマンションへ入っていく二人の後ろ姿が、鮮明に映し出されていた。
「……っ、これ……!」 「どうした、聖?」
指がスマホを覗き込み、絶句した。 最後の一枚には、真っ赤な文字でこう書かれていた。
『狂犬の聖も、年下の一年生に骨抜きか。ガッカリだぜ。……今夜、あの旧倉庫に来い。一人で来なきゃ、この写真を全校生徒の掲示板にブチ撒ける』
「……聖、これ、誰かが僕たちを見てたってことですよね」 指の指先が、怒りと不安で小刻みに震える。聖は唇を強く噛み締め、いつもの「番長」の鋭い瞳を取り戻した。
「……私のせいだ。私が、浮かれてたせいで……あんたを巻き込んだ」 聖はベッドから立ち上がり、床に散らばった服を無造作に拾い上げた。
「聖、一人で行くつもりですか!?」 「当たり前だろ。これは私の問題だ。あんたは関係ねえ、学校にも来んな」
聖の声は冷たかった。それは指を突き放すための、彼女なりの精一杯の優しさだった。 しかし、指は知っている。今の聖は、あの日倉庫で自分に抱かれて泣いた、ただの女の子だということを。
「……『一人で来い』なんて、罠に決まってます。聖を一人で行かせるわけないじゃないですか」 「指……!」
「僕の名前、忘れたんですか?」 指は、聖の震える手を力強く握りしめた。 「僕の指は、聖を可愛がるためだけにあるんじゃない。聖を傷つける奴を、叩き潰すためにもあるんです」
16歳の少年の瞳には、かつての弱々しさは微塵もなかった。 二人の秘密を守るための、本当の戦いが始まろうとしていた。
夜の旧校舎、備品倉庫の前。あの日、二人の物語が始まった場所は今、冷たい緊張感に支配されていた。
「……遅かったじゃねえか、聖。待ちくたびれたぜ」
倉庫の扉を開けると、そこには他校の番長・阿久津(あくつ)と、その手下たちが五人、不敵な笑みを浮かべて待っていた。彼らの手には、あの写真が映ったスマホが握られている。
「阿久津……。写真はそれだけか? 全部消せ。そうすれば、今日は見逃してやる」 聖が鋭い声で威嚇するが、阿久津は鼻で笑った。 「見逃す? 笑わせんな。学校中の憧れだった『狂犬』様が、こんなヒョロい一年坊主に股開いてたなんてなぁ。これバラされたくなかったら、俺たちの言うこと聞いてもらおうか」
阿久津の手下が聖の腕を掴もうとした、その時。
「……その汚い手、聖から離せよ」
背後から低く、冷徹な声が響いた。影から姿を現したのは、指だった。 「指!? 来るなって言っただろ!」 聖が叫ぶが、指は止まらない。彼の目は、いつもの穏やかな少年のものではなかった。
「はっ! 噂のチェリー坊主がお出ましだ。おい、こいつの指、一本ずつ折ってやれ」 阿久津の合図で、二人の大男が指に襲いかかる。
だが、次の瞬間。 指の体が、まるで風に舞う木の葉のようにひらりと揺れた。 「え……?」 殴りかかった男の腕を、指が「指先」でほんの少し掠める。ただそれだけだった。 「ぎ、ぎゃああああっ!!」 男は叫び声を上げ、自分の腕を抱えてのたうち回った。指先が神経の集まる一点を、ピンポイントで正確に弾いたのだ。
「なんだ、今のは……!?」 驚愕する阿久津たち。指は無表情のまま、次の一歩を踏み出す。
指にとって、人の体はもはや未知の領域ではなかった。毎日のように聖の肌に触れ、どこをどう触れば彼女が声を上げ、どこに熱が溜まるのかを「指先」で探求し続けてきたのだ。彼の指は、解剖学的な急所を、愛撫するように正確に捉えることができる。
「次は、君だ」
襲いかかる二人目の男に対し、指は拳を握らない。開いた掌、その五本の指をピアノの鍵盤を叩くように動かし、男の胸元と脇腹を突いた。 「がはっ……!?」 肺の空気を強制的に押し出された男が、白目を剥いて崩れ落ちる。
「て、てめぇ……っ!」 阿久津がナイフを取り出し、なりふり構わず突き出してきた。 聖が悲鳴を上げようとした瞬間、指の右手が閃いた。
阿久津の首筋、頸動脈のすぐ横に、指の「中指」と「人差し指」が深く沈み込む。 「あ、が……」 阿久津の力は一瞬で抜け、ナイフが床に落ちて乾いた音を立てた。
指はそのまま、崩れ落ちる阿久津の胸元からスマホを抜き取ると、指先で器用に操作し、クラウド上のデータも含めて全ての写真を完全に消去した。
「……聖、終わりましたよ」
指が振り返り、いつもの優しい笑顔を見せると、聖は腰を抜かしたようにマットに座り込んでいた。
「あんた……マジで何者だよ。私の知ってる指(ゆび)じゃねえ……」 「聖に教わったんですよ。……本気で相手を『知ろう』と思えば、指先一つで何でもできるって」
指は聖に歩み寄り、戦いで少し汚れた彼女の手を優しく取った。 「帰って、宿題の続きしましょう。……今度は、僕が聖に『特別授業』してあげますから」
月明かりの下、最強の番長を完膚なきまでに守り抜いた16歳の少年は、愛おしい彼女を抱きかかえて夜の校舎を後にした。
阿久津たちとの決戦から数日。学校には、ある「噂」が駆け巡っていました。 それは、他校の不良グループが旧校舎で壊滅し、その場には「狂犬の聖」と、彼女が連れていた「一人の一年生」がいたというもの。
真実は闇の中ですが、その日を境に二人の関係は新しいステージへと進んでいきました。
放課後の賑やかな廊下。 聖は相変わらず、取り巻きの不良たちを従えて風を切って歩いていた。すれ違う生徒たちは、戦慄の「阿久津壊滅事件」を聞いて以来、今まで以上に彼女を恐れ、道を空ける。
そこへ、教科書を抱えた指が向こうから歩いてくる。 かつてなら、誰もが見向きもしない「ただの一年生」だったが、今の彼はどこか雰囲気が違っていた。背筋が伸び、その指先はいつも静かに、確かな自信を湛えている。
「あ、指だ……」 「聖先輩の『お気に入り』なんだろ? 逆らわない方がいいぜ」
周囲がひそひそと囁く中、二人は廊下の真ん中ですれ違う。 聖はいつもの鋭い視線を正面に向けたまま、止まることなく指の横を通り過ぎようとした。
だが、すれ違いざま。
聖はポケットから出した左手を、そっと指の右手に這わせた。 衆人環視の中、指先と指先がほんの一瞬、絡み合う。それは阿久津たちを沈めたあの「最強の指」と、指にすべてを委ねた「聖の指」が、再び愛を確かめ合う合図だった。
「…………っ」
聖の口角が、ほんのわずかに、本人にしか分からない程度に綻ぶ。 指もまた、彼女の熱を手のひらで受け止め、満足げに微笑んだ。
放課後の旧倉庫。 今はもう「戦場」ではなく、鍵をかけられた二人の「城」だ。
「……ねえ、指。学校中で、私たちが付き合ってるって噂になってんぞ」 聖がマットの上に座り込み、制服のネクタイを緩めながら呆れたように言った。
「いいじゃないですか。『公認』ってことで」 「バカ言え。番長が一年坊主とデキてるなんて、示しがつかねーよ」
聖はそう毒づきながらも、自分から指の膝の上に頭を乗せた。 指は、もはや迷うことなく、彼女の金髪に指を差し込み、優しく頭を撫でる。その指使いに、聖は猫のように目を細めて吐息を漏らした。
「……でも、まあ。あんなことがあった後だしな。……責任、取れよ? 卒業させてやったんだから」 「もちろんです。聖が卒業した後も、僕がずっと、その……『指名』され続けますから」
「……っ、お前、本当……エロいこと言うようになったな、16歳のくせに」
聖は顔を真っ赤にして指の胸に顔を埋めた。 指先ひとつで始まった、不器用で、けれど誰よりも熱い夏。 16歳の童貞卒業から始まったこの物語は、最強の彼女と、彼女を裏から支配する「最高の指」を持つ少年の、終わらない共犯関係へと続いていく。
「……指」 「はい、聖」 「……続き、しよ。今日は、朝まで帰さないから」
夕暮れの光が差し込む倉庫で、二人の影は再び一つに重なり合った。
(完)